表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
王室法院の2番目に長い日

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/119

90 グロリアーナ王妃の決断

 王都オークラムの中心にある王宮『花宮殿』。

 その最奥にある王室の住む所を隠語で『王の花園』と呼ぶ。

 オークラム統合王国最高レベルの警備が施されたそこに入る女達は、世界樹の花嫁か華姫でないと入れないからだ。

 その『王の花園』に私は足を運ぶ事になる。


「失礼ですが、御身を検めさせていただきます」


「どうぞよしなに」


 当然の事ながら、ここに入るためには身体チェックが必要になる。

 近衛騎士団による身体チェックの後、中に入れるのは私と護衛騎士のサイモンのみとなった。


「アルフレッド。

 すまないけど、ぽちと一緒に待っていて頂戴」


「かしこまりました。お嬢さま」


 アルフレッドが一礼してぽちを抱きかかえる。

 私とサイモンはそのまま『秘密の花園』の奥に進む。


「前々から気になっていたのですが。お嬢様。

 彼の何処がいいので?」


 後ろを歩くサイモンからの囁き。

 魔族のハーフだからこそ、その声は悪魔の囁きのそれだ。

 普通の女ならば落ちる。


「恋に落ちるってそんなものよ。

 唐突に突然に。

 そんな答えじゃ納得できないかしら?」


「納得できませんな。

 お嬢様はそのあたりの割り切りはちゃんとなさるお方だ」


 アルフレッドとぽちが離れたのでチャンスと思ったのだろう。

 今、私を堕とす格好のチャンスであるという事を。


「何が言いたいのかしら?」


 振り返った私をサイモンは壁に寄せて手で逃げ道を塞ぐ。

 まさかこんな場所で悪役イケメンに壁ドンされるとは思わなかった。

 いい男だからこそ、これが実に絵になる。


「俺の物になれ。

 エリー・ヘインワーズ。

 この国での最高の栄華と最高の快楽を約束しよう」


 これゲームではミティアに向けて言う台詞である。

 なお受けると、そのままサイモンルートで堕とされる訳で。

 けど、彼の顔と言葉の真剣さだけでなく、あえて魅了の魔法を使わなかった所に彼の本気度が分かる。

 彼が私を抱いたのは、一週間魔物に嬲られた後の最後の一回きり。

 その一回で私はほとんど堕とされかかったのを覚えている。

 あの快楽を記憶しているから、サイモンへの返事が遅れる。

 こちらからサイモンに近づいて、耳元でその言葉を告げた。


「具体的な案は?」


 受けるつもりは無い。

 けど、無碍にするつもりもない。

 快楽も悪くは無いが、サイモンがこの混乱を収拾できる才能がある事を知っているからそこ、私はあえてそれに乗った。

 サイモンは愛を囁くようにそれを口にする。


「継ぎ花は何処に植えても咲くのでしょう?

 ならば、花畑の管理人の腕次第かと」


 要するに、私を何処に送り込むかという話だ。

 ミティアが王女である事はばれているので、私が負けることは問題が無い。

 で、負けた後の私の送り先だが、サイモンはセドリック王子襲撃事件で広がった女神神殿の聖女につけと言っているのだ。

 それは、次期大神官へ就けと言っているに等しい。


「南の花畑はよく整えられていますよ。

 何を植えても花が咲くぐらいには」


 南部諸侯はロベリア夫人経由で掌握したと暗に言っていた。

 政治的中立を維持していた女神神殿と省庁と化した世界樹の花嫁双方に顔が利く私がその地位に就けば、ミティアの嫁ぎ先を決められると踏んだのだろう。

 国王と次期王太子の確執は王権の更なる弱体化を呼ぶと踏んだからこそ、私をキングメーカーに据えたいのだ。

 そして、私はサイモンの上で腰を振りながら、ミティアの嫁ぎ先をカルロス王子に指名すると。


「他の花畑だって花は必要でしょうに」


「西の花畑は咲き誇っていますが、日が沈みます。

 北は何を植えても花が咲くでしょうし、東は日を浴びた西を羨ましがっている。

 南の花畑で花が咲いたならば、皆、見には来るでしょうな」


 現政権であるベルタ公の追い落としを餌に、東部諸侯と北部諸侯を取り込む腹らしい。

 ゲームでは多分それが成功したからこそ、アリオス王子は歴史の闇に消えた。

 だからこそ、彼の知らないそれを指摘しようとしたら、サイモンの背後から声がかかった。


「東の花畑は動きませぬぞ。

 北の花畑はどの花でも咲くがゆえに、常に注目される事を軽視しておる。

 それと、女性への口説き文句ならば失格ですな」


 驚愕の顔を私に見せた後で何も無い様を作って、サイモンは大賢者モーフィアスに振り向く。

 誰も居なかったし、魔法も感じられなかった。

 さすが大賢者。


「失礼。

 王妃様がお待ちなので探しておりましたぞ」


「あら。

 これは大変。

 サイモン。

 急ぎましょう」


 礼をして私は大賢者モーフィアスの横を通り過ぎる。

 邪魔をしたのだろうか?

 それとも……


「お気をつけなされ。

 ここは王の花園ですからな」


 ……助けてもらったのだろうか? 

 敵である大賢者モーフィアスに。




 勝手知ったる花宮殿とばかりに、私達は王宮の奥を進む。

 廃虚となった王宮の復興をしたのは私なので、部屋割りはともかく通路や隠し通路については今でもちゃんと覚えている。


「王妃様は私に何を言ってくるのかしら?」


「さぁ。

 護衛騎士の身には分かりかねますな」


 今回の訪問は、グロリアーナ王妃の招待だったりする。

 フリエ女男爵は王宮でお茶会を開いてくれたが、あれは来賓用のスペースだった。

 今回のお招きは『王の花園』、つまり敵地ど真ん中である。

 さっきまでのやりとりなど無かったそぶりで私達は進む。

 この中に居る侍女および女近衛騎士は全員王の為の華姫でもある。

 そして、子を成す事ができる王妃のみがこの中の女主人であり、王の花嫁なのだ。

 ロベリア夫人みたいに側室として子を成す場合、花宮殿の外に屋敷が与えられる形で明確に正室と側室が区別されるのだ。

 王宮の最奥のさらに奥にある一室。

 王室のプライベートスペースであるその部屋は小さな屋内庭園で、そこのテーブルにグロリアーナ王妃が一人座って私を待っていた。

 扉の近くに佇んでいるのは、近衛騎士としてこの中にいるセドリック王子一人のみ。


「よくいらっしゃいました。

 さぁ。

 おかけになって」 


 私はサイモンに扉近くで待つように手で指示すると、グロリアーナ王妃の用意した椅子に座る。

 テーブルには王妃が入れたのだろうお茶と用意されたお菓子が整然と並んでいる。


「よろしければどうぞ。

 毒見は必要かしら?」


「結構ですわ。

 ご招待に預かり光栄です」


 共に護衛ひとりずつのサシでのお茶会。

 これで雑談のみで終わるのだったら私がびっくりである。


「まずは感謝を。

 セドリックを助けてくれて」


 ちらりと壁際のセドリック王子を見ると、こちらに向けて苦笑していた。

 どうやら、セドリック王子襲撃事件が王妃の耳に入ったらしい。

 そのお礼という訳だ。

 グロリアーナ王妃はアリオス王子とセドリック王子の母であると同時に、ヘインワーズ侯が失脚した後に摂政として振る舞い実務はアリオス王子にぶん投げる程度の政治力を母親からきっちりと仕込まれている。

 なお、その母親はあのアンセンシア大公妃で、父親については分からないらしい。

 さすがエターナル・ロイヤル・ビッチ。

 そんな彼女はアンセンシア大公妃の腹から出た事でアンセンシア大公家の者として扱われ、後にファルターク公爵家に養子に出されてファルターク公爵家からオークラム王室に嫁ぐなんて経歴ロンダリングをやっていたりする。

 考えてみると、アリオス王子が歴史の闇に消え、セドリック王子がカルロス王子に敗れるという事は、彼女の政治的敗北を意味している。

 彼女の末路は歴史に記されてはいない。


「まぁ、色々とありまして。

 王妃様は何処まで知っていて、何をお望みなので?」


 こういう場合は直球勝負に限る。

 夫と息子が政治的確執で火花を散らし、殺しあう寸前にまでいっている状況に私に何をさせたいのか?

 明確な言葉でどちらの方につくのか指定してくれると助かると思っていた私に、グロリアーナ王妃はあっさりと自分の立ち位置を示した。


「簡単な事よ。

 息子たちを助けてほしいの」


 母は強し。

 愛する夫より産んだ息子を選ぶか。

 それでこの人は終わらなかった。


「あの人が幽閉されたならばそこに私はついて行くわ。

 妻ですもの」


 なるほど。

 これがグロリアーナ王妃の母として、妻としての答えか。

 ならば、こちらもその要求に応えるとしよう。


「次の王室法院定例会が山場になります。

 王妃様。

 養父が引退した事で、摂政として動いてもらいます。

 アリオス殿下の立太子について」


 次々と起こる事件と、国政の窮状が次の法院を大規模政争の発火点として諸侯の誰もが認識していた。

 次の法院でのイベントはこんな感じである。


1)私のエルスフィア太守就任

2)セドリック王子のメリアス太守就任

3)神殿喜捨課税問題

4)世界樹の花嫁及びセドリック王子襲撃事件の報告

5)アリオス王子の立太子承認


 ヘインワーズ候が引退したので執政官位が一つ空席となり、その穴埋めを王室指名の摂政がする事になる。

 諸侯の力が強い現在ではただの慣例みたいなものだが、アリオス王子が表舞台に立つ為には立太子として承認を受けた後で摂政に就かねばならない。

 法院議長は執政官が行うので自然とベルタ公が座る。

 つまり、アリオス王子の立太子上程を行うのは、摂政であるグロリアーナ王妃なのだ。

 この天の采配を逃すつもりはない。

 グロリアーナ王妃は私の言葉を聞いて少し考えこむ。

 その為に、お茶二杯と少々のお菓子がテーブルのお皿から消えることになった。

 何を考えている?

 これ以上の最善の手は無いはずなのだが……?


「ねぇ。

 摂政は、『王室の指名で、王室の血縁者が就く』のよね?」


「……そうですが何か?」


 私の確認を聞いたグロリアーナ王妃は想定外の鬼手を切ってきた。

 私だけでなく、ポーカーフェイスを作っていたサイモンやセドリック王子すら唖然とする鬼手を。


「じゃあ、摂政はお母様にやってもらいましょう」


と。


「王妃様!」

「母上!!」


 私とセドリック王子が同時に叫ぶ。

 グロリアーナ王妃の母親、アンセンシア大公妃は紛れも無いオークラム王室の一員である。

 摂政の資格は十二分に持っている。

 だが、あのエターナル・ロイヤル・ビッチは精霊によって守られている北部から離れて王都に来ようものならば、諸侯だけでなく王室からすらも暗殺者が送られかねない超特大地雷でもある。

 揉める。

 壮絶に揉める。

 火に油を注ぐどころの騒ぎじゃない。


「だって、私だとあの人に勝てないもの」


「……」

「?」


 グロリアーナ王妃の一言で答えを知っている私は沈黙し、答えを知らないセドリック王子は首をひねることしかできなかった。

 国王パイロン三世ではなく、彼の友として彼に尽くして動いている大賢者モーフィアスの事だ。

 本来口を挟む事ができないサイモンの呟きは思ったより大きかったので、私達の耳に届く。


「来るのか?

 あのお方が……?」


「来るわよ」


 グロリアーナ王妃は断言する。

 笑みすら浮かべたその言葉には確信があった。


「セドリックが今回の一件で私に助けを求めたようにね。

 親は子供が助けを求めたら、どんな所にも駆けつけるものなのよ」


と。




「感謝する。

 エリー殿」


 お茶会の後、去ろうとする私達にセドリック王子がついてくる。

 セドリック王子がこの席を作ったのだから、彼も私に何かいう事があるのだろう。


「で、私に今度は何を求めるので?」


「アマラの事だ」


 サイモンが隣で耳を立てているのにこれを言うのだから、度胸があるというのかなんというか。

 私の呆れ顔なんてお構いなしに、セドリック王子は話を続ける。


「メリアス太守に就いてしまえば、諸侯から嫁を送られるだろう。

 俺はそれを拒否できない」


 ああ。

 この人は本気でアマラを愛しているのだろう。

 アマラとシドの繋がりを知っているのに、それでも己の愛に嘘をつけなかったか。

 私か既に忘れてしまったそれを見て少しだけ心が痛む。


「彼女に伝えてくれ。

 『彼女を飾りたい』

と」


 要職につくセドリック王子にアマラみたいな女が側に居続ける事ができるのも華姫の特徴だ。

 アマラ自身が華姫に憧れている以上、セドリック王子の申し出は彼女の夢の実現でもある。


「確かに伝えておきましょう」


 王宮の控え室に来ると、待っていたアルフレッドがぽちを抱えてこちらにやってくる。

 セドリック王子の気持ちがなんとなくわかってしまう自分が本当にいやになる。


「どうしました?

 お嬢様」


「なんでもないわ」 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ