第15話
この少女がモンスタートレインしてた子か。
リザードマンを倒して行った先に居たのは、文献に見たことのある忍者の衣装にも近い格好をした少女であった。
彼女は身軽な服装に、足袋のようなブーツを履き、腕には紅葉の紋様が映える籠手を身に付けているくらいだ。武器のようなものは、持っていなかった。
そこそこやれると有名らしいから、武器を持たずにダンジョンに入るとは考えにくい。つまり、逃げているときに無くしたか取り上げられている可能性が高い。やはり、モンスタートレインをすることで有名なパーティーに狙われたと考えるべきか。
巻き込まれるつもりなかった。
とりあえず、助けてやるだけだ。
腹の虫が収まらなかった、それだけだ。
今回の騒動で頭がしっかり働いてなかった事もあって、姿を新人冒険者に晒しすぎている。あまつさえ、会話をしてアイテムまで贈ってしまった。
これは僕の情報がギルドに漏れてしまう可能性を示唆している。困った。今から戻って口止めをするか?いや駄目だ。目の前の少女から情報を引き出さなければ・・・。
そうか、その手があったか。
僕は手前であった冒険者に高圧的に接していた。つまり、彼女にもそう接するべきだ。高圧的な冒険者。これだけでも普段の僕からかけ離れている。ふふっ、思わず笑みが溢れてしまったよ。
「助けてやったのだからモンスタートレインを行うパーティーについての情報を提供してもらおうか!」
「は、はい!もちろん知っている限りを話させてもらいます!」
あれ、この子びびってる?
そりゃそうだよね。怖いよね、でも感謝してね。
「モンスタートレインを行うパーティーの名前は?」
「私にモンスターを押し付けてきたのは『ザズー』という男です。ソロ冒険者です。で、でもっ!何処かのパーティーが新人冒険者を勧誘して、仲間に抱き込んでいると聞いたことがあります!」
「そこまで」
「え?」
「俺はモンスタートレインを行うパーティーを聞いた。に対しての回答は、ソロ冒険者のザズーによる犯行だと。なら、次に質問をする。ザズーの背後にいるパーティーに心当たりは?なぜ君は狙われたのか。二つ、答えろ」
「えっと、先に私が狙われた話をしますね。私が狙われた理由は、新人冒険者を勧誘して仲間に抱き込んでいるパーティーが居ます。そのパーティーはヴァルハラでかなりの・・・」
「長い」
「うっ、私が狙われた理由は、パーティー『クレリク』からの勧誘を断ったこと。仲介役のザズーが「顔を潰された」と逆行したこと。ザズーの背後には、パーティー『クレリク』という集団がいます」
「オーケー」
パーティー『クレリク』、こいつら何処かで聞いたことがあるような。だけど、話したことは間違いなくないよな。
「パーティー『クレリク』について知っていることを話せ」
「主にヴァルハラを中心に活動をしているパーティーで、屈強な戦士とバランスのとれたような宗教魔法の使い手達による今注目の新人冒険者パーティーです。土、火、水、治癒、風の宗教魔法に加えて、二桁階層に通用する剛力を持つ新人類で構成されてます。私は素早さには自信があったので、その枠で推薦されました」
「その癖にモンスタートレインに引っ掛かったのか」
やべ、心の声が漏れちまった。嫌な顔されるな、こりゃあ嫌な噂が広まるんじゃねえか。その方がバレなくていいけど。
「はぅ、はぁぅぁっ」
彼女の耳は赤く火照っていた。
「どうした、自意識過剰なムスメよ。俯くほど恥ずかしかったのか?」
悪のりが働いてしまった。
こうなれば、最後までこのキャラで走りきろう。
「あ、はぁぁぁぁんっ!もっと、罵声をくださいっ!」
え・・・。
えっと、え・・・。
えっと、え・・・?
そういう子だったの?どうしよう、手に終える気がしないよ。
濃いなぁ、彼女のキャラ。
だが利用できるな。
「ムスメ、名前をなんと言う?」
「 三枝タマです!タマって呼んでください」
「覚えておこう、ではタマよ。俺は時間がないから、ここで失礼させてもらう。モンスタートレインの情報提供はこれくらいで終いにしてやる。出来ることなら、目立つことはせず己の力量を鍛える事に初めは捧ぐといいぞ。それと、俺の事は誰にも話さないでくれると助かる、別に強制はしない」
それだけいうと、僕はリザードマンのドロップしたアイテムを広いに戻らなければならないため、急ぎ足でここを去った。
しまった!思わず嬉しさが表に出てしまっていた!
こんなニヤニヤして気持ち悪がられたら困るわ!
「ムスメ、名前をなんと言う?」
私に興味があるのかしら!やったぁ!
「 三枝タマです!タマって呼んでください」
猫みたいって言われるけど、この人ならなんでもいいね!
「覚えておこう、ではタマよ。俺は時間がないから、ここで失礼させてもらう。モンスタートレインの情報提供はこれくらいで終いにしてやる。出来ることなら、目立つことはせず己の力量を鍛える事に初めは捧ぐといいぞ。それと、俺の事は誰にも話さないでくれると助かる、別に強制はしない」
名前、呼ばれちゃった・・・っ。
まるで付き合ってもないのに、好きな人に呼ばれたみたいに体が熱いっ!何かを失ったように、大事なものを失ったように、失ってないのにね。ものの例えよ。
胸がいっぱい。
さりげなく、私のこれからを示してくれる優しさ・・・。
これは私だけの物。
私に向けられたもの。
この人のためになることは、したい!
そう思えるから、誰かに話されると困るならそんなことしない。
「もしかして、もっと情報を集めたら話してくれるかなぁ。もっと強くなれたらパーティー組んでくれるかなぁ。ふふっ、今からもっと頑張らなきゃ」
まずは、ザズーから武器を取り返さなきゃね!
あっ!
あの人の名前!
聞き忘れちゃった・・・。
これ、ヒロイン。
うん、一応、放置型育成ヒロインの予定よ。
ちょっと残念な趣向を持っているみたいだけども。