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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
王室法院の2番目に長い日

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99 王室法院枢密会 後編

「それでは、王室法院枢密会を再開します。

 ここでの議事は秘密を守ってもらい、漏らすと罰せられることを先に申し上げておきます」


 その議長であるベルタ公が片手をあげて私達を含めた全員が宣誓の言葉を述べる。


「女神と王国に誓い、真実を語る事を誓います」


 様式美だが、こういうのは大事である。

 だからこそ私や参加者だけでなく、大賢者モーフィアスでさえ片手をあげて宣誓の言葉を述べている。


「大賢者モーフィアス殿にお尋ねしたいのは、世界樹の花嫁について重大な報告を提出したという事で、エリー子爵より証言が出ているがこれは本当か?」


 誰もが気になっている質問にモーフィアスは発言を求め、それがあっさりと真実だと告げた。


「真実じゃ。

 まずは、この結論を出す前の事を話させて欲しい」


「静粛に!

 静粛に!!」


 ざわめく貴族達の声を抑えるためにベルタ公が木槌を数回叩く。

 それでもざわめきが落ち着くまで少しの時間を要した。


「そもそも、近年の不作傾向はここにいる皆様はご存しのはずだ。

 世界樹の花嫁は選ばれているのに、何故加護が得られないのか?

 国王陛下より秘かに命じられて、調査をしておった所じゃった」


 まあ、そう言われると納得せざるを得ない。

 国政に露骨に影響があるからなぁ。


「そこで、不作が始まりだした年から、その年の世界樹の花嫁を確認する作業を始め、花嫁たちの聞き取り調査も行った。

 すると興味深い事がわかったのじゃ」


 え?

 それ言うの?

 世界樹の花嫁がビッチでないと加護が受けられない以上の地雷なのに!

 私の内心など知らないモーフィアスは、あっさりと最大級の地雷を踏み抜いてみせた。


「花嫁たちの聞き取りは問題なく行われた。

 何しろ、近年、特に不作時に花嫁についた方々は、貴族の夫人や後宮の側室になられていた方ばかりだったからの。

 で、彼女たちは一様にこちらの質問の意味が分かっていなかった。

 『世界樹の迷宮で儀式を行ったか?』という質問の意味をの」


 うわ。

 そうきたかよ。おい。

 つまりはこういう事だ。

 花嫁である以上トップは女性と決まっている訳で、王妃や側室の登竜門として位置づけられてしまう。

 貴族支配が強まりその血統主義が大事になってくる中、血統のステータスとしての世界樹の花嫁に注目し、貴族の子女がそこに入り込んでサロンを形成した。

 ここまでは何度か話していたことだ。

 問題は、サロン化した世界樹の花嫁を放置して、豊穣の儀式そのものを行わなかったというよりその儀式そのものを隠蔽した所にある。

 世界樹の花嫁という巨大官庁は、女神神殿という信仰と宗教から切り離された経緯があり、その時点でかなりの伝承や慣例が闇に消えたのだろう。

 そして、血統だけで選ばれたサロンの花でしかない貴族子女が、国の豊穣という巨大利権を差配できる訳もなく、実務官僚たちがそのあたりをでっちあげたと。

 花嫁の身は一人しかない訳で、陳情は花嫁の前にあげられる前に、根回しされ整理されて届く事になる。

 政治経験の無い乙女をそんな省庁のトップにすえるようなものだから、当然次席たる長官級がいやでも力を持つ。

 花嫁候補はその時点で相当の待遇が与えられるが、サロンの花としての意味しか持たずに、構造上長官たる花嫁女官長と次官たる花嫁侍従長の下について仕事をする事になる。


「本来世界樹の花嫁は世界樹の迷宮を突破して、世界樹に認められる事で世界樹の花嫁となる。

 その為には世界樹地下の迷宮を突破して最深部で儀式をする必要があった。

 だが、現在まで続く世界樹の花嫁の選定は、国王を入れた内閣メンバーの過半数の支持が必要となる上で、法院の承認が必要となっておる。

 この方式を提唱したのが、当時の花嫁女官長であるゼラニウム・シボラ殿だ」


 ぶっ!!!!

 こ、ここでお師匠様の名前が出るか!

 ベルタ公を含め事情を知っている連中がこっちを見てやがる。

 お師匠様は宮廷魔術師を嘱望されながら失脚したのだが、女性の出世の登竜門だった世界樹の花嫁女官長というのはある意味納得できるキャリアだ。

 まてよ。

 先の王兄追い落としの政変によって王権が失墜し、貴族権力が強化された。

 その貴族権力の強化手段として、世界樹の花嫁に目をつけて、このからくりを作り上げた。

 お師匠様は権力闘争の敗者だ。

 こういう場所では必ず断罪される時に名前が出る。

 まてよ。まてよ。

 お師匠様が長官たる花嫁女官長とモーフィアスは言った。

 じゃあ、その時の次官である花嫁侍従長の名前をどうして言わない?

 モーフィアスを睨みつける私と目があってモーフィアスが嗤う。

 それで確信した。

 その時の花嫁侍従長はこいつだと。

 モーフィアスの狙いが私であることは把握している。

 正確には、私をお師匠様であるゼラニウムと勘違いしているのだが。

 だからこそ、花嫁女官長としてお師匠様の名前を出したのだ。

 どうして?

 責任を取らせる為に。



 ゼラニウムが世界樹の花嫁になれる事をモーフィアスは知っているから!!!!!



 そういう事か。

 全ての糸が収束された。

 もう笑うしかない。

 全てはミティアの為。

 国王の友人たるモーフィアスは、王子たちの誰かとミティアをくっつける事を意図する。

 国王の親心かモーフィアスの野心かまではしらぬ。

 けど、それをすれば必然的に世界樹の花嫁となったミティアに世界樹は加護を与えない。

 ならばどうするか?

 世界樹の花嫁というダブルミーニングを分けてしまえばいい。


「だからわしは以下の事を提言する。

 古から伝わる豊穣の加護が得られる世界樹の花嫁は、まず裸になって世界樹の雫によって身を清め、世界樹の巫女となる。

 そして巫女はその後奥にある世界樹の蕾と呼ばれる部屋に行き、七日七晩世界樹に加護を求め、世界樹の種を産む事で世界樹の花嫁となるという。

 この世界樹の地下にて儀式を行う者を世界樹の巫女として法院で決めてしまえば良い」


 内閣の一員として、貴族の乙女達のサロンとして世界樹の花嫁は残されるし、残さないといけない。

 それとは別に生贄として世界樹の巫女という新たな名前を与えて、その生贄を法院から選出させる。

 見事だ。

 そして、現在確実にこの巫女ができる人間が一人存在している。

 それが私だ。

 モーフィアスが私をゼラニウムと間違えているのか、別人と認識しているのかは知らないが、重要なのは王位継承者であるミティアの代わりに豊穣の加護を得られる生贄の存在である。


「現在の世界樹の花嫁の選定はこのあたりを嗅ぎつけた連中が介入しておる。

 この巫女を作る技術は、諸侯を飾っている華姫等に応用されていると言えばご理解はしていただけると思いますが」


 モーフィアスのこの一言が大勢を決める。

 これで、世界樹の花嫁と世界樹の巫女が分離されるだろう。

 で、その巫女に選ばれるのが私。

 これは詰んだかな。

 私自身出来レースで敗者になるのは構わないし、世界樹の花嫁として嬲られる覚悟もした。

 王位後継者のレースがモーフィアスに握られる事が不満ではあるが、私が許容できる妥協点でもある。

 誰が選ばれたしとても、私を巫女になるから豊穣の加護が働き不作傾向が緩和されるからだ。

 それだけでもこの国の崩壊は大幅に後退する。

 後は、王位継承者をモーフィアスがちゃんと選べるかだが、ここまで老獪ならばまずしくじらないだろう。


 

 

「お待ちください!

 発言を求めます!!」




 私が撤退戦を考えだしていた時、議場のドアが開いて堂々かつのーてんきな声が聞こえる。

 なんでここに現れたミティア。

 あ、こいつ主人公だっな。そういえば。


「ここは王室法院枢密会。

 参加資格のない者には発言権はありません」


 このあたりの公私をしっかり分けてベルタ公がミティアに退出を求めるが、ミティアは一歩も引かない。

 全員がひっくりかえる切り札を持って、ミティアは堂々とその参加資格を告げた。


「私には参加資格があります!

 私の父は、王兄ダミアン・オークラム!!

 世界樹の花嫁候補生ではなく、オークラム統合王国王室の一員として発言を求めます!!!」


 そして、ベルタ公に向かって堂々と満面の笑みを浮かべてみせる。

 ああ。絵になる顔だ。さすが主人公。


「私の生まれについては、ベルタ公が保証してくれます。

 キルディス卿が全部吐いてくれましたわ」


 よく見ると耳元にイヤホンが。

 これ、姉弟子様の仕掛けかよ。

 という事はドレスに……あった。盗聴器。

 私は乾いた笑いしか浮かべることができない。

 そういえば、敵討ちするって言っていたなぁ。姉弟子様。

 私が妥協を考えてるのが分かって介入してきたか。

 あ。

 ドア側のマントあれアリオス王子かよ。

 さすが姉弟子様。抜かりがないなぁ。


「たとえ発言があったとして、お主にとっては何も問題がない事のはずだが?」


 モーフィアスの勝ち誇った笑みに、ミティアはまったく引かない。

 駆け引きなんか気にしないからこそその言葉に重みがある。


「あります。

 世界樹の花嫁たちの犠牲の元にこの国の繁栄は成り立っている。

 そうモーフィアス様はおっしゃっているのでしょう?

 そんなの間違っている!!!」


 ああ。

 ここまで政治オンチである事が清々しい。

 ほら。モーフィアスが勝ち誇って追撃をかけてくるぞ。


「間違っているも何も、全てを助けることはできないぞ。

 それとも、お主はこれを変えうる手を持っているというのか?」


「はい。あります!」


 ざわめく議場。

 誰もが事の成り行きについてゆけない。

 私も何を言い出すのかわからないから、成り行きに流されるしか無い。


「人は自然から与えられたものにもっと謙虚になるべきでした。

 その恵みに感謝し、豊作ならば共に喜び、不作ならば苦しみを分かち合って、未来を良くするように頑張るべきなのです!」


「ええい!

 何が言いたい!!

 本題に入らぬか!!!」


 まどろっこしくなったモーフィアスが、一気に結論を聞きたいが為に急かす。

 だからこそ、彼はミティアによって盛大に墓穴を掘ることになった。




「私が世界樹の花嫁になった暁には、『花嫁請願』を持って世界樹の放棄と世界樹の花嫁の廃止を請願します!」





「!!!」




 やりやがった。

 政治オンチだからこそ、馬鹿だからこそ伝家の宝刀を使いやがった。

 しかも、世界樹の放棄と世界樹の花嫁の廃止と来たか。


「馬鹿げている!

 そんなものが通ると思っているのか!」


 モーフィアスの怒声にミティアが怯む。

 さすがに姉弟子様の指示では追い切れないか。

 ならば、姉弟子様とミティアが敷いてくれたレールに乗っからせていただきますか。


「通るも何も、モーフィアス様自らがさっき世界樹の巫女と花嫁を分けると提言したじゃありませんか。

 ミティア様が花嫁にならかった場合、私が花嫁になるのですがよろしいので?」


「……!」


 勝ち誇っていたモーフィアスの顔が歪む。

 あんたの敗因は、急所を握っていた事だよ。

 だから、それ以外の急所を掴まなかった。

 大賢者モーフィアス。

 これが政治だ。

 権力闘争だ。

 たっぷり味わってもらおう。


「議長。

 発言を求めます」


 わざとらしく、ベルタ公に発言を求めた私は作り笑顔でセドリック王子に顔を向ける。


「メリアス太守のセドリック殿下。

 先ほどのミティア嬢の発言ですが、王室直轄都市の全権は都市太守の手にあります。

 世界樹の放棄というミティア嬢の提案は、セドリック殿下にはできるのですよ」


「セドリック殿下!

 耳を貸すでない!!

 この国を豊穣にする世界樹の加護を自ら捨てるなど、そのような事は許されるべきではない!!」


 モーフィアスが私の話を遮ろうとするが、それがかえってセドリック王子の火に油を注いだ。


「そのような事?

 大賢者ともあろうお方がお忘れのようだ。

 そもそも、この枢密会はそのような事の為に開かれ、それに世界樹の花嫁争いが絡んでいるのですよ。

 それに私は巻き込まれた」


 淡々とした声だからこそ、セドリック王子の怒りが分かる。

 大賢者モーフィアスがその顔を見てたじろぐが、彼の言葉は止まらない。

 やっぱりこの人もできる人だ。


「世界樹の花嫁にこのような背景があった事が驚きだ!

 大賢者モーフィアス。

 貴方が、影響を鑑みて極秘裏に調査をした事は正しいと思う。

 だが、言わせてもらう。

 もっと早く公表してくれれば、私は巻き込まれなかったのだ!!!」


「……」


 ほら。

 アリオス王子を排除しようとしたらセドリック王子にお鉢が回る事になる。

 セドリック王子の下にカルロスがつくことは先の定例会で承認されたぞ。

 この状況でアリオス王子を排除できるかな?

 ミティアに王位の正当性があるのだから、代わりの諸侯を持ってくるのもありだ。

 だが、西部諸侯はベルタ公が抑え、東部諸侯はタリルカンド辺境伯でエリオスという隠し札がある。

 北部諸侯はそこでアンセンシア大公妃が睨んでいるから動くつもりはないぞ。

 更に、法院貴族のヘインワーズ候は既に全面降伏している。

 王位継承者のほとんどから、あんたは敵対認定されているんだよ。

 私は笑みを浮かべながら、議長であるベルタ公にこう提言してみせた。


「議長。

 大賢者モーフィアス殿の話題ですが、早急にかつ枢密会で決めるのには無理があります。

 正式に定例会に持ち込むべき事案かと。

 ですが、日も落ちつつあり、この後アリオス王子の立太子の承認提案が控えているので、次回定例会への継続審議にしてはどうでしょうか?」


 時間稼ぎ。

 だが、時間はこちらに有利になる。

 モーフィアスの時間は持って数年。

 けど、ミティアをはじめとした王位継承者達はその数倍の時間があるのだ。

 そして、当座の危機は先の定例会での神殿喜捨課税阻止に成功し国立銀行設立で凌ぐことができる。


「この場にいらっしゃる諸侯にお伺いしたい。

 世界樹の花嫁争いも詰まる所、話の枝葉に過ぎません。

 まずは幹や根の話が先なのでは?」


 アリオス王子の立太子が決まれば、諸侯が絡んでいる王位継承争いに決着がつく。

 その上で残りの勝敗を決めてしまえばいいという私の論点隠しに皆はあっさりと乗った。

 アリオス王子が王を継ぐ資格は誰もが認めている。

 それはアリオス王子への政治的得点としてこの問題を丸投げする事を意味するし、それによってアリオス王子の指導力を見せられるという訳だ。 

 私はここでわざとらしくセドリック王子の方を振り向く。

 モーフィアスだけでなく他の参加者も口を挟まない。

 挟む余裕が無い。


「殿下も表に立つ以上、ちゃんとした奥様をお持ちになるべきかと」


 わざと話を振ることで、セドリック王子の奥方の席が空いている事を皆に周知させる。

 そこに誰を送り込むかで利権が発生するだろうし、私が指摘した事でアマラをその席に座らせないというアピールだ。

 同時に、ここでアマラとの関係を精算するという宣言にもなる。

 私とセドリック殿下の間に裏取引は成立している。


「もちろんだ。

 王室の一員としてふさわしい女性を選ぶことになるだろう」


 私とセドリック王子の間の裏取引を誰もが認識した。

 世界樹の花嫁がらみで、現場であるメリアスは大賢者モーフィアスに従わない事を示したのだ。 

 ベルタ公が木槌を叩く。


「以上を持ちまして、この議題においての審議を終了したいと思います。

 意義のある者は?」


 誰も発言しない。

 私も、モーフィアスも、セドリック王子も、フリエ女男爵も、他の参加者も。

 ベルタ公はそれを確認してゆっくりとその言葉を口に出した。


「なしと認めます」


 木槌の音が響く。

 それと同時にミティアが私に抱きついてくる。


「どうです!

 私やりました?」


 姉弟子様のサポートがあったとはいえ、見事な逆転満塁ホームランおめでとうミティア。

 抱きついてはしゃぐミティアを背負って、私は今回貧乏くじを引いてもらったフリエ女男爵とセドリック王子に頭を下げた。


「ありがとうこざいます。

 この借りはいずれなんだかの形でお返ししたいと思います」


 私の言葉にフリエ女男爵はただ微笑んで議場から出てゆく。

 セドリック王子は手を差し出してきて、私と握手をしてこう告げた。


「カルロスの貸しを返しただけさ。

 こういうのが、政治ってものなのかい?」


 背中のミティアを含めた三人で笑う。

 その隣を苦々しそうな顔でモーフィアスが横切っていった。




「貴方の思い出の場所でお待ちします」

「!?」




「どうしました?

 エリー様」


「……なんでもないわ」


 何で?

 どうして?

 モーフィアスはさっきの言葉を日本語で私に告げたの?

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