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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
花嫁候補の奮闘

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43 今は無き王国の記録 その4

 鉱山都市ポトリの統治上の混乱は、冒険者シアことアンセンシア大公妃の出現によって急速に回復に向かうことになった。

 統治組織というのは官僚機構であり、その責任の最終所在が分からないと途端に働かなくなるという宿命的欠点を抱えているからだ。

 だから、彼らのケツを持ってやるボスが出ると途端に働き出す。

 アンセンシア大公妃の政治力の源泉の一つは、エルフ出身で北部諸侯の血脈の祖という青い血が問答無用に責任を背負える所にある。


「はい。

 これでいいでしょ?

 まったく、ただの冒険者としてやってきたのに何で仕事をする事になっているのかしら?」


 彼女のサインの入った書類に文句をつける輩は少なくとも北部諸侯の中には居ない。

 何しろ、北部諸侯の全てのグランド・マザーであり、御年……


「あら?

 何考えているのかしら?」


 こういう勘の良さも含めてこの人はバケモノである。

 なお、化け物呼ばわれしても怒らないが、『お婆さん』と呼ぶと逆鱗に触れるので注意。

 こちらが首を横に振るのを見た御年500才以上のピチピチ『おねーさん』ことシアさんの視線にも負けずに、フリエ女男爵は彼女のサイン入り書類を手に取る。


「これで近衛騎士団の着任が可能になります。

 法院衛視隊は既に活動をしていますが、その統括は大公妃殿下にしていただきたく」


「いやよ。面倒くさい。

 あの娘にでもさせなさいよ」


「申し訳ございません。大公妃殿下。

 私はエルスフィア太守代行の地位についておりまして」


 こうやって責任のたらい回しをするが、最期はアンセンシア大公妃がため息と共に折れる。

 良くも悪くもこの町は彼女のシマである以上、そのケツ持ちは結局彼女がしないといけないからだ。

 なお、シアさんの設定暴露は、サイモン・セリア・キルディス卿以外には知らせないようにしている。

 まあ、シドやヘルティニウス司祭あたりは気づくかもしれないが、彼らは空気が読めるだろうからそのまま放置。

 で、空気がよめない上に致命的に政治センスが無いミティアにはあえて何も言わないことにした。


「だってその方が面白いでしょ?」


 あーそーですか。

 もちろん、ミティアの設定--実は王女様--は知っているのだろうが、その楽しみまで取って仕事をさせるほど私達は怖いもの知らずではない。

 緑の髪を揺らしながらプリプリと怒るふりをするエルフというか、エルフの上位種であるハイエルフの中でも頂点の一人、ドライアドが彼女の正体だったりする。

 エルフという種族は森の民であり、森の精霊とも呼ばれていたりする精霊に近い種族だったりする。

 そんな彼女たちは、己の魔力の源を森に求める為に契約樹と呼ばれる木と契約する。

 要するに、その森にいる限りエルフは無敵に近いが同時にその森から離れると当然その加護を失う訳で。

 金髪色白がエルフの元の姿だが、契約樹を持たないエルフは魔力不足からか銀髪褐色肌になる。これがダークエルフである。

 ついでだが、ダークエルフ達が魔力不足から人の精を吸い取るように進化した連中の事をサキュバスと呼ぶ。

 で、彼女の契約樹というのが、北部大森林地帯のそのまた奥地にある世界樹で、この北部森林全ての力の源だったりする。

 エルフにあるまじきその万緑の長髪は世界樹の加護を得ている証拠で、実は葉緑体持ちだから食事すら必要としない。

 だからこそ、彼女は北部においては無敵であり、同時に王都に出てゆかなかった最たる理由がこれなのだ。

 同時に、これが現在の北部諸侯の苦境である食料不足を招いている。

 要するに、開発--森を伐採--する事ができないのだ。

 そのくせ、世界樹の加護は発動しているから北部は人口が多く、北部諸侯が頭を下げて西部諸侯から穀物を買う羽目になっている。


「それはともかく、こちらにいらした理由をお伺いしたいのですが?」


 こんな状況で、冒険者としてやってきたと本人が言っても誰も信じない。

 フリエ女男爵の質問はアリオス王子の飾り華としての背景から尋問に近い口調で、それだけこのポトリを取り巻く環境が緊迫化している証拠でもあった。

 もっとも、アンセンシア大公妃からすればアリオス王子もフリエ女男爵も、ケツの青い子供のじゃれつきにしか思えないのだろうが。


「まあ、遺跡がらみってのが本音。

 ガーディアンが出てきたからあの遺跡が生きているのは分かったし、こっちもメリアスの世界樹を放置できなくなってきたのよ」


 メリアスの世界樹は、古代魔術文明期に古代魔術王国とエルフが共存の契約を結んだ証としてエルフから渡された世界樹の若木だったりする。

 それを、豊穣の加護がでる魔術装置に作り変えて古代魔術王国は空前の繁栄を遂げたのだが、古代魔術文明の崩壊と共にその技術の多くが散失してしまっていた。

 稀代の精霊使いとして頂点にいる彼女を持ってしても、メリアスの世界樹で何が起こっているのか分かっていないというのが実情だったりする。

 元になる世界樹はエルフの森にあるが、古代魔術王国が魔法で改造した世界樹に関わった魔術師は姿を消すか隠れた為にその情報が断片しか伝わっていないのだ。

 だが、近年の不作傾向なのにエルフの森の世界樹の加護から出生率が高く過剰人口を抱える北部諸侯にとって、メリアスの世界樹の呪いは看過できない問題になっていた。

 ついでに、アンセンシア大公妃自身は北部から出ることはできないというか、出たら暗殺者が殺到しかねないお方である。

 このために北部から出たら即座に暗殺者が襲ってきかねないアンセンシア大公妃では自ら調査に行くこともできず、こうして放置せざるをえなかったという事情もある。 

 彼女の力と限界を冷徹に見極めながら、なんだかの成果があるかもとこの地にやってきたというあたりが理由だろう。


「あれ、そんな便利なものじゃないですよ」


 思わず口を滑らせた私に二人の強烈な視線が突き刺さる。

 なるほど。

 あの遺跡の情報はこの二人にしても持っていない訳だ。


「何か知っているのならば、おねーさん聞きたいなぁ?」

「王室への貢献は貴人の義務と心得ますが?」


 ほぼ同時に口を開いて、互いに視線を交わした時に殺気を放つアンセンシア大公妃とフリエ女男爵。

 生きている遺跡というのはそれだけで政治的パワーバランスを崩しかねないから、この二人の豹変ぶりもさもありなん。

 魔法学園の図書館の資料から得たというでっち上げの元、ドールマスターの魔術工房の情報を二人に渡す。

 

「やっぱり抑えたいわね。それ」

「看過できるものではないと思いますが」


 あれぇ?

 あっこにそんな貴重なアイテムはないんだけどなぁ。

 それが言えないのがつらいと考えていた私にフリエ女男爵が意外そうな顔をする。


「貴方ともあろう人が迂闊ですね。

 古代魔術文明を生きた魔術師がそこにいるのですよ。

 魔術を学ぶ者ならば、是非に知恵を得ようとするでしょうに」


「彼が世界樹の情報を持っていたら、近年の不作の改善ができるかもしれないじゃない。

 それは、北部諸侯にとって大きな利益になるわ」


 そうか。

 まだ、この時はこの遺跡荒らされてなかったんだよなぁ。

 かつてこの遺跡に潜れるだけの力をつけた私が探した時には、戦乱を経て残骸しか残っていなかった覚えがある。

 きちんとした魔法技術大系を極めた魔術師というのはこの時点ですら戦略兵器に化けるのだ。

 諸侯のバランスを崩しかねないぐらいに。


「それは理解しますが、とりあえず鉱山閉めませんか?」


 遺跡の情報に色気を出す二人に、私はある意味引きながらそう提案したのだった。

 向こうからすれば、なんで私が食いつかないのか不思議でならないみたいなのだが、それ以上に目の前の問題が浮かんでため息しか出てこないのだった。




 近衛騎士団到着。

 法院衛視隊活動開始。

 アンセンシア大公妃がポトリに居ることに気づいた北部諸侯が次々と町に手勢を入城させた結果、冒険者が好き勝手に坑道に潜るという事は無くなった。

 そして、それぞれの雇い主がアンセンシア大公妃の要請によって、冒険者達の依頼をポトリの冒険者ギルドで一括手配し手綱をつける。

 そこまでした上で、今度は無数にある坑道を塞ぎ、地図を作り、遺跡のガーディアンや中でモンスターが出ることを制限してダンジョンハザードを抑える。

 集まった諸侯は踊るように会議に明け暮れ、ポトリの統治はアンセンシア大公妃の委任という形を取りつつ、世界樹の花嫁候補生の修行の場として与えられたのである。



 あのアマ、案の定全部こっちにぶん投げやがった!!!!!

 


 かくして、私達はダンジョン攻略をする前に、紙の海に溺れることになった。

 嫌がらせとして、商家に作った私の臨時オフィスに『責任逃れの終点』と書かれた札をつけたら、えらく気に入ったらしく領主館の一室に作られたアンセンシア大公妃の寝室のベッドの上に『責任逃れの始点』と札をつけやがって。

 ああ。この人こういう感じだったなー。

 もちろん、うまくいくはずがない。

 具体的なプランは作れるのだが、その最終決定権者が判子を押す機械にあえてなっている。

 その為、こっちの仕事に近衛騎士団と法院衛視隊に諸侯の鞘当てが割り込んでギスギスした軋轢が日常と化す。

 特に、鉱山の一時閉鎖は諸侯が激しく抵抗し、抜け駆けを考える法院衛視隊とさっさと遺跡を掌握したい近衛騎士団が激しくぶつかる始末。

 で、私の不機嫌ゲージを更に押すのが、冒険者シアさんのハントである。


「ねーねー。

 良かったら私とお茶しない?」


「すいません。

 俺、お嬢様の護衛の仕事中なので」


「大丈夫よ。

 あの人殺しても死なないから」


「!?

 そうだったんですか!

 エリー様!!」


 最後のミティアの驚きは私の殺気で黙らせたけど、護衛としてついているアルフレッドにはやくもちょっかいをかけている冒険者のシアさん。

 私やフリエ女男爵の態度からただの冒険者じゃないとは分かったらしいが、ここまで堂々とモーションをかけられるとうざい。

 なお、さっきまでぽちを口説いていたあたり彼女のストライクゾーンは果てしなく広い。

 エルフと言うのは、ある意味豊穣神の象徴であり、産めよ増やせよ地に満ちよの代弁者である。

 その頂点ともなれば、雄経験(男性でない所が業が深い)八桁当たり前で、だからこそ彼女に逆らえる者がいないのだ。

 ちなみに、設定集を見たユーザーからつけられたあだ名は『エターナル・ロイヤル・ビッチ』。

 しかも、男を見る目があるので、青田刈りをするのが趣味という実にやっかいなお方だったりするのだ。


「貴方きっと英雄になるわよ。

 良かったら、英雄にしてあげよっか?」


 ぽき。


「あ、あのぉ……エリー様。

 羽ペン折れているのですが?」


「あら失礼。

 手が滑ってしまいましたわ。

 アルフレッド。

 英雄になるのはいいけど、美味しい話には裏があるぐらいは知っているでしょう?」


 わざとらしく腕を組むシアさんから逃れようとするアルフレッドににっこりと笑顔を向ける。

 何でか書類運びをしていたミティアと壁に張り付いていたぽちが少し後ずさるが気にしない。


「裏ってほどじゃないわよ。

 ただ私に貴方の種をつけてほしいだ・け?」


 これが北部諸侯の力の源泉の一つである。

 男を見る目があるアンセンシア大公妃はその体で将来有望な男達をたぶらかして北部に引っ張り、彼らを諸侯に取り立てる。

 その為、人材の層においては北部諸侯は他の諸侯よりはるかに厚みがあり、しかもできる連中のほぼ全てがアンセンシア大公妃が上で腰を振ったか、その後で生んだ連中だったりする。

 だから、ポトリ伯みたいな無能が出てきても、即座に穴が埋められる人材のプールがあるのだ。

 で、このエターナル・ロイヤル・ビッチは間違いなく気づいてる。

 私がアルフレッドを気にかけている事を。

 ついでに、アルフレッドを英雄にしたくない私の逆鱗に容赦なくストレートぶちかましているのだが、ここは彼女のホームだ。

 こっちが負けるのを分かって挑発してやがる。

 何の為に?

 決まっている。

 ミティアの為だ。

 私が裏取引で負け役を引き受けているのを確かめているのだろう。


「アルフレッド。

 ただの冒険者に種付けして英雄になれるって信じられる?」


「あら失敗。

 そういう設定でしたわね。

 おほほ」


 今ならばあのちっぱい……じゃなかったマリエルと分かり合える。

 ぶちのめしてぇ。このビッチ。

 なお、ここまでしてもまだシアさんの正体はばれていないらしい。

 そりゃ、露骨に罠張って待っている虎穴に誰が入ると思う?  

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