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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
花嫁候補の奮闘
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34 相良絵梨の病欠

 放課後の教室。

 夕暮れ時によって茜色に染まる教室内でイケメンが私に向かって頭を下げる。

 私の手には呼び出しのラブレター。

 これはゲームではない。


「好きです。

 つきあってください!」


 必死の声と思いが私の耳に届くが、私は心を落ち着けるために一呼吸したあとでため息を小さくついた。

 そして、今月に入って三度目となる言葉をゆっくりと口にした。


「ごめんなさい。

 貴方の思いに応えるわけにはいきません」


 かくして、告白者は私のごめんなさいに玉砕する事になった。




「つーか、何で断るの?絵梨。

 サッカー部のキャプテンは狙っていた子多かったのよ」


 翌日の朝。

 綾乃の言葉にわたしは苦笑する。

 三人目のごめんなさいはクラスの女子内でヘイトを集めるのに十分だったからだ。

 あえて教室内でこの話題に触れることで、ヘイトを解消しようとする綾乃の思いやりに私は感謝しながら乗る事にした。


「理由があってね。

 占い師って基本恋人作れないのよ」


「本当なの!?」


 オーバーアクションありがとう。綾乃。

 周囲の女子生徒だけでなく男子生徒も食いついているが、気にしない事にしよう。


「ほんとよ。

 たとえば綾乃は彼氏にとって悪い占いが出た時、それを素直に伝えられる?」


「うーん……」


 お。

 ちらちらと首を傾げる女子達を確認して、私へのヘイトが消えつつあるのが分かる。

 この流れのまま、話題を一気に逸らせてヘイトを上書きしてしまおう。


「という訳で、基本私の属する占い師一門って独身で生涯を過ごすのよ。

 もっとも、うちの姉弟子様みたいに複数の男とつきあって、みんな父親が違うシングルマザーなんて手もあるけど」


「うわぁ……

 それは、ちょっと……」


 綾乃でも引くあたり予想通り。

 で、ここでスマホを取り出して姉弟子様の写メを見せてあげる訳だ。

 異世界の衣装で。

 これで貴族のドレスを着こなすのだから姉弟子様も大概おかしい。


「ちなみに、これが私の姉弟子様。

 三人の子持ちの母です」


「うわ!

 これで三人の子持ちなの!?」


「ちょっと!

 私にも見せなさいよ!」


「私も見たい!

 うわ。

 凄い綺麗……」


 我慢できなくなった女生徒達が私のスマホに群がる。

 なお、姉弟子様のお姿はメリアスの私の部屋で取ったものである。

 さすが貴族。

 物が本物だから、女子達の食いつき具合が違う。


「何処ここ?

 海外?」


「凄いドレスじゃない!

 本物のメイドも要るし、もしかして相良さんってセレブ?」


 当然他の写真も見るだろうという事で、用意していた他の写真にもみんな群がる。

 異世界という事を注意深く避けているので、海外ぐらいにしか分からないだろう。

 なお、写真に写る壁のぽちはご愛嬌。

 こいつ分かって壁に張り付くから、写りたいお年頃なのだろう。


「姉弟子様の付き添いでね。

 私もドレス着させてもらいました」


 スマホを操作して、私のドレス姿も見せてあげる。

 コスプレではないマジものの令嬢ドレスに綾乃以下目の色が変わる。

 よし。

 これで完全に振った話が消えた。


「このメイドがセリアさん。

 朝、起こしてくれるのよ。

 これが、向こうで友人になったアマラさん。

 色っぽいでしょ。

 で、こっちの天真爛漫な子がミティアさん」


 気づけば海外旅行から帰ってきましたノリである。

 そのたびに何か色々な声が聞こえるがそれは気にしなくていいだろう。

 なお、私のスマホに興味津々だったのがミティアで、興味がない風を装いながらしっかりポーズを取っていたのがセリアだったり。

 映りが悪いと何度か撮りなおしをさせおってからに。

 それぞれのドレス姿に女子達の歓声があがり、ちらちら見ていた男子からは二人の色香に惑わされる。

 なお、男子人気はミティアの方が高かった事はアマラには言わないでおこう。


「いいなぁ。

 相良さんうらやましいなぁ」


「変われるなら変わってあげてもいいけど、恋愛ご法度に我慢できる?」


「何かアイドルみたいな縛りね。

 それ」


 こうして、授業が始まるまでには私のヘイトは綺麗に消え去る事になった。

 授業中に感謝をこめて綾乃に囁く。


「さんきゅ」

「どういたしまして。

 けど、気をつけなさいよ。絵梨。

 私と同じ恋する乙女になってるから男はほおって置かないって」


 持つべきものは友達である。

 いつの間にか私も恋に浮かれていたらしい。

 反省。


「で、あんたを恋する乙女にしたのは誰よ?

 見せなさいよ」


という綾乃の追及は聞こえなかったふりをして聞き流す事にする。

 家のフォトスタンドの隠しファイルにテストと称して取った学生服姿のアルフの写メは私の宝物なのだから。


 


 で、そのフォトスタンドを枕元に置きながら、平日昼間というのに私は自分の部屋のベッドで寝ていたり。


「37.0度。

 まだ少し熱があるわね。

 体の不調とか分からなかったの?」


 考えてみれば、異世界と日本で目一杯生活していれば、それは過労にもなろういうもので。

 魂三十路越えの私はジャパニーズビジネスマンちっくに、風邪薬と栄養ドリンクで学校に出ようとして妹と母にとっ捕まってこうして寝ている次第。


「大丈夫だって。

 これぐらいならば、自然に治るから」


「それ、若さゆえの言葉って覚えておくといいわよ」


 起き上がろうとした私を母の手が制す。

 母の口調は穏やかだが、有無を言わせない迫力があった。

 これは怒っていらっしゃる。

 こちらが黙っていると、母はため息をついて部屋を出てゆこうとする。 


「とにかく、学校には欠席を伝えておくからおとなしくしなさい。

 いいわね」


「はーい」


 ドアが閉まる音がして、私はそのまま起き上がる。

 世界樹の杖を取り出して呪文を唱えようとして気づく。


「向こうで風邪でなんて休んだ事なかったわね」


 魔法の存在は偉大だ。

 もちろん母に魔法で回復できるのでなんて言える訳もなく、おとなしく部屋で寝る羽目に。

 魔法ありのファンタジー世界だと、外傷に対しての回復魔法というのが当たり前にある。

 で、皆は疑問に思ったことはないだろうか?

 『回復魔法というのは病気に効くのか?』という事を。

 先に結論から言うと効いた。

 難しい話は飛ばすと、『回復魔法は魔法によって自己治癒能力を高めて再生させている』からで、自己治癒能力が効く範囲ならば病気も問題が無い訳だ。

 だが、病気というのはそもそも目に見えないから、必然的に診察できる医者が必要になる。

 毒物についてだが、そもそも『毒って何?』という話になる。

 で、実験した結果、異世界における毒というのが、人体に害を与える現象全般に効果がある事が分かったのだ。

 さすがファンタジーとそのアバウトさにえらく感動したものだが、じゃあ、体外の毒に対して浄化できるのかと疑問を持つのはある意味当たり前で。

 結論からすればできた。

 ただし、精霊魔法で水属性最大に引き上げるという必要があるのだが。

 精霊万歳である。

 魔術師なんて職は権力者層に取り込まれるから、医者にせよ薬師にせよ祈祷師にせよ向こうの世界でも現役な訳だ。

 なお、魔術師の勉強に薬草学が入っているのもこういう理由もある訳で、これが本当に身を助けた。

 余談だが、この説明だと首を刎ねたり心臓一突き等は治らない訳で、それを治すのならば女神様の奇跡に縋るしかない。

 精霊がらみについては、それを使ってある職の雇用政策に使ったのだ。

 統合王国再建時、王都地下の下水道に私は潜った事がある。

 地下水道にはスラムができていたからなのだが、汚水がそのまま川に垂れ流されていた。

 ならば、解決するには汚水をろ過すればいい。

 まずは、下水道出口に沈殿池を設置し汚水の垂れ流しを止め、木炭や砂や小石を敷き詰めたろ過装置にてろ過して川に流す。

 小規模集落ならばこれで十分だが、大規模都市だとこれで追いつかない。

 で、ここからがファンタジーの出番。

 先に言った精霊魔法による水の浄化を都市において義務化したのだ。

 これによって、精霊使いは水管理という巨大利権を握り、魔術師・僧侶と同じ魔法職としての地位を確立させたのである。

 そういう所で、魔法を使う職は分化していたりする。

 話がそれた。


「ヒール」


 母が出て行ったのを確認して、こっそり自分にヒールをかける。

 このぐらいの風邪だったら、1-2時間で大丈夫だろう。

 なお、魔法は便利ではあるが万能ではない。

 回復魔法で自己治癒能力を高めるという事は、体内のエネルギーを急速に消費する事を意味する。

 つまり、ものすごくお腹が空くのだ。

 異世界における病気などの治癒限界は『患者が食事を取れるか?』が一つの基準となっている。

 で、回復後にも食べるから、その脂肪が胸に……いかなかったちっぱいも居たが。


「こうやって何も考えずに部屋を眺めるってしたこと無かったな……」


 独り言にぽちが反応するが、首をこっちに向けただけで寝床になっている籠から出てくる様子も無い。

 現実に帰ってからまだ三ヶ月ちょっと。

 家に帰ってきた感覚はあるのだが、自分の部屋が自分の部屋だと中々認識できない私がいる。

 たとえるならば、一人暮らしを始めて実家に帰ってきた感覚。


「こういう時に誰かが居ると嬉しいのにな……」


 なんとなく独り言が多くなる。

 もう昔のことだ。

 負け戦の戦いの後、回復魔法のもう一つの弊害である疲労で寝ていた時、毛布をかけてくれたのがアルフレッドだった。

 彼も私以上に怪我をして疲れていたはずだったのに、起きた時に包帯姿のアルフレッドを見て安心した覚えがある。

 じんわりと目に涙がたまる。

 もう、あのアルフレッドは居ない。

 けど、今の私の側には何も知らないアルフレッドがいる。

 今のアルフレッドは疲れ果てた私に毛布をかけてくれるのだろうか?   

 そんな取り留めのない事を考えていた私は、いつの間にか眠ってしまっていた。


「絵梨ー。

 起きてる?

 お友達がお見舞いに来てくださったわよー」


 母の声で目を開ける。

 時計を見ると、既に夕方になっていた。

 頭を書くふってパジャマ姿で部屋から出て下に降りる。


「あ。

 絵梨。風邪ひいたって大丈夫?」


 階段下の玄関に居たのは制服姿の綾乃だった。

 私を見て綾乃が手を振る。


「見ての通りよ。

 たいした事ないんだけど、大事をとってね」


 で、自己主張する腹の虫。

 お約束である。


「まあ、こんな感じ。

 とりあえず上がって、お茶とお菓子ぐらいは出すからさ」


 苦笑しながら綾乃を家に上げると玄関のドアが開く。

 入ってきたのは、妹の香織だった。 


「ただいまー!

 お姉ちゃん大丈夫って、こんにちは。

 妹の香織です」


「お姉さんの友人の新城綾乃よ。

 よろしくね」


 妹と綾乃が和気藹々と話をする中、自然に笑みがこぼれた。

 帰ってきて良かったな。

 この時、素直に思った。

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