第16話
三枝タマという女の子やばかったな。
あの手の女の子は、危ないから手を出さないようにとガレオさんから学んだからな。それがなくても、手に終える気がしないから無いと思うけど。
リザードマンのアイテムを回収しながら、タマちゃんが言っていた事を思い出す。クレリクという集団が冒険者の間で危険視されていること、今度地下街の冒険者ギルドで詳しい話を聞かせてもらわないといけないな。
忘れてた。
落ちてた素材は『リザードマンの爪』×5、『リザードマンの肉』×10、『リザードマンの皮』×3、『リザードマンの鱗』×21だった。
ドロップは一つに付き、一体とされているから三十九体から追われていたことになる。タマちゃんの実力は知らないが、モンスタートレインを行う奴等の事だから知らないわけがない。
「モンスターの香」
ダンジョンにいるモンスターにだけ利く上に、人間には無臭という好ましくないアイテムであるため、値段も高額だし、その存在はあまり、明らかにされていない。
地下街の冒険者ギルドでリザードマンの素材を納品し終えると早速情報収集を行うことにした。
報酬を受け取り、いつもならそのまま帰るのだが今日は留まり受付に声をかけた。
「なんでしょうか」
「ちょっと教えてほしいんだけどさ、ヴァルハラにいるモンスタートレインを行う奴等についてだよ。流石に、知らないわけないよね?」
受付の表情が強張った。
「まさか、その被害に・・・あわれた、と?」
「だとしたら、なに?」
「ああ、嘘でしたか」
ちょっと笑いながら言ったからかな?それとも、タマちゃんの言ってたスキルってやつかな?嘘発券機みたいな。
「あはは、バレちゃったか。でも、被害にあってる子を助けたんだ。だから、予防線を張りたくてね」
「なるほど。分かりました。ようやく、チャム様が世間に関心を持ってくれたようで嬉しく思います。今回、お話しさせていただくのは一年前から噂されていた情報ですから」
え゛っ!???
それは、恥ずかしいな。ていうか、受付に心配されるほど世間知らずな僕は一体……。
「立ち話もなんでしょうから、あと三十分ほどお待ちいただけませんか?」
「なんでだ?」
「そしたら、仕事を切り上げるので何か食事を一緒にどうかと思いまして」
僕はガレオさんか信頼していたこの男を信頼している。
たまには誰かとする食事も悪くない。というか本音を漏らしてしまうと丁度、寂しく思っていたところなんだ。
「分かりました。それじゃそれまで時間を潰してます。ギルドの訓練所をお借りしますね」
「ええ、ご自由にお使いください」
僕はちょっとした運動をして時間をおくことにした。
ギルドの訓練所ってのは、色んな種類がある。例えば、遠距離攻撃の練習に特化した施設。近接格闘施設。資料館。マンツーマン指導施設等々、仕事に役立ちそうなことを応援してくれるところだ。
僕が向かったのは、その中でも厳しく指導をしているシュラ爺の『どこまで逃げれるかな?プクク(笑)』という人をどこまでも小馬鹿にしたような名前の部屋だ。
シュラ爺の実力は今の僕では図りきることが出来ない。
そんな強い人の、教えは『隙をついて殺せ』である。その為にここでは回避専門の指導(物理)が行われている。シュラ爺の教えは理屈が無いので、冒険者から人気が高い。その代わり、このふざけた部屋に立ち入る人の数は少ない。なぜなら難易度が高いからな。
今はシュラ爺の部屋から音が聞こえないので、誰もこの門を叩いていないのだろう。ならば、と引き戸を開けると─。
「くせ者!風流掌打拳!」
「?!」
その時点で勝手に指導を始める上に一撃に殺意の籠った拳が霰のように飛んでくるからだ。このクソジジイ、単純な実力ならば五十階層以上はあるだろう。
「悪意に祈れ──」
出し惜しみをしたら殺されるような所で、ちょっとした運動を始める。
全然、ちょっとした運動じゃないなぁ。
でもこういうのもアリかな、そう思って残してます。