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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
花嫁候補の奮闘
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36 運動する男子はかっこいいがそれを眺める女子は姦しい

「まだまだ!

 踏み込みが甘いです!!」


「はい!

 もう一本お願いします!!」


 剣術の授業を講師役としてなんとなしに見物中。

 こんな時に己の五枚葉勲章が恨めしい。

 で、見ているのはサイモンとアルフレッドの剣術訓練だったりする。

 正確には、アルフレッドがサイモンに遊ばれているのだが。


「よし。

 少し休憩だ。

 休憩ついでに話をするから息を整えながら聞いていななさい」


 このあたりサイモンの話は成り上がりの昔話なだけに大変興味深い。

 私やアルフレッドだけでなく周りの人間も聞きに入っている。


「前衛職は体力が勝負だが、実際どれぐらいの体力が必要か?

 大雑把に言えば、戦場を駆け回れるだけの体力が必要なのは分かりますね。

 では、問題。

 このメリアスを戦場と想定した場合、どれぐらいの体力が必要になりますか?」


 サイモンは中々意地悪な質問をする。

 メリアス制圧を考えたらこの世界樹を登らないといけないからだ。

 サイモンみたいな軽装備はともかく、戦闘用の重装備だと登る前に体力が尽きてしまうだろう。


「想像のとおり、そんな体力は作れません。

 で、補助職に体力を回復してもらう訳です。

 それを踏まえた上で、どのあたりまでの体力が必要でしょうか?」


「戦場だから、城壁で暴れまわる程度ですか?」


 アルフレッドの答えにサイモンは少しだけ笑う。

 微妙な答えだったらしい。


「まあ、合格点ですね。

 だが、アルフレッド君は自分の装備を前提にその答えを出しているんでしょうね?」


 まだまだ発展途上のアルフレッドは決まった型ができていない。

 その為、どの職かどころかどの装備かも完全に固まっていないのである。


「正解は城壁にたどり着くまでです。

 そこまでの戦の流れを簡単に説明しましょう」


 サイモンの話は、戦場の流れが『世界樹の花嫁』ではなく『ザ・ロード・オブ・キング』の方だという事を印象付けるものだった。

 それをまとめるとこうなる。

 まずは、遠距離・空中戦が始まる。

 空を飛ぶユニットによる攻撃と防衛、魔術師による魔法攻撃とそのカウンター。

 攻城兵器がある場合もここで処理される。

 そして近接ユニットの接敵と戦闘が行われるのだが、その時生き残った空中・遠距離ユニットが支援攻撃を行うのだ。

 だから、敵側の魔法攻撃や空中ユニットからの攻撃をかわしながら城壁にたどり着かないといけない。

 ファンタジー系SLGだと、魔術系ユニットは空中系ユニットに強く、空中系ユニットは直接攻撃系ユニットに強い。

 そして、直接攻撃系ユニットは魔術系ユニットに強いなんて事が良くあるが、『ザ・ロード・オブ・キング』でも同じだったりする。

 更に、空中系ユニットおよび魔術系ユニットは雇用と維持コストがとにかくかかる。

 うちのぽちみたいに変化魔法を使ってとかげ生活してくれるドラゴンばかりではないのだ。

 で、コストから必然的に直接攻撃系ユニット主体に部隊は編成される。

 軍の中核をなす対騎兵ユニットの槍兵。機動力の要で歩兵を蹴散らす騎兵。剣を装備して槍を潰せる歩兵。

 更に間接攻撃ゆえにどこにも属さない弓兵が続き、これに魔法適正があれば魔法戦士としてそれぞれの兵種の上位種にクラスチェンジできるという訳。

 サイモンはこの魔法剣士に該当する。


「さてと、兵士ならばこの話はここまでですが、冒険者となると少し話が変わってきます」


 サイモンが私の方を向く。

 正確には、私の後ろで控えているセリアの方に。


「お嬢様。

 セリアをお借りしてよろしいですか?」


 サイモンは慇懃無礼な口調で私に尋ねる。

 私が彼をあまりよく思っていないが、その才能は使うと読みきっての発言だ。

 アルフレッドを鍛えているのも、狙いは私の好感度。

 将を狙うならば馬からというやつだろう。


「お嬢様……」


 私の耳にセリアの心配そうな声が届く。

 ヘインワーズのメイドであるセリアは南部諸侯から送られたサイモンを私以上に警戒していた。

 そして、何も知らないアルフレッドは私を信頼の目で見つめている。


 彼を英雄にはしたくない。

 けど、彼が生きてゆく術は身につけてあげたい。

 その思いが葛藤するが、答えは思ったよりあっさりと言葉に出た。 


「構わないわよ。

 セリア。

 あなたの経験を貴方の後輩たちに伝えてらっしゃいな」


 何か言いたげなセリアだが、ため息ひとつついてサイモンたちの方に向かってゆく。

 新参者は譜代の忠臣は居ないが代わりに主従の距離が近く、信頼関係が築けるならば融通が利くというメリットもある。

 

「冒険者と兵士の違いに目的の不明瞭さがあります。

 サイモン卿の話を引き継ぎますが、城攻めなど明確な目的が見えやすいのに対して、冒険者は迷宮だとその先がどれぐらいかかるか分からない。

 依頼系だと解決までの段取りから構築しないといけない等、兵士以上に持久力が求められるのです……」


 サイモンとセリアの講義を聞いていたらいつの間にか足音を消してアマラが傍にやってきた。

 アマラが暗殺者でぽちが気づいていなかったら、今頃私はぐっさりだろう。


「ずいぶん丁寧に育てているのね。彼」


 アルフレッドの事だろう。

 まあ、こちらの恋心は伝えているのでアマラとはぶっちゃけトークができるのがありがたい。


「ふふん。

 将来いい男になるわよ。彼。

 あげないけど」


「その割には、なんか踏ん切りがつかないというか、ためらっているというか?

 いまいち貴方の距離感がつかめないのよね」


 ふーん。

 そのあたりを探りにきたという事は……


「この学園の女子にもアルフレッドのファンができたと?」


 女同士による男の奪い合いは男の女の奪い合いより辛辣で陰湿で過激だったりする。

 ましてや、ファンタジー世界で貴族社会の機能しているここにおいて、それは平気で陰謀レベルにまで発展する。


「あんたの落ち目にアルフレッドに粉かけておこうって声がね。

 アルフレッド自身というより、あんたがご執心だった彼を手に入れる事でヘインワーズの権威を上回ると。

 そんな所じゃない」


 ね。

 こんな感じで、色恋も命がけである。

 私は苦笑しながら扇で口元を隠す。

 視線はアルフレッドの方に向けたままで。


「負ける気は無いけどね。

 ただ、アルフレッドが本当に好きな娘ができたら一線は引くけど」


「意外ね。

 派手に喧嘩するかと思ってた」


 アマラが両腕を頭に組んで苦笑する。

 二人とも学園の制服なので、私はいつのまにか相良絵梨の口調でぶっちゃける。


「アルフレッドの事は好きよ。

 ただ、無理に振り向かせたくはないなって思っているだけよ」


「華姫だから?」


 にやけた口調のアマラの声は真剣だった。

 『娼婦だから身を引くのか?』と問いかけているアマラの目が怒っているのがなんとなく嬉しい。


「ちょっと違うかな。

 姉弟子様にも言われたわよ。

 『恋に恋している』って。

 否定はできないな」


 私はアルフの事を知っているのに、アルフは私の事を知らない。

 終わったはずの恋なのに、私の前にそれが広がっている。

 アルフと作れなかったもの。

 私が作る事無く若さとともに失ったものがまぶしくて、愛しくて、不安になる。

 だからこそ、それを水樹姉様は即座に見抜いた。

 思い人に入れ込む事ができない占い師の必要条件だから。


「そうだ。

 ギルド経由に捜索願を出しておきたいの。

 頼めるかしら?」


 私の依頼にアマラが不機嫌そうな顔をする。

 私が誰を探しているのか感づいたからだ。


「ナタリーだっけ?

 アルフレッドの幼馴染。

 貴方もお人よしよねー」


 呆れた声でアマラが愚痴る。

 アルフレッドがこの道に入った理由であるナタリーの捜索は、私にとってのライバル登場に他ならない。

 敵に塩を送りかねない行為を理解できないのだろう。 


「彼がここに来た理由だからね。

 ならば、探してやるのも雇い主としての義務ってものよ」


 正直、ナタリーの行方についてはあまり明るい未来は無い。

 運が良くて娼婦。

 悪かったら既に死んでいる可能性もある。

 それでも、見つかるのならばアルフレッドに会わせてあげたい。


 それが、私を選んだアルフレッドの未来の否定に繋がったとしても。

 それが、私がまたアルフレッドを選んで、彼を失う事を恐れているという後ろ向きな理由からだとしても。 


「わかんないわねー。

 さっさと押し倒したら?」


「わかんないでしょーねー

 それができなくて、いろいろ考えて、不安になって……

 そんな自分が馬鹿らしくて愛しいって感じは」


 私の言葉に納得していないのだろうが、私が逃げている訳でもない事は一応アマラにも伝わったらしい。

 アマラが頭に組んでいた手を腰につけてため息と共にはき捨てた。


「心配して損した。

 心配料払いなさいよ」


「私を誰だか分かって言っているのかしら?

 倍返しで払ってあげるわ」


 そして二人して楽しそうに笑う。

 アマラには分からないだろうなぁ。

 こんな語り合いも、私はずっとしたかったって事を。


「あんたのライバル。

 あれ、本気で怖いわ。

 あんたの愛しい人もあれに取られかねないわよ」


 きっとこれが言いたかったのだろう。

 アマラ。友達料は三倍返しね。

 その忠告に私は真顔になって、サイモンとセリアの話に耳を傾けるミティアを眺めた。


「武器について何を選ぶべきか?

 その場にある武器で戦うしかないでしょうね。

 とはいえ、選択肢があるならば、いくつかの基準があります。

 男性の場合は己の体力と筋肉と相談する訳ですが、『叩く』、『突く』、『斬る』の三つのどれかを選ぶという事に他なりません。

 そして、それを選ぶ時は相手との相性勝負になります」


 サイモンの説明に続いて、セリアがその続きを補足する。

 このあたりは実戦経験者なだけに私も頷くことがあったり。


「女性の場合、選択肢から『魔法』を外してはいけません。

 使えなくても魔法が撃てると相手が認識するだけで、こちらにうかつに攻めてこなくなります。

 だから、武器や防具にマジックアイテムを持っているだけで、大きなアドバンテージとなるのです」


 そんな話を聞きながら、私は真剣に話を聞いているミティアの話題に戻る。

 もちろんねミティアに気づかない程度の声で。


「アルフレッドは私にずっとつけていたから。

 他の男がミティアに?」


「ご名答。

 善意の塊みたいな彼女に男がひかれ始めて、私を除いた女子達の機嫌は急降下中」


 さすがに最初から『第二婦人で良いから』と己の最低ラインを提示したアマラなだけある。

 きっと、シドとくっついても彼女は高級娼婦を辞める気はないんだろうなぁ。


「シドは?」


「取り込まれかかって、少し離れた。

 曰く、『守ってあげたくなる何かがある』って。

 何か変な加護かかってんじゃないの?」


 その言い草が面白くて二人して笑う。

 アマラ正解。ミティアにはとてつもない加護がかかっているわよ。

 主人公補正っていう加護がね。

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