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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
乙女ゲーとSLGの間で

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50 東方騎馬民族討伐戦 その1

 極東大帝国との交易路の要衝都市タリルカンド。

 オークラム統合王国東の玄関であり、東方騎馬民族との戦いにおける最前線。

 ここで手に入らぬものはないと言われるほど栄えたこの街に、私は足を踏み入れる。


「エルスフィアを一時的に預かる者で世界樹の花嫁候補、エリー・ヘインワーズ太守代行とその騎士団!

 統合王国盟約に従いタリルカンド辺境伯の出陣に参加させて戴く!!

 お取次ぎを願いたい」


 かつての私はこの街に入る時は奴隷ですらなかった。

 この街を出た時は、華姫として出て行った。

 そして再度この街に来た時は、兵を引き連れた世界樹の花嫁候補兼太守代行としてだ。

 己の運命をこれほどおかしく感じた事はない。


「どうしました?

 お嬢様?

 お笑いになって何か楽しいことでも?」


「なんでもないわ。

 アルフレッド。

 行きましょう」


 護衛についていたアルフレッドに笑みを見られていたらしい。反省。

 今回は戦場に行くというよりも外交的な面を強めた結果、お嬢様らしくドレス姿である。

 魔法があって女性も戦場に出るのがある意味当たり前のこっちの世界、それ相応の装備があるのが笑える。

 ドレスそのものはジャイアントスパイダーの糸製で恐ろしいほどの弾力があり、ボタンが魔石、飾りがミスリルなんてゲテモノドレスだったりする。

 で、それにミスリル製コルセット(もちろんきつくないやつだ)に同じくミスリル製胸当て(サイズ的特注品)を重ねるという極み仕様。

 重さ?

 魔法で何とかしますし、私がいた世界のお貴族様のドレスの重さとくらべたらとてもとても。

 アルフレッドは皮鎧に一式に鎖帷子を重ね、皮のバックラーにロンクソードという感じ。

 金属製装備もと考えたが、騎兵戦が中心になる東部では機動力の方が大事だったりする。

 あと、装備の補修は金属製からとたんに修理費用が跳ね上がるので、継続的に装備が補修できるレベルで冒険者の技量が分かる。

 できるやつは、肩にいるぽちと五枚葉従軍章と大勲位世界樹章と持っている世界樹の杖でやばいやつだと感づくだろうが。

 

「お待ちしておりました。

 エリー様。

 城にて辺境伯がお待ちでございます」


 うん。

 私への相手で出るとは思っていたけどさ。エリオスが。

 となりのちっぱい、じゃなかったマリエルさんよ。

 もーすこし愛想よくしてもいいと思うのだが。

 もちろん口にするつものはないが。

 あ。こっちを見ようともしないでやんの。

 なお、二人の装備は騎兵装備でチェインメイルとアーメットまでは一緒。

 エリオスは腰にショートソードをぶら下げているいるが、マリエルはレイピアで彼女の背中にはショートボウと矢筒が。

 あとちっぱいよ。特注胸当てを見て睨むな。

 兵科として騎兵は重騎兵・軽騎兵・騎兵とこのゲームでは分類される。

 重装備で槍を持って突撃するのが重騎兵、軽装で弓を撃つのが軽騎兵、で盾持ち剣持ちのどちらでもないのが騎兵という訳だ。

 東方騎馬民族は全員軽騎兵と騎兵みたいなもので、重騎兵はこの地ではあまり役には立たない。

 とはいえ、南部の魔族戦では穀倉地帯ゆえに平原が広がって、重騎兵大活躍だったりするのだが。

 また、こいつらがクラスチェンジして魔法騎兵や隠しアイテムの銃を入手する事でできる銃騎兵なんてのができたりする。

 竜騎兵?本物が居ますしおすし。

 話がそれた。


「今回、エルスフィア騎士団から騎士を二人連れてきております。

 兵士はおよそ600人。

 予備としてお使いください」


 エルスフィア騎士団の騎士二人を連れての参陣で、北東部という境界線の場所がら、歩兵300、弓兵200、騎兵・軽騎兵100という編成である。

 『ザ・ロード・オブ・キング』における地域ごとの兵種の特徴だが、北部は森林地帯な事もあってレンジャー系の弓兵が強く、東部は騎馬民族とやる事もあって軽騎兵が強かったりする。

 なお、海に面している西部は海軍系に一日の長があり、南部は魔族と接しているので魔法兵が強い。

 さらに、魔獣とかドラゴンとか魔族や亜人種等が入ってくるので、ユニット編成で楽しめるというのが『ザ・ロード・オブ・キング』の売りの一つだったりする。

 タリルカンド辺境伯はオークラム統合王国東方守護の要であり、統合王国随一の騎士団を保持していた家だった。

 だからこそ、タリルカンド滅亡後にエリオスを旗印に転戦して復興を成し遂げたと言ってもいい。


「父上は貴方を副将格に据えたいみたいですよ」


「勘弁して下さい。

 寡兵で副将など妬まれるだけです」


 エリオスの軽口に私は即座にお断りを入れる。

 今回の出陣とて本当は出る気は無かったのだ。

 オークラム統合王国は周囲の蛮族に対抗するための諸国家連合が母体になっている。

 その為、軍事行動については中央からの軍派遣とは別に、地域のボス、つまり今回のタリルカンド辺境伯からの参陣要請という形で軍を派遣する事が可能だったりする。

 これが中央と地方の命令が同じ方向ならば問題が無いが、内乱の果てに統合王国が崩壊した時、見事に相反する命令が出て崩壊の一因になった。

 そもそも、東部諸侯が大長城構築計画なんてものに乗り気だったのは、東方騎馬民族という全部騎兵みたいな連中相手に何度も煮え湯を飲まされたからだ。

 城壁があれば、少なくとも馬で超えられない。

 城壁が破れることがあっても、彼らの出入口を制限できる。

 平原での戦いで馬の機動力に翻弄され続けた東部諸侯の悲願と言ってもいいだろう。


「おい。

 なんでお嬢様がこんな所にやってきているんだ?」

「あれだろ。

 エリオス様の情婦」

「馬鹿!

 あのマリエル様がそれを許すわけ無いだろうが!!」

「よく見ろ!

 あのお嬢五枚葉従軍章つけているぞ!!」

「まじかよ!

 じゃあ、あのお嬢、軍団長かよ!?」

「杖持っているし、あれ魔術師だろ」


「……あいつは後で〆る」

「戦前だからお手柔らかにね。マリエル」


 城内の訓練場の横を通った時の兵たちのつぶやきである。

 エリオスがさらりとたしなめるが、これで戦場では私以上に能力を発揮するのがこのちっぱいである。

 戦場というのは実力がものをいう世界。

 で、その実力だが、この時点で私とエリオスの間に入ってバリバリ警戒していたり。

 それにアルフレッドが気づいていないあたり、マリエルとアルフレッドのレベル差というのが分かってしまう。


「こちらの部屋です」

「感謝を。エリオス殿」

「では。

 兵たちへの訓練があるので」


 挨拶の後でエリオスがマリエルを連れて後にする。

 それを確認した警備兵が扉をゆっくりと開けた。

 

「ようこそおいでくださった。

 世界樹の花嫁に来て頂けるとは望外の喜び」


 タリルカンドの城の広間にずらりと騎士達が並ぶ。

 北部要衝タリルカンド。

 その城内で最も勢をこらした部屋は見栄だけでなく、政治的会合に使われるからこれだけ豪華なのだ。

 この参陣の謁見にはあえて一人で来た。

 それが度胸あると評価されるのを狙ってのことだ。

 なぜならば、この謁見は今後の軍事行動を決める会議も兼ねているからだ。

 東部諸侯勢ぞろいというのは中々壮観である。

 その中を一人静かに進んで淑女の礼にて挨拶する。


「盟約に従ったまでのこと。

 エルスフィアを一時的に預かる者で世界樹の花嫁候補、エリー・ヘインワーズ太守代行とその騎士団。

 統合王国盟約に従いタリルカンド辺境伯の出陣に参加させて戴きます。

 エルスフィア騎士団から騎士を二人に兵士はおよそ600人。

 予備としてお使いください」


「それは困る。

 その五枚葉従軍章が泣いてしまうのでな。

 私の側に居て、補佐をお願いしたいところなのだが?」


 全身フルプレートをつけたこの老将は老いを感じさせない。

 なお、タリルカンド辺境伯は重騎兵だったりするのだが、戦場で遅れを取った事がないという。

 副将は無理があると辺境伯も分かっていたのだろう。

 軍師ポジションに私をもってきた。

 これは断るのは難しい。


「多大な評価感謝いたします」


「なんのなんの。

 貴方に厄介事を押し付けて安心して戦場に出る策ゆえ。

 感謝などいりませぬぞ」


 それを堂々と言うかい。この人は。

 私はそのままタリルカンド辺境伯の隣につく。

 それを見て低い声で辺境伯は今回の出兵の目的を告げた。


「東方騎馬民族が収穫を狙って、南下を始めておる。

 南部との境界近くの都市サイアからの救援要請を受け、東方騎馬民族を叩く。

 我らにとっては慣れた戦いだが、此度は世界樹の花嫁候補生が見ておられる。

 見とれて失態などせぬように」


 さらりと私をだしに使った冗談でこの場を和ませる。

 私も笑顔を作って追随するが、その心は晴れない。

 今回の参陣を決めた理由がこれなのだ。

 この戦いで、タリルカンド辺境伯は負傷し、その傷が元で亡くなってしまう。

 内乱時、代替わりをしたタリルカンド辺境伯は東部諸侯の制御に失敗。

 東方騎馬民族に舐められて主導権が奪えず、ついに東方騎馬民族の侵入を許してしまい統合王国崩壊が決定的になったのだ。

 そうでなければ、エリオスの嫁にと粉かけてくるタリルカンド辺境伯の所に誰が行くものか。 


「集まった兵は、タリルカンド騎士団3000、東部諸侯騎士団6000、諸都市騎士団10000弱。

 もろもろ入れておよそ20000。

 南部諸侯からも救援が来るらしいが、現地に着かねばわからぬという。

 敵はマーヤム族でおよそ数万。

 勝てぬ相手ではないが、気を抜かぬように」




「お疲れ様です。お嬢様」


 会議が終ると、部屋の外で待機していたアルフレッドが私に駆け寄る。

 あ。セリアも一緒に来ているのは、この鎧ドレスの着付け担当だからだ。

 サイモン達も後ろにいるので、与えられた部屋に戻ると今度は身内の会議となる。


「で、俺達は何をすればよろしいので?」


 サイモンが慇懃無礼に私に語りかける。

 着替えのためカーテン越しに私は返事を返した。


「連れてきた部隊の指揮はサイモンに任せるわ。

 私は軍師みたいなものだから、裏方で色々悪さをするわよ」


 サイモンに直轄兵力はない。

 私の護衛という表向きの理由の他に、裏切りを恐れてという裏の理由もある。

 胸あてとコルセットを外す。

 やっぱりきついわ。これ。

 セリアが普通のドレスを用意して私を着替えさせるためにカーテン越しの会話が続く。


「まずは荷駄の確保ね。

 武器や食料の確保。

 エルスフィアから更に持ってくる必要があるわね。

 次に近隣傭兵をまとめて雇用しちゃいましょう。

 軍事行動は一時的に治安を悪化させるわ。

 その悪さをするやつはこっちが雇えば悪さはしない。

 場合によっては、一度戻ってアリオス王子に話を通しておくわ」


 私は知っている。

 経済的窮乏に苦しむ南部諸侯が兵をほとんど出さない事を。

 マーヤム族がその後東方騎馬民族を纏め上げて統合王国を崩壊させる大族長の初陣で、タリルカンド辺境伯を傷つけたのがその彼だという事を。

 そして、『世界樹の花嫁』では、これはカバーストーリーとしてちらりとしか触れられていない事を。

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