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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
二人の世界樹の花嫁候補

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18 神奈絵梨のお仕事

「お待ちしておりました。神奈絵梨様。

 こちらにどうぞ」


 黒塗りの高級車というにもメリットがある。

 馬鹿が突っ込んでこないという。

 こんな車に乗っている連中はえてして権力を持っているか、金を持っているか、その両方か。

 で、そんな車の後部座席に制服姿で納まるというのも慣れると不思議と落ち着くものである。

 向こうでは大名行列よろしく護衛をつらつら引き連れて馬車で出向いていたし。

 横には竹刀袋に入れられた世界樹の杖とぽちが一匹。

 場違いな事はだはだしい。

 姉弟子様に言わせるならば、


「あなたはいいわよね。

 制服着ていればオフィシャルOKなんだから。

 わたしなんて、何着ればいいかいつも考えるんだから」


 それすら、姉弟子様クラスだと何を着ればいいか『見える』らしい。

 恐るべし。

 今日は私のお仕事の日。

 別名姉弟子様に押し付けられた厄介事とも言う。


「で、今回のご依頼なんですが、○○地区再開発事業に絡む……」


 意識を飛ばしていても、依頼主の説明は聞き漏らしてはいない。

 人が住むというのは、それだけで因縁が溜まる。

 その因縁を払う為に、家を建てる時に地鎮祭なんてのを今でもやっている所は多い。

 あれは結構馬鹿にならないのだ。

 そして、私達のメイン収入でもある。


「神奈様にはいつものように、それを見てもらいたく」


 この手のお仕事は寺社の独占事業だったのだが、近年変わりつつあるのは生活様式が西洋化しているのと、外国人居住が増えてきたのも大きい。

 日本人ならば神主さんかお坊さんで大丈夫なのだが、外人さんには神父さんの方が理解ができるのと同じ理由である。

 私は無言のままで依頼の再開発事業の書類をめくる。

 今回のお仕事は都市部に近い元工業団地跡地を再開発して大規模マンション十数棟を中心とする団地を形成する、完成時における予想想定居住者数はおよそ一万人で学校やショッピングモールなども建設予定の大規模公共事業だ。

 数十億、下手すれば数百億の開発におけるこの手の除霊費が百万単位というのは、ある意味経費の範囲内とも言える。

 未だ地鎮祭はする所多いし、その費用もこの除霊費と同じだったりする。

 さすがにこれで経理は通らないので、コンサルタント料みたいにして裏勘定扱いだが。


「で、お願いしていた資料はありますか?」

「座席の後ろに」


 で、私が呼ばれた理由は工業団地の時に安価な労働力として外国人労働者をかなり雇っており、それがらみでオカルト的な騒動が以前発生していたのだ。

 工場は円高によって外国に移転し、その時の外国人労働者の処遇についてはこの町の問題になっていた時期もある。

 かくして、私がお呼ばれされた訳だ。

 その手の確認をして処理できるならして、問題があるなら姉弟子様にご報告と。

 それだけの信用は姉弟子様が得ているし、100万単位の依頼料とて億単位の公共事業から考えると『はした金』の経費でしかない。

 有権者が聞いたら激怒しそうな話だが、完成のあかつきにはこの町に一万人の有権者が住むのだからその安全費用と言えば納得してもらえるかな?かな?

 古くは京都や江戸なんかがそうなのだが、良くできた都市計画には必ずオカルト的な加護が付与される。

 それがないと人というのは生まれては死ぬものだから、人の営みにおける因果の輪廻がさばききれないのだ。

 なお、家探しの一つの目安として、近くにそこそこ由来のある神社かお寺があって、その境内が綺麗かどうかでその地区の判断ができる。

 つまり、その地区に寺社を維持するだけの氏子もしくは住民の連帯が機能しているからだ。

 これが外国だと教会になるのだが、日本の場合は絶対人口が少ない事があって結婚式場としてしか使われない教会があったりするから困る。

 車が止まり、ドアが開く。

 工事現場のプレハブの前に一人のスーツを着た中年男性が頭を下げた。


「神奈絵梨様。

 今回の案件についてご説明させていただきます、帝建ホールディングスの相良と申します」


「神奈絵梨と申します。

 今回はよろしくお願いしますね」


 双方握手の手が痛い。

 とはいえ、我が父はジャパニーズビジネスマンよろしく仕事対応で我が娘を出迎えてくれたのがこの場ではありがたかった。



「今回の案件ですが、神奈で対応するかどうかの事前調査です。

 一応報告書は読ませていただきましたが、現場の相良さんからもお話を聞かせてもらってよろしいでしょうか?」


 プレハブの事務所内の机には工事区画の地図が張られており、その上にコーヒーカップが置かれる。

 灰皿も置かれているが、今は私がいる事で禁煙に協力してもらっている。

 臭いって思った以上に人間に影響を与えるのだ。


「はい。

 報告書に記載しておりますが、工業団地内に外国人労働者の居住区があり、そこでのトラブルが発生しています。

 日本人女性との関係による水子供養をお願いしたのですが、この件は殺人事件にまで発展しています。

 また、生活習慣の違いから、信仰に使っていた部屋の存在も確認されています」


 水子とは、生まれてこなかった子供。

 この場においてはつまり堕胎したという訳で、世に隠す事が多いから実は一番厄介な案件だったりする。

 そのくせ、生きている人間には呪いを残すからたちが悪い。

 新興宗教や霊感商法などのトラブルの筆頭にもなっており、近年の医療技術の発達とオカルト関連のブームが絡んで私達みたいな人間の一番の飯の種となってしまっている。


「事件そのものの風化については?」


「工業団地の閉鎖と外国人労働者帰国支援事業によって表向きは沈静化しているはずです。

 問題は……」


 我が父親が娘の顔を見る。

 それだけでなんとなく分かるのが親子というものだとふと思ったり。


「当時の住人の報告によると幽霊と思われる怪現象が。

 関係各所に連絡した結果、神奈様のご足労を願ったと」


 権力側が抱える陰陽師を呼んだ以上、下がそれに異を唱えるにはリスクが大きすぎる。

 で、一番やっかいなケースは、本当にオカルト的な何に触れて何かを呼び出してしまい霊的災害を勃発させてしまう事だろう。

 私はタロットカードを広げ、占いを紡ぐ。

 占いは呪いにもなりうるが、呪いだからこそその方向性は固定化できる。

 毒も弱ければ薬にもというあれだ。


 そして、当然のように出てくる『皇帝』の正位置。

 権力者の象徴であり、父性の象徴でもある。

 だが、この場合においては事業推進の確固とした意思とでも解釈しておくか。

 このカードが正位置で出る場合、大雑把だが方向性は間違ってはいないし、何かトラブルに巻き込まれてもそれを解決する能力はある事が多い。

 さて、問題の水子だが……うわ。

 『吊し人』が正位置で出ている。

 束縛されている、いや、地縛霊化しているか。

 で、『月』の正位置か。

 やばい。

 状況から見て、事業遂行に問題はないだろうが、確実にトラブルが発生すると出てやがる。

 あとは……『隠者』の正位置。

 これは私の事かな?それとも何か別のものか?


「占いの結論から申し上げます。

 事業遂行において問題はないと思いますが、確実にトラブルが発生するので姉弟子様にご報告させていただきたいと。

 つきましては、この学校建設予定地を視察したいのですがよろしいですか?」



 私はヘルメットをつけて工事現場を歩く。

 目の前にいる父の背中はこんなにも小さかったのだろうか。

 そもそも、父とこうして話をした事はあったのだろうか?


「神奈様の仕事を手伝っているとは聞いていたが、ここまで任せられるほどだったのか」

「いずれ、水樹姉様は私を後継者にと」

「親とすれば喜べないが、今は仕事だ。

 神奈様の仕事の後ではトラブルが少ないのはこの業界では有名だからな。

 なんとも言えないよ」


 淡々とした会話。

 私がこの道を進むと決めた時に、父も母も猛反対をした。

 姉弟子様の強引な説得もあったのだが、最後は私の意志が両親の反対を押し切ったのだ。

 私の見えているものが、両親には見えない。

 そして、足掛け十数年の異世界生活がこれを決定的にした。

 仲が悪いわけではない。

 少し人より早く親離れ、子離れをしたという事なのだろう。

 学校建設予定地はまだ工事が始まっておらず、整地もされていなかった。

 そんな場所を眺めながら、私は一つの社を見つける。


「あれは?」


 神奈としての私の言葉に父が資料を見て告げる。


「かなり古い社ですね。

 祭られているのはこの土地の神みたいで、氏子も既におらず荒れたままに。

 取り壊しが決定していますが、取り壊す前に神主を呼んでお払いをしてもらう予定です」


 これか。

 日本の神様はご利益がある神という側面に祟り神という側面も持つ。

 『触らぬ神に祟りなし』という言葉が生まれるだけの歴史的背景はもっているのだ。

 問題なのは、この神様が信仰の対象として祭られていたのか、その土地の霊脈を押さえるパワースポットとして祭られているかで、古い社である以上はまず後者と見た。

 日本でオカルトにかかわる場合、信仰がちゃんぽんになっているので最低限どころかかなり神道や仏教系の知識も必須となる。

 水子の地縛霊だが、信仰に使っていた部屋には何も感じられなかった以上、ここが本命だろう。


「これですね。

 姉弟子様にご報告する為の資料をお願いします。

 簡単な処理をするので人払いを」


 一瞬だけ親の顔に戻る父が何かうれしかった。

 私も娘の顔に戻ってウィンクを送り大丈夫だと告げる。


「わかりました。

 神奈様」


「ぽち。お願い」


 父が立ち去ったのを見て結界発動。

 姿隠しと音消しの魔法を発動させて、誰にも見られないようにする。

 それを確認したら、ぽちに本来の神竜の姿に戻ってもらう。

 水子等の意識ができる前の力はそれゆえに意思がはっきりせずに霊障を引き起こしやすい。

 だからこそ、まずは彼らの意識を導いてやる事が大切である。

 話ができるならば聞いてやればいい。

 敵意で襲ってくるならば祓ってやればいい。

 私はタロットカードを社の四隅に張る。

 『法王』、『力』、『吊された男』、『節制』を正位置かつ対角線に上に張ることで、結界に意味を作り出す。 

 社という宗教施設を意味する『法王』。

 水子という意思無き存在を示す『力』。

 結界という意味で用いた『吊るされた男』と『節制』。この二枚がけは何かあった時には二重結界になる。


 タロットカードの意味を組み合わせて物語を作り出し、その物語に運命を添わせる。


 それが私が魔改造したタロットカードの真骨頂である。

 手には世界樹の杖と発動のキーとなる『世界』。

 

「アストラルゲート開門!

 彷徨えし意思よ!姿を現せ!!」


 大量の力が結界内に流れ込み、それを形作ってゆく。

 私の前に現れた顔の無い赤子は泣き声をあげる事すらできずに、この結界内に漂っていた。

 無意識の内に私の左手は下腹を抑える。

 向こうの私は、生きる為のありとあらゆる事をした代償からか、子供を作れなかった。

 育児にかける時間が無かったというのもあるが、子供による異世界の枷を私が無意識に嫌ったというのもあるのだろう。

 アルフレッドとの間に子供を作っていたら、私はきっと向こうに留まったままだった。

 だからこそ、私の前にあるこの可能性に惹かれてしまう。


「ぐぁ!」


 ぽちの叫び声が無ければあやうく憑かれる所だった。

 危ない。


「貴方の可能性はこの地には存在しないの。

 お帰りなさい。輪廻の中へ」


 素直に帰ってくれればよし。

 帰らなければ、ぽちのホーリーブレスの出番である。

 虚空にたゆたうていた顔の無い赤子は、私を見る事無く、アストラルゲートの中に消えていった。

 そして、あたりには朽ちただけの社だけが残った。


「お仕事終了。

 それじゃあ、戻ろうか」


「きゅ♪」


  

 遠目で見ると、工事現場のプレハブには父の他に待ち人が居た。

 おそらくはお役所か父の会社の上役だろう。

 偽者がはびこるこの業界で本物というのは間違いなく引っ張りだこになる。

 ましてや、権力者お抱えの神奈の次期後継者候補ともなると情報が漏れない方がおかしい。

 そんな馬鹿達が私の日常に介入しなかったのも、女帝こと神奈水樹姉様の逆鱗に触れたくないからだ。

 にも関わらず接触しようとするのはよほどの馬鹿か、バックに何かあるかのどちらかしかない。

 特に太平洋戦争敗戦によって、この国のオカルトがらみはかなり弱体化して他勢力の介入を招いているのだから。


 10000時間という言葉がある。

 これは何かのプロになる為に必要な修行時間の目安とされているのだが、恐ろしいのは才能や経験といったものを解析し、数値化して提示する事で育成の目処をつけ、後進育成の容易化を目指したその思考にあるとは姉弟子様の言葉。


「あいつらたちが悪いわよ。

 トップクラス一人を育成するより、アマチュア複数を育成した方が効率はいいもの。

 で、そのアマチュア複数を育成するのにシステムから作り上げる。

 うちみたいに弟子とって、懇切丁寧に後継者作るより安定するし仕事も早い。

 私や絵梨が出張るような大事件ってあったら困るし、手に負えなかったら私らみたいなトップに頼ればいいという割り切りもある。

 そりゃ、戦争に負ける訳ね。

 神奈もわたしの代で終わりって言った師匠の言葉ってこのあたりに理由があるんじゃないかって私は思ってる」


 それを解析して見せて、そいつらを跳ね除けて女帝としてこの業界に君臨し続けている姉弟子様の才が恐ろしいのですが。まじで。

 なお、この業界も近年の日本の産業構造よろしく、一握りのトップと無数のアマチュアによって構成されているから中堅がいないブラック業界である。

 私?

 JKなのに希少種たる中堅と認識されているみたいですが何か?


 顔合わせて腹の探りあいや心に響かないありがたい話なんて聞かされても困るので、父にメールを打ってこのまま退散させてもらおう。

 ぽちを連れて歩くのもまたおつなものである。

 なお、この仕事で神奈に振り込まれた金額は400万円だった。

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