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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
花嫁候補の奮闘

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44 今は無き王国の記憶 その5

 問題を解決する場合、問題を分解して解決するという方法がある。

 複数に絡み合った問題で一括処理が出来ない場合、それをばらすことで問題そのものを理解して、解決の優先順位をつけるのが目的である。

 鉱山都市ポトリの統治上の混乱は以下のように解決が図られたのである。


1)鉱山閉鎖


 何で鉱山を閉めたのかというと、ダンジョンハザードによってポトリの町に被害が出ることが一番まずいのだ。

 そこで止められなかったら周辺都市にも被害が出かねない。

 で、とりあえずの時間稼ぎとして鉱山の坑道入り口ほぼ全てを塞ぎ、物理的に鉱山を閉ざしてモンスターが町を襲撃しないようにした。

 主要坑道入り口数カ所を残して落盤を起こして坑道そのものを塞ぎ、入り口には見張りの兵士をつける。

 更に抜け駆けを抑えるために、この見張りは近衛騎士団と法院衛視隊と冒険者の混合パーティーにするという念の入れよう。

 これで最低限の時間を稼ぐことに成功する。


2)アンセンシア大公妃という頂点の存在による統治組織の正常化


 お飾りだろうが、男漁り大好きエターナルビッチだろうが、書類に判子を押してくれるならば統治組織は正常化する。

 事務処理は全部私達にぶん投げたのだが、その正当性を保証してくれるのは今日も朝昼夜違う男を連れ込んでハンティング中のアンセンシア大公妃のおかげだから文句も言えず。

 集まった北部諸侯は北部諸侯で誰をポトリ伯にするかで暗闘しており、最終決定権を握っているアンセンシア大公妃の寝室に候補者のイケメンを次々に送り込んでいるが、さすがエターナルビッチは食べた男の量が違う。

 言質を与えること無く、事態の解決まで我々に委任しやがったのである。

 厄介事が付随するが、迷惑料こみで考えると黒字になる辺りこのエターナルビッチの政治感覚は侮れない。


3)鉱山再開を目指しての坑道内のモンスター退治


 で、ここまで準備してからやっと坑道をうろつくモンスター排除にとりかかれる。

 ここで注意したいのが、あくまで鉱山再開が目的であり、遺跡探索でない所。

 遺跡がらみは近衛騎士団の管轄と明確に決まっているからで、抜け駆けをするならばこのタイミングでしかありえない。

 それを知った上で、私は徹底的にこの抜け駆けを許さなかった。

 冒険者達の依頼をポトリの冒険者ギルドで一括手配し手綱をつけ、探索班・回収班を編成する時は必ず近衛騎士団の人間が入るようにして遺跡内に入らせないようにしたのだ。

 それでも抜け駆けする輩は出るのだが、少なくとも返り討ちにあう冒険者は格段に減った。

 冒険者の多くはここが儲かるから来ている訳だが、よけいな命のリスクを背負ってまで遺跡に突貫する無謀な輩は少ないのだ。


 これらの手段によって全四層の宝石鉱山を制圧するのに要した時間はおよそ十日間だった。

 これを早いと見るか遅いと見るかは人それぞれだろう。

 なお、回収された遺体は56体、モンスター化したのは237体。

 投入した人員は延べ人員で3000人を超える。

 どれだけダンジョンハザードが厄介で大規模になるかの一例である。


4)ポトリ伯の処遇

 現状はアンセンシア大公妃が代理という形でポトリの統治組織の上に座って行政を動かしている。

 これを正常化する為には、ポトリ伯を取り替える必要があった。


「ねぇ。

 法院への弾劾は待ってもらえないかなぁ」


 笑顔でフリエ女男爵におねだりするアンセンシア大公妃だが、その目はまったく笑っていない。

 法院での弾劾を経て、新ポトリ伯を法院で承認しないと新ポトリ伯が椅子につけないのだが、同時に他の諸侯から『何やっていた』と集中砲火を浴びる。

 それを回避したいのだろうが、フリエ女男爵の口調は冷たい。


「待つ必要がある理由がありませんが」


「次の人間用意するけど、この騒動が終るまで私が居るし。

 だったら、急ぐことないじゃない?」


「……」


 アンセンシア大公妃がこういう事を言いだしたのも理由がある。

 法院承認を回避して新ポトリ伯を選出させたいのだ。

 法院とて暇ではなく、親から子等の一般的相続については法院への書類提出で片付けることができる。

 アンセンシア大公妃という地域諸侯の親玉がでかい顔できる理由がこういう所にもある。

 ポトリ伯を廃嫡した場合、血脈の祖である彼女に爵位が返るので、円満な相続が行えるのだ。

 フリエ女男爵が弾劾の書状作成の手を止めてアンセンシア大公妃に尋ねる。


「ポトリ伯の処遇は?」


「病死か行方不明か。

 どっちにしろ、表に出すつもりは無いわ。

 で、良かったらポトリ伯夫人の地位をあげるわよ」


 こういう所で私達を絡め取ろうとするからこのビッチはただのビッチではない。

 貴族夫人。

 特に領地を持つ貴族夫人というのはこの世界の多くの女性の夢の終着点だ。

 そして、貴族や富豪の飾り華である私達華姫にとって、絶対にたどり着かない場所でもある。


「大公妃殿下。

 私は華姫ゆえにその座は……」


「子が産めない体も治してあげる。

 アリオス殿下もいつまでも貴方を飾るとは限らないでしょう?

 全部私が面倒をみてあげるわ」


「……」

「……」


 フリエ女男爵だけでなく、横で聞いていた私も押し黙る。

 これは引き抜きではない。

 引き抜きの名を借りた脅迫だ。

 場合によってはアリオス王子と一戦しても構わないという裏の意味を、私とフリエ女男爵は確実に理解した。

 ポトリ伯は流行り病にて両親と共に死亡という形で歴史の改竄が行われ、この騒動の後にアンセンシア大公妃の愛人の一人が新ポトリ伯としてこの地に着任する事になる。




「ようこそいらっしゃいました。殿下。

 殿下のお手をお借りする、私の不手際をお詫び致します」


「太守代行は与えられた権限の中で最善を尽くしました。

 それはアンセンシアの名前で私が保証いたしますわ」


「お久しぶりです。伯母上様。

 元気そうで何より。

 今回の災害ですが、王都でもそろそろ話題になってきているので、こうして出向いた次第」


5)アリオス王子の出馬要請と鉱山再開


 ここまでお膳立てした上で、アリオス王子の出馬を私とアンセンシア大公妃の連名で願う。

 美味しい所総取りだが、それで次期国王に箔がつくのならば十二分におつりが来る訳で、北部諸侯・冒険者・ポトリ市民注視の中、飛竜に乗って颯爽と現れたアリオス王子とグラモール卿に歓声が注がれる。

 もちろんこれだけの為に来てもらった訳ではない。


「諸君!

 この地に遺跡があり、その遺跡によって鉱山に被害があった事は王都にも届いている。

 その為、この事態に世界樹の花嫁候補生のエリー嬢・ミティア嬢、アンセンシア大公妃の尽力によって被害を最小限に抑えることに成功した!!

 遺跡を管理する責務を持つ近衛騎士団とアリオス・オークラムの名前において皆に宣言しよう!

 宝石鉱山の再開と、二度とこのような災害を起こさないように近衛騎士団が中心になってこの問題を解決することを!!!」


 アリオス王子がやってきて、近衛騎士団のトップが明確に遺跡探索と制圧に乗り出すというアピールを前提に、宝石鉱山を再開させるのだ。

 採掘に必要なドワーフ族の不信感の解消の為に、アリオス王子とアンセンシア大公妃が頭を下げることでやっとこちらの不信感を解いてもらい鉱山は再開される。

 政治的にはこれで解決なのだが問題は実利の方で、こっちは激しく関係者の利害がぶつかっていたのである。




問題その一

 ポトリ直轄化を狙う王室とそれを阻止しようとする北部諸侯


「法院の方でポトリの騒動が囁かれ始めています。

 早く片付けて頂かないと、介入に踏み切りますよ」


「で、宝石鉱山と遺跡を丸ごと王室のものにする訳?

 北部諸侯は黙っていないわよ。

 ここの収入は西部諸侯から穀物を買う貴重な収入源の一つ。

 これ以上北部が弱ると、西部諸侯の言いなりになるけどいいのかしら?」


 さっきの政治ショーの後、領主館の廊下でのアリオス王子とアンセンシア大公妃の会話である。

 なお、笑顔のまま双方まったく目が笑っていない。

 アリオス王子が来る前に私とフリエ女男爵を脅したのはこれが分かっていたからだろう。

 今でも北部諸侯は西部諸侯に頭が上がらないのだが、それでも材料があるのと無いのでは交渉の難易度が桁違いに変わる。

 ましてや生きた遺跡なんてのは、北部諸侯にとって転がり込んできたジョーカーである。

 手放したくないのは当然だろう。



問題その二

 近衛騎士団と法院衛視隊の現場争い


「以後は近衛騎士団が中心になって、遺跡の問題については対処するつもりです。

 法院衛視隊は、諸侯の監視およびポトリの治安維持に専念して頂きたい」


 生きた遺跡という事もありアリオス王子の出馬もあって、近衛騎士団はこの地に大量の人員を投入することになった。

 その為、現場の主導権を巡って他の勢力の排除にとりかかろうとしていた。

 何しろ、才能のある諸侯のボンボンの集まりだから、傲岸不遜な輩が多い。

 冒頭の言葉は近衛騎士が法院衛視隊に浴びせた言葉で、護衛騎士のサイモンが元職場に頼まれて正式にアリオス王子に抗議する事態に発展していた。

 法院衛視隊ですらこれだから、諸侯の中で南部と同じぐらい窮乏している北部諸侯や庶民出や華姫出である私達世界樹の花嫁への排除はあえて言うまでもない。


「いいじゃない。

 お手並み拝見といきましょう」


 無碍に扱われて憤るアルフレッドやセリアを抑えて私は気にするふうでもなく言ってのける。

 メリアスとのゲートも開いたので、私達は学校生活に戻る事になる。

 これで、終わってみれば本当に良かったのよ。まじで……



問題その三

 遺跡制圧の失敗


「全滅!?」


 驚き半分、案の上半分で私が声をあげるのにアリオス王子が気づいて苦笑する。

 目は口より物を語る。

 『分かってて手を引いたな。われ』という無言の圧力を私は知らないふりをして話を進める。


「王室最精鋭の近衛騎士団が全滅ですか。

 遺体の回収には成功したのですよね?」


 この場合の全滅はみんなのイメージする全滅ではなく、軍事用語の全滅で部隊の三割に損害を負って作戦続行不能に陥った事を指す。

 アリオス王子が大見得を切った以上最精鋭を送り込んだはずなのだが、それが返り討ち。

 さすが裏ボスである。


「ええ。

 回収には成功したのですが、その段階でも損害が出て。

 法院衛視隊にも手伝ってもらったのですが、それでも追いつかず……」


 あれだけ傲岸不遜を働いていた近衛騎士団単独で相手をするには不利と悟って法院衛視隊に声をかける寝技を誰がこの王子に仕込んだのやら。

 近衛騎士団の面子丸つぶれだが、それでも目的達成のためならばと私達にまで声をかけるアリオス王子の寝技に私も苦笑するしかない。

 この切替と冷徹さはアリオス王子の才能であり、王として育てられた証でも有る。


「で、王子自ら出馬という訳で、使える人間を引き抜きにかかったと」


「はい。

 つきましては、貴方に参加をお願いしたいのですが?」


 ほらきた。

 露骨に私をスカウトに来るあたり、この人は無能では絶対にない。


「優秀な人は多くいるでしょうに、何故私を?」


「貴方はこの国でも有数の魔術師だ。

 しかも、しがらみが少なく、私が動かしやすい」


 事務的な口調で言ってのけるが、私にも色々と政治的束縛があるのですが。

 それを無視するというか無視できると自負するあたり、この人は自分の才能の権限を読み外さない。


「王子が中心となって動くのでしょうが、他に誰を?」


 あえて駆け引きする訳でもないが、一応は聞いておこう。

 こういう場合、私もミティアも巻き込まれるだろうから。


「私の所は、グラモールにサイモン卿。

 アマラに貴方と冒険者のシアさんが」


 あかん。

 向こうは最大限の譲歩をやってきやがった。

 私の護衛にサイモンをつけ、シドではなくアマラを指名したのも私への配慮なのだろう。

 その代わり、シアさんという超特大の爆弾の相手をしろと仰っているのですが。この人。


「シアさんですか……」

「……」


 お願い。

 何か話してというか話せよ。おい。

 露骨に視線を逸らすんじゃねぇ!


「ミティアさんにも参加してもらうのですが、キルディス卿、シド、ヘルティニウス司祭、フリエ女男爵でパーティを作って貰う予定です。

 他のパーティは近衛騎士団と法院衛視隊と北部諸侯の選抜から編成する予定です。

 どうなさいましたか?」


「いえ。何も」


 私の表情の変化に気づいたアリオス王子が探りを入れるが、私は知らないふりをする。

 気づけないだろう。

 アルフレッドを外された事を、つまり、彼のレベルがそこまで上がっていないと分かって喜んだ事を。


「わかりました。

 で、いつから潜るのですか?」


 私の質問にアリオス王子はあっさりとそれを言った。


「明日」


 つまり、私以外全部片付けたという事ですね。わかります。

 こうやって外堀埋めてからやってくるからこの人たち悪いんだよなぁ。

挿絵(By みてみん)

11/15 春日木雅人先生から戴いた絵を後書きに追加。

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