第11話
あまり、書いたことのないシリアスな内容です。
さらには、よろしくない表現も使っています。
あまりこういう話は書きたくないなぁ。
│祝福の塔の一階に降りると、新人の冒険者とすれ違った。年期から言えば僕もまだ二年目だし、そんなに変わりは無いのだけれどね。
彼らがなにかを話しているようなので耳を傾けると、まさに先程僕がやらかした爆発騒ぎのことのようだ。
「なんか二階がやばかったな。初参戦なのに、二階に上がった瞬間、轟音がするから逃げちまったわ」
「何処のどいつか知らないけどな。絶対ヤりすぎだよなー。なんか恨みでもあんのかってくらい」
「手練れっぽいのに初心者の狩り場にこられてもなぁ」
「それもある~」
僕も久しぶりのダンジョンだったし、許して頂戴。明日は休みにして次の日は三階層に行こう。│蜥蜴人か、僕と身長がそんなに変わらないもんな。
なるべく一対一の状況に持ち込みたいものだ。
ダンジョンを抜けると僕は│宗教の町ではなくガレオさんに拾ってもらってから拠点にしているのは、冒険者として難があり、癖の強い荒くれものたちの集まってしまう棲み家、通称│狂悦者の町である。
ヴァルハラのように綺麗にされたような道はない。例えるならば昔に読み聞かせてもらっていた鉄砲という武器で人を守っていたカウボーイが主役のお話に出てきたような町だ。
木製の門を抜けた先には荒廃した村の姿がある。
「今日はどうだったか?」
下卑た笑い声で話し掛けられた。
「一年前の恨みを晴らしてきたぜ」
「そうかい、ひひひっ」
「ゴブリンの牙でいいか?」
「毎度あり、ガレオさんの弟子ならもう少し上の階層狙えるだろ?」
「足下見るなぁ、じゃまたな!おっさん!」
おっさんはいつものように受け取ったアイテムを懐に直すと雰囲気を崩した。何度話してもおっさんから感じる圧力はやばいな。
丸々とした顔と体格から醸し出される雰囲気は売人らしかった。職業柄仕方無いのだとガレオさんが言っていた。それ以上はなにも教えてくれなかったが、それがこのリッパータウンのルールだということは、すぐに理解することとなった。
一年前。
ガレオさんに助け出されてから二度目のことだ。あの木製の門を潜った二度目の日だったか。
「ガレオさんや、そこの坊主は訳ありかい?」
「だろうな、だがコイツは鍛えれば伸びるだけの根性が有りそうだったから、役に立ってもらうために助けた。これでいいか?」
そう言いながら、ダンジョンで拾ったアイテムをおっさんに投げた。それを慣れた手つきで掴むと懐にしまっていた。
「ようこそ、ルールは学べよ、若人きひひっ!」
目のイッちゃってる感じに背筋が冷えたのを覚えている。
「ひひひっ、まだまだ青臭いな」
その言葉に反応することはなかった。
そのあとに僕らの次の組がやって来たのだ。
「はあ?なんで知りもしないテメエにアイテムをやらなきゃいけねえんだよ!馬鹿じゃねえのか?!」
屈強な男だった。回りには女性をはべらせ、特に男の背負っている大きな剣は特徴的だった。どこかの紋章が描かれている。
「それもまた良いが、ここは荒くれの町だぜ?」
「そうやって温情を売らなきゃならねえほど、俺たちは弱くねえつもりだからな」
あの人たちも何か事情があるのだろう。そういう人たちが集まる場所だと当時は聞いていたのだから、そう思った。
「そうか、だが俺にも役割があるんでな。どんな事情か話しておくと良いことあるぜ?」
やけにおっさんが、がっつくなぁと思っていた。
それを無視して彼らは中に入っていった。
「あいつら、ルールを学べれば、良いんだが」
ガレオさんの言葉がやけに身に染みて聞こえた。
それは、何なのかな。
さらに三日後のこと。
恐怖に負けぬように、と考えながらゴブリンと再戦した日のアイテムをガレオさんの真似をしておっさんに渡して入った。
確か、前にガレオさんが門を潜ったときは2つのアイテムを渡していたはず。なのに今は一つということは、入場料のようなものなのかもしれないと考えたのだ。
それに、前に入っていった人達もアイテムを一人一つ渡していたのだ。だから、まず真似た。形から入ることにしたんだ。
「少しはあいつに感謝しろよ、圧力がやばかったろ」
「うん、アイテムを渡したとき少しだけ柔らかくなった気がしたんだ。だから、これでよかったと思ったよ」
「はは、あんだけブツを寄越せって雰囲気だしてんのに払わねえのは馬鹿のすることだ。少しは頭もあるようだな!」
そう言いながら頭をわしゃわしゃとかき回されたのを覚えてる。懐かしいな。
「覚えとけ、荒くれものの集まる町に名前があるということはそれを統治しているヤツがいるってことだ。要するに門に立っている男は統治しているヤツの手足だと考えな、だからよ。入場のルールを守らねえやつは・・・」
ガレオさんは言葉を一度区切り、近くの露店を指差した。
そこにいたものに目を疑った。
「えっ・・・」
「あっ、ああ!こんな、卑しいものどもの!それで、ああ!」
「らっしゃい!最近入荷したばかりの、バスターソードだよ!」
「こっちも、最近入荷したばかりの、オリハルコンで作られた籠手だぞ!鎧と合わせて1000万マルスだよ!」
「あの・・・買ってください」
見覚えのある紋章の目立つ大きな剣。
それに、
人が、売られてる?
「これが、ルールを見つけられなかった、従わなかった、忠告を無視した者の末路だ。郷に入っては郷に従えってな。いつぞやの台詞だが、結構大事だぜ?」
「ねえそこのお兄さん!私を買ってよ!今なら私を助けたことで報奨金が出るわよ!ねえ!ねえ!」
「あいにくと、相手には困ってねえからなぁ」
「なんで・・・なんで、こんなことが平気で出来るの?」
僕は不思議でならなかったから、ガレオさんに聞いた。
「そりゃ、こういう世界だろ?お前だって、人の悪意を見たことがあるだろ?理不尽なまでの理解の及ばない理屈とかよ」
「あるけど、人が売り物になっているのだから助けないと」
「じゃあ、行ってみると良い」
そういうと、ガレオさんに背中を無理矢理押されて叫び散らしていた女性の前に歩いていった。そこで初めて目があったけど、小綺麗で美人とは言い難かったけどいい顔をしているので、出で立ちは良いのだろう。
「君でもいいわよ!私を助けてくれるのね!?」
「えっ、いや、僕は・・・」
「なによ!私を助けてくれるんじゃないの?」
「お金無いから」
「それなら借金しなさい!私がここから出られた暁にはその借金をチャラにしてあげるわ!それだけの力が私にはあるんだから!早く!早く決断して!」
「借金・・・」
僕が迷っていると、上から絶え間なく降り注いでくる女性の叫びはやがて違うものに。
「早くしなさい!」
「早くしなさい!」
「ねえ、どうして助けてくれないの?」
「私がなにをしたってのよ!」
「ねえ、ねえ!ねえ!ねえ!ねえ!ねえ!ねえ!早く!決めてよ」
「どうしたの?お金の心配はしなくても」
「あなたまさか、私を見捨てる気?」
「許さない許さない。私を買え!買え!」
「買えよ!」
「うっ、ううっ!助けて!ああああ!ここから出して!」
「買・・・え、買え・・・買いなさぁぁぁぁぁぁい!かぇぇぇぇぇ!買えよ!私を助けろ!助けてくれっていってるじゃない?あなたまさかその気もなくて私の前に現れたの?ふっざけんじゃないわよ!このクソガキ!役に立たねえクソガキが、さっさと消えろ!キエロキエロキエロぉぉぉぉ!買え!誰か私を買いなさい!このくそガキ!」
「あらあら、君、早く去りなさいな」
狂乱している女性を販売している店の奥から女性が現れたのだが、優しそうな人だった。そして、狂乱している女性を見て言葉を吐いた。
「お客様に失礼きいてんじゃないよ!あんたは既に商品なんだよ!」
バシン!
「きゃあああ!」
女性の顔を鞭で打ち付けた。
血が垂れてる。足がすくんで、動けなくなった。
「ほら、言わんこっちゃない」
ガレオさんが僕を背負ってくれたっけ。
「すまないな、商売の邪魔をしたようだ」
「ガレオさんとこのガキかい?しっかり躾といてよね。おかげで看板商品にしようとしていた娘が狂乱しちまって、公衆の前で価値が下がっちまったよ」
「今度なにか詫びをする」
「わかったよ、それで手打ちにしましょう」
これで騒動が一段落したのだ。
その日の帰り道に、僕はガレオさんに言われた。
「お前の同情で一人の女性の将来がまた潰えたな。お前が話しかける前なら高値で売れただろうし、その分経済的に余裕のある人間で幸せをまだ掴めたかもしれない。しかしあの様子からは未来はイメージできねえな。良くて、娼婦の下の下って感じか。性格も知れ渡っちまったからな」
僕はそこで、自分の価値観を粉々に砕かれたのを覚えている。
たが、その甲斐あって今の僕がいる。
下手な同情は出来ないようになったのだ。
色々なことがあったが、これがリッパータウンで暮らす上で入場料として収穫のアイテムを人数分もしくは自分の分を手渡さなければいけない、そのルールを守らなければいけない理由だ。
ちなみに、あのあと彼女がどうなったのか。
何処か裕福な家庭に引き取られたと聞いている。
紋章が目立つ、変な集団だったらしいよ。
買っていった紳士のような男性は女性の姿を見て大層驚き、泣いたそうな。