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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
王室法院の2番目に長い日

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94 王室法院定例会 第一議題 後半

 大賢者モーフィアスがロベリア夫人を連れて王室法院に入ると、流れが一気に変わったのが分かる。

 南部諸侯が大賢者モーフィアスの方についたと見られたのだ。

 元々南部諸侯をまとめる側だったヘインワーズ公爵家は失脚する前に大賢者モーフィアスと組んで私を召喚した縁もある。

 ヘインワーズ候が失脚した今、南部諸侯に大賢者モーフィアスがついたと錯覚させるには十分だ。

 東部諸侯と南部諸侯の反対でセドリック王子のメリアス太守就任が流れたら、神殿喜捨課税で今度は西部諸侯と組むつもりなのだろう。

 ここまで立て続けに潰されると、アリオス王子の立太子すら危うい。 


「それでは審議を再開します。

 その前に、この件に関して近衛騎士団のフリエ・ハドレッド女男爵より報告があります」


 審議再開。

 隠し事は隠すから問題であって、出してしまえるならば問題は別の方向に移る。


「捜査していた法院衛視隊からの報告によると、セドリック殿下襲撃事件と先に王都某所に発生したエリー・ヘインワーズ子爵襲撃事件の犯人が同じである可能性が示唆されました。

 近衛騎士団はこの報告を元に世界樹の花嫁襲撃事件もこの犯人が関与していると断定し捜査を続けております」


 ざわめく議事堂内。

 もちろん、先の休憩のうちに情報そのものは行き渡っているはずだが、改めて公にされることで再確認している貴族も多いだろう。


「議長。

 発言を求めます」


「エリー・ヘインワーズ子爵」


 私が手を上げて議長であるベルタ公が私の名前を呼ぶ。

 そして登壇して一礼した上で口を開いた。


「今回の一件は、法院衛視隊の捜査の為に口に出せる所が多くないのですが、私への襲撃事件が背景にあるらしく、セドリック殿下を危険に晒すことになってしまいました。

 内々のうちに謝罪はさせていただいたのですが、改めてこのような場所で謝罪させていただきます」


 ゆっくりと静かに私は頭を下げた。

 日本人不祥事の見本よろしく深くゆっくりと、つむじが見えるまでに頭を下げた時にセドリック王子が議事堂内に聞こえるように声を張り出す。


「ヘインワーズ子爵も被害者だ。

 謝られる理由はないが、その心遣いに感謝しよう」


 とりあえず、これでセドリック王子の襲撃事件を世界樹の花嫁争いにリンクさせる事ができた。

 次は問題の核心であるメリアスの治安絡みだ。


「議長。

 発言を求めます」


「アリオス殿下」


 私が登壇台から下りると、代わりにアリオス王子が登壇する。

 現メリアス太守代行という地位にいるので、彼が治安対策をどう語るかで、この後の話ががらりと変わる。


「メリアス太守代行として、現在のメリアスの治安問題についてお答えしたい。

 現在のメリアスの騒乱は大きく二つに分けられる。

 一つはメリアス魔術学園内部。

 これは、ヘインワーズ子爵も言った世界樹の花嫁争いが関与している。

 もう一つは、魔術学園を襲撃した盗賊ギルド討伐で混乱しているメリアスの裏社会だ。

 この二つの治安回復に、メリアス太守代行として以下の手を打っている。

 一つは、近衛騎士団及び法院衛視隊のメリアス騎士団編入にともなう巡回と警備強化。

 もう一つは、メリアス魔術学園学園長に大賢者モーフィアス殿に就任を打診している所です」


 ち ょ っ と ま て !

 それ私聞いてない。

 というか、ラスボスをこちらの懐の中に入れるってどういう了見……なんて考えていたら、アリオス王子が私の方を見てウインクした。

 あ。

 この案何処かで聞いたことがあるぞ。



「なら、メリアス太守が更迭されるのに合わせて、魔術学園学園長も替えてしまうのはどう?

 この椅子に大賢者モーフィアスを座らせてみない?」



 姉弟子様だったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 いつの間にアリオス王子に接触して吹き込んでいるんだよ。

 人目をはばからず頭をかかえて呻くが、妙手であるという事がだんだんわかってくる。

 この案の当初の目的が味方だと思っていた大賢者モーフィアスの政治的影響力の排除後に、不祥事を起こした魔術学園の学園長の椅子を与えて国政に関与させないようにするのが目的だ。

 彼がラスボスと分かった今でも彼を粛清する事は表向きは無理なので、こうして先にそれを提示するのはありといえばありなのだ。

 何よりもこの提案の良い所は、ヘインワーズ候の失脚に巻き込まれた形になる大賢者モーフィアスを救うという表向きの看板はそのままな点。

 そして、治安強化という名目で彼をメリアス魔術学園に押し込めて監視できるという点だろう。

 姉弟子様はこういう所での提案はまず外さない。

 実務者の私が奔走する羽目になるが、それを除けばまずベストな案だ。

 東部諸侯のセドリック王子就任の反対理由がメリアスの治安悪化だから、こうやって対処していますと提示されるとその問題点を見つけないと反対が維持できないのもポイントだ。


「諸君。

 私は弟がこの舞台に立つに当って、できるだけのことをするつもりだ。

 また、弟が王族として王室を支える意志を見せた事で、安心してこの椅子を弟に渡す事ができる。

 弟が王室を、この国を支える以上私も兄としてそれに答えねばならない」


 そこで一息つく。

 あくまでアリオス王子はこの場での勝負を求めた。


「諸君。

 私はこの後、正式に王太子に立つつもりだ。

 その承認をこの後求めたいと思う」


 アリオス王子が己が切れる最大の手札を切る。

 立太子承認。

 制限君主制であるオークラム統合王国は、次期後継者である立太子も法院の承認が必要になる。

 そして、立太子として出る為には、現メリアス太守代行職は邪魔になる。

 立太子信任の前投票にしてしまった以上、反対に回るという事はアリオス王子に敵対する事を意味する。


「議長。

 発言を求めます」


「セドリック殿下」


 アリオス王子が登壇台から下りると、代わりにセドリック王子が登壇する。

 セドリック殿下は一同を見渡した後で、堂々とした声で己の意思を告げる。


「諸君。

 私の太守就任前にこのような不幸事が発生してしまい申し訳ない。

 とはいえ、メリアス太守に就任したら、私も王族として王族の義務を果たしたいと思う。

 また、昨今耳に入ってくる兄弟間の不和について兄上とも相談した結果、弟のカルロスを私の下につけて王族の義務を学ばせたいと思う。

 すでに兄上の了解はとっており、法院の諸君の賛同を持ってこの不和の解消につとめたいと思うがいかに」


 こういう時に声をあげるのは無粋である。

 私は席から立ち上がり、ただゆっくりとセドリック王子に向けて拍手を送った。


 ぱちぱちぱち……

 私を見て法院貴族達も立ち上がって拍手を送り、それを見た諸侯も拍手で続いた。

 議事堂に轟く大拍手になるまで一分もかからなかった。

 拍手をしたまま私はじっと東部諸侯のドンであるタリルカンド辺境伯を注視する。

 ここで手を叩かなくても大勢は変わらないだろうが、こちらの誠意を見せてなお敵対するかどうかはこの後の展開に係る。

 その瞬間をものすごく長く感じた。

 武人として引き締まった体を持つ老人はゆっくりと立ち上がり、同じくゆっくりと手を叩いたのだ。

 これで勝負がついた。

 全員が起立し拍手を送るまでそんなに時間はかからず、セドリック殿下の太守就任を妨げるようなものではない。

 その拍手に、セドリック王子は片手を上げて王族の仮面をかぶったまま答えた。



「では、セドリック殿下のメリアス太守就任に異議のある者はなしと認め、殿下の太守就任は承認されました」



 ベルタ公の声と木槌の音が聞こえても拍手はしばらくやまなかった。

 こうして前座は終わり、ついに本番に入ってゆく。


「では、昼食休憩とし、その後神殿喜捨課税問題の審議を行いたいと思います」




 

「失礼します。

 この後の議事について変更をお知らせします」


 法院の書記官が議事変更を知らせに私の所にやってくる。

 アリオス王子の立太子承認の審議は緊急上程されたので、今日の定例会の一番最後にまわされることになった。

 その為、審議の変更が出ているのだろう。

 彼は、それが何を意味しているのか知らないので淡々とそのスケジュールの変更を告げた。


「世界樹の花嫁の件で、午後より王室法院枢密会が緊急に開かれます。

 エリー・ヘインワーズ子爵に出席していただきたい」


 そうきたか。

 枢密会が開かれたら、参加者および関係者はそっちを優先する必要がある。

 秘密かつ緊急の案件を処理するのが枢密会だからだ。

 そして、私の体は一つしかない。

 つまり……


「エリー様を定例会に出させずに一気に片付けるつもりか!」


 横で聞いていたヘルティニウス司祭が吐き捨てる。

 私という核がなければ、午後の定例会で審議されるはずの神殿喜捨課税は通ると踏んだ訳で、その狙いはまったく持って正しい。

 私の太守就任あたりで妨害がないなと思っていたらこんな隠し球を用意していたか。

 なお、ベルタ公が枢密会の議長をするので、定例会の議長はアンセンシア大公妃が出る。

 諸都市の貴族に金が落ちる神殿喜捨課税を、北部諸侯のドンたるアンセンシア大公妃が表向き反対できる理由がない。

 そして、その表向き反対する理由を作れる私は枢密会に出席していて関与できない。

 腹が立つよりこれを考えだした黒幕に拍手を送りたくなる。


「いいわ。

 出席すると伝えて頂戴。

 ヘルティニウス司祭はシドと一緒に貴族への根回しお願い」


 私は返事をした後に、ミティアの方を振り向いていい笑顔を作った。

 ミティアがその笑顔を見て一歩下がる。

 彼女も少し成長したらしい。


「ねぇ。ミティア。

 貴方にとっても大事なお仕事を頼みたいのだけどいいかしら?」


「え?

 あ、はい。何でしょう?」


 キルディス卿が断れと目で言っているが、分かっていないミティアがほいほいと受けてくれる。

 という訳で、彼女にも政治という洗礼を受けてもらおう。


「私が枢密会から戻るまで、定例会を引き伸ばして頂戴」


「どうやって引き伸ばせばいいのですか?」


 よく分かっておらずに首をかしげたミティアに、私はいい笑顔でぶった切ってあげた。

 これだけ人間かき集めたのだ。

 それぐらい自分で考えろと言下に込めてヒントは出してあげよう。


「がんばってくださいね。

 世界樹の花嫁候補生さん」

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