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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
二人の世界樹の花嫁候補
34/119

30 ちょっと空気の変わったメリアス魔術学園のとある日

「おはようございます。

 エリーお嬢様」


 メリアスの寮で起きるとセリアとメイドたちによって着替えさせられる。

 まだ頭は寝ぼけているが、ここで意識を切り替える。

 ぽちは起きているみたいで、鏡の下でこっちをのぞいているらしい。


「今日の朝食は?」   

 

「パンに卵にサラダを。

 果実汁の冷や水も用意しました」


「ありがとう。セリア」


 部屋で一人で食べるのは味気ないと私がごねて、広間の一室で皆で食べる事にした。

 私が一番最後だったらしい。


「おはよう。絵梨」

「おはよう。エリー」

「おはよう。エリーお嬢様」


 姉弟子様、アマラ、アルフレッドの順に朝の挨拶を受ける。

 今日は久しぶりの学生生活だ。

 こんな朝も悪くはない。

 うん。悪くない。


「おはよう。みんな。

 今日も一日がんばりましょう」




 久しぶりのメリアス魔術学園。

 来てみると、自然にミティアの周りに人が集まっていた。


「おはようございます。

 エリー様」


 席に座った私を見つけて声をかけてくるミティア。

 気づけよ。

 今の挨拶で、数人額に手を当てたやつが居る事をよぉ。


「おはようございます。

 ミティアさん」


 挨拶は大事である。

 とはいえ、この空気をどうするべきか迷うので今日一日は少し動かずに、私が居ない間に何がどう変わったのか感じる事にしよう。


「迷宮の攻略?

 一昨日終わったな。

 あのクラスには不釣合いなお宝が発見されて、冒険者の宿はその話題でもちきりだったぜ」


とは、その迷宮探索に参加したシドの言葉である。

 その隣に当然のように居るアマラがシドの言葉を補足する。


「王子様とグラモール卿にキルディス卿。

 シドに、ヘルティニウス司祭の六人で盗賊討伐。

 盗賊たち十数人を討伐し、彼らが溜め込んでいた財宝を手に入れたって訳。

 少人数で迷宮をクリアしたから、あなたより向こうの方ができるみたいな事を言われているわよ」


 お。

 私の隣に居るアルフレッドの顔が少し怖い。

 私の為に怒ってくれているのならば嬉しい。

 それはともかく、実際の盗賊が何人居たのやら。

 せっかくだからシドにそのあたりを突っ込んでみよう。


「で、その悪さをした連中に心あたりは?」


「顔もしらねぇ流れ者だな。

 そのくせ、あんな粗末な宝箱に金貨をいっぱい詰め込みやがって。

 この話はそれで終わりだ」


 ああ。

 このほのかに香るヤラセ臭がまた。

 あえて強引に話を打ち切る事で上からの圧力を知らせてくれたか。

 シドからすれば、私とミティアの争いには関わりたくないけど、アマラがいるから最低限の便宜は図るという感じか。


「で、貴方はこの時期に半月近くどこで何をしていたので?

 世界樹の花嫁候補のエリーさん」


 わざと声を大きくしてじゃれるようにアマラが私に迫る。

 もちろん、こうする事で私の半月の不在の理由を皆に知らせるのが目的なのだ。


「仕方ないじゃない!

 エルスフィア太守代行の仕事が忙しかったんだから!

 賃金未払いで揉めていた騎士団に自腹で賃金を払って、街道巡回で盗賊討伐までしたんだから大赤字よ!!」


「お嬢様おちついてください」


 アルフッレッドに宥められながら、オーバーリアクションに嘆くしぐさは我ながら芝居じみている。

 とはいえ、エルスフィア太守代行の仕事にかかりきりになっている事はアリオス王子を含めて知っている事だから、皆の聞き耳は私が大散財した事に注目が行く訳で。


「実は、後始末がまだ残っているのにこれ以上休むのは不味いからってこっちに来ているのよねー。

 盗賊討伐と騎士団の街道巡回の再開に伴って、タリルカンドとの交易協定の締結までしないといけないから、体が二つ欲しいわ。ほんと」


 がたっと教室内に音が響く。

 大散財とほざいておいて、タリルカンドと交易協定を結ぶなんて権益を晒したのだから心穏やかではないだろう。

 日和見連中を揺さぶるのにちょうどいいネタだろう。


「あ。

 先生が着たわよ。

 座って」


 アマラとシドを席に帰らせる時にアリオス王子をちらと眺めるが、王子様はついに私の方を見る事は無かった。




 舞踏会において暗黙にルールがある。

 たとえば、主役以上のドレスを着てはならないとか。


「エリー様。

 制服でいいらしいですけど、何を着ていくのですか?」


 そんなルールをよりにもよって主賓が分かっていない場合、私はどんな顔をすればいいのだろう?

 更に、それをライバルに尋ねる神経も尋ねたいのだが、ここでそれを聞く勇気は私には無い。

 久しぶりの登校でこれである。

 ちらりとアマラに視線を向けるが、アマラはあきらめた様子で首を横に振った。

 つまり、私の居ない間もこんな感じだったと。

 お気楽と言うか、そのまままっすぐ生きてくれと願いたくなるというか。


「せっかくの歓迎会ですのよ。

 ドレスぐらい来ていかないと」


「けど……

 私、ドレス持っていませんし……」


 お約束のイベントである。

 で、ドレスを持って来れないミティアに対して悪役令嬢が意地悪をする訳だ。

 してもいいのだが、サイモンの件もある。

 少しばかり手助けをしてやるか。


「私のお古で良かったらあげるけどいる?」


 周囲の空気がぴりぴりするが、ミティア本人がまったく気付いていないのが困る。

 気付けよ。この空気を。

 私とあんたのどちらにつけばいいか他の生徒達は必死に探っているのだから。


「はい!

 放課後お邪魔しますね!!」


 ちらりとアリオス王子の方を見るが、やれやれと肩をすくめただけだった。

 おい。マッチメイカーの王子様よぉ。

 ちゃんとブックを作っているんだよなぁ。




「凄い数のドレスですね!」

「こちらの方でサイズを測りますので」


 メイドのセリアに連れられてミティアは私の部屋の衣装室に。

 残ったのは私とアマラとぽちのみ。

 セリアが入れてくれたお茶を楽しみながらアマラが苦笑する。

 私は宝石箱を空けて、適当にアイテムを見繕う。

 ぽちが宝石箱の中に入ってごそごそしているとドラゴンだなぁとなんとなく思ったり。


「うわぁ。

 さすがヘインワーズのお嬢様」


「安いものしかないけどね。

 よかったらいる?」


「いいの!?」


 はったりついでに私が居た世界の宝石店で買ったお安い宝石たちである。

 価格は数万-十数万程度なのだが、あっちの装飾技術の凄さをアマラの反応が物語っている。

 宝石箱の中から装飾があまりないけど、石が大きいものを私は適当に摘む。


「これがこっちで買った物。

 対魔レジストはどれだったかしら?」


 サイモンの誘惑に対してそのレジストができる装飾用アミュレットを手に取る。

 ロザリオをあしらった銀のネックレスに対魔付与の魔法をかけてゆく。


「しかし、そんな事までできてこっちなのよね。あんた」


 ぽちが咥えていた宝石を手に取りながらアマラがぼやく。

 こういう時は、にっこりと微笑んで一言。


「女は秘密が多ければ多いほど美しくなるの」

「あ、この言い回しは私も使おう」


 その言いぐさに私が笑い、アマラもつられて笑う。

 適当に宝石つきのアクセサリーを弄びながら、適当にそのあたりをごまかした。

 このあたりは私もアマラも打算なしだ。

 女の心は手のひらのごとく表と裏が入れ替わる。

 ぽちが遊んでいた宝石つきイヤリングを耳につけながら鏡を眺める。

 ぽちはドラゴンらしくお宝の選定勘はかなりあったりする。

 実際、アマラはぽちが差し出したものを全部持って帰ることになるのだが、ひとまずおいておこう。

 こうやって、友人はその繋がりを深めてゆく訳だ。


「これは秘密なんだけど、ヘインワーズ侯はお体を綺麗にしているらしいわよ。

 お嬢様が潰せないならば、実家を狙うのは常套手段だからね」


 それをさりげなく教えてくれるだけでも、友達料を払ってよかったと切実に思う。

 つまり、盗賊ギルドが把握している=他の貴族にも漏れているだからだ。

 新興貴族の成り上がりだからこそ、彼にも色々と言えない黒い噂がある。

 そこを突かれて失脚でもしたら目もあてられないどころではない。


「お嬢様の最大の秘密たる転移ゲートは?」

「一応大賢者モーフィアスの肝いりでガーティアンに警護させているわ。

 ただ、召喚儀式には神殿も絡んでいるから漏れるのは時間の問題でしょうね」


 大賢者モーフィアスが管理する転移ゲートの破壊は王国に轟く大賢者の名前が邪魔をする。

 だからこそ、その破壊も政治的にモーフィアスが失脚しないと行うのは難しい。


「詰み筋は、ヘインワーズ侯の失脚、大賢者モーフィアスの連座、転移ゲートの破壊の順ね」

「打つならば、今でしょう。

 無理を押してヘインワーズ侯を潰すかどうかだけど、ベルタ公はヘインワーズ侯ご息女との婚姻を決めたばかり。

 動くには体裁が悪すぎる」

「神殿過激派の暴走って筋じゃない。

 色々な支援は影からするだろうが、ゲート破壊さえできればどうにでもなるわ」


 やばい話をしながら、せっかくだからとアマラのつけたイヤリングにも対魔付与の魔法をかけて私がぼやく。

 本格的に始まった世界樹の花嫁をめぐるゲームは始まったばかりだ。

 そんな会話が止まったのはミティアが戻ってきたからだ。


「エリー様。アマラさん。

 どうですか?

 似合いますか?」


 ドレス姿のミティアが入ってきて、私たちの前でくるくると回る。

 ふと小犬が自分の尻尾をくるくる追っかける姿を幻視するがそれを首を横に振る事で追い出した。


「うん。似合うにあう。

 んじゃ、これつけてみようか」


「えっ!

 そんな高そうなもの……」


 ミティアの拒否をアマラがふさぐ。

 ナイスフォロー。


「いいって。

 ヘインワーズのお嬢様には安いものだそうよ。

 というか、あんたがもらわないと私がいただけないの」


 アマラがしっかりとミティアを抑えて、ミティアの首にアミュレットをかけてあげる。

 元気いっぱいのミティアの顔がここではじめて曇った。


「ここまで良くしてくれて、本当にいいのですか?

 クラスのみんなはエリー様とはライバルだからあまり仲良くするなって」


 おお。

 ちゃんと情報はいっていたか。よきかなよきかな。

 それでも私を頼るというか、私に絡むのは彼女の善性なのだろう。

 だからこそ、それがまぶしくうらやましい。


「これぐらいで仲良くなる訳ないでしょ。

 世界樹の花嫁は貴方を押しのけて私がなるつもりです。

 ですが、それは修行の成果によって。

 舞踏会で足を引っ張るような事をして自分を落としたくはありません」


 にっこりとミティアに笑顔で語りかける。

 ここで少し茶目っ気を出した笑みを見せるのがポイント。


「ぶっちゃけるとね、貴方のドレスが決まらないと私たちのドレスが決まらないの」


「……あははっ!

 ありがとうこざいます。エリー様。

 エリー様って凄く優しい人ですね」


「……」(うわ。なにこのちょろイン)

「……」(どうしよう……いろいろと罪悪感が……)


 目で語った私とアマラをどうして責められようか。

 で、ここでミティアが上目遣いで恥ずかしそうにお願いをする。


「あのぉ……

 お願いがあるのですが、私ダンスを踊った事がなくって……」


 毒食えばそれまで。

 私とアマラはため息をついて残りの時間、ついでとばかりにダンスと舞踏会の作法をミティアに叩き込む事になった。

 あれ?

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