第1話 冒険者になろう
展開が早いかもしれませんが、暖かい目で見てください。
地上100階層、地下50階層からなる一本の塔がある。
広大にして雄大、広すぎてそれは世界大陸の一つを飲み込んだ。発生の原因は解明されていない。当時を生きていた人々はとても哀しみ、それを憎しみの意を込めて憎悪の塔と呼ばれた。
しかし時は流れて数百年。憎悪の塔は祝福の塔と呼ばれるようになった。過去に1チームだけ地上地下共に踏破したという伝説の人々がいた。
初めは嘘だと笑うものもいた。しかし彼らの情報で他の人が上層までたどり着くことができた。こうして噂は伝説となった。
そして伝説の彼らは自らを《冒険者》とよんだ。
そして伝説に憧れる者達も自らを冒険者と呼んだ。
◆───祝福の塔1階
ここは主に何もない空間であるが、稀に人の形をした緑色の豚鬼が出てくる。体調は90から140㎝と小柄であるが、布切れ一枚しか身に纏わない姿は飄々と冒険者の落とした武器をがむしゃらに振り回して襲ってくる。
ダンジョンでは雑魚モンスターと呼ばれる初歩の初歩の・・・と呼ばれるほど弱い。体を切りつけられれば動きが簡単に鈍るから、そこを突けば良いだけだからだ。
ゴブリンの脳は小さく短絡的に行動をすることでも有名だ。物事を考えることをしない上に、生まれながらに備えられた本能に従い女性を襲い、子種を残そうとする。このようにゴブリンだけではなく上層や下層のモンスターに冒険者の女性が子種を仕込まれ子供を身籠る話はよくあることだ。
そうしてモンスターと人の血を交えて生まれた人類を新人類と呼び、ダンジョンから受けた祝福の一つとして考え世界はそれを受け入れた。それには人類からの反発の声も大きく、同じく新人類が人類を上から見下ろす事件が多発した。これにより人類は新人類を嫌う。こうして新人類を嘲笑し侮蔑する差別用語として《亜人》という言葉が生まれた。人類を嘲笑し侮蔑する差別用語は《旧人類》である。
このように世界は代わり続けている。人はその流れに逆らうことなど出来はしないのだ。人類も新人類もそれぞれの生まれに折り目を付けながら楽しく愉快に過ごすことを選んだ最初の町が始まりの舞台だ。最初の町こそ、祝福の塔に最も近く、伝説の冒険者を生み出した人類が治める喧騒と渇望のニュータウン黄金の町である。
現在となっては祝福の塔を囲むように作られた町の一つに紛れて、過去の栄光はそのままに観光スポットとして伝説の人類が一人が監修の自伝島となっている。
閑話休題。
話を戻して今から物語を始めよう。簡単な説明はしたことで世界観が少しでも掴めていただければ幸いである。伝説の人類が一人より
◆
祝福の塔1階で探索をしていたときのこと。
ゴブリンが僕の後ろから走って追いかけてくる。
どうして、こうなったんだろう。
◆
僕は駆け出しの冒険者で、今では落ちぶれたジャパン生まれの人類だ。伝説の人類代表である千国大和様の自伝を大々的に売り出してからは一目見るだけで帰っていく観光客が多くなった。大々的に売り出す原因は千国大和様の一言だったらしい。
「あ、俺の自伝が売れねえのは宣伝が足りないせいだ」
ジャパンを統治する伝説の人類のせいで今、僕達の町は町民と千国大和様との喧騒と町民が千国大和に進言して自伝を止めさせ、それを納得させる方法を求めて渇望している。
そんな町が嫌で、このまま腐っていくのが堪えられなくて心機一転。僕は身軽に動ける農民服の上から少し大きい父のお下がりである胸当てと膝と肘を守る鉄製の防具を装備し、薬草とナイフを鞄に詰めて家を出た。
冒険者になりますと書き置きを残して。
黄金の町は祝福の塔ヘ歩いて5分の距離である。当の本人からすれば嫌で仕方がないんだけど僕らの故郷は見せ物として人気があるらしい。
「納得できるか!」
それが僕たちに与えられた役目だって、馬鹿にされ続けるのは嫌なんだ。
ダンジョンの入り口は一つじゃないんだ。人類や新人類が協力して意図的に新たな入口を設けた。これにより地方は更に活性化し、交通は便利にもなった。
これから僕は黄金の町からとりあえず宗教の町に向かおうと考えている。宗教の町は信仰する神への信仰度に応じて、特殊な力を受け取ることが出来る。不思議なところだ。
詳しいことは分からないんだけど、駆け出しの冒険者は持っておいた方が良いらしい。ある程度慣れてくると、信仰を捨て新たな信仰を1から育てるらしい。
ダンジョンの1階ではゴブリンが現れることがあるけど、大概の男は狙われにくく、女性のみを襲う。そういった習性があるからってのもあるけど、実は前に鉱石を掘り出すときに父や鉱夫さんらと共同で戦って勝ったことがあるんだ。
だから今回も勝てる。
手元にあるダンジョン1階の見取り図を見ながらそんなことを考えてた。おっと、ここは……。
「なんで、三叉路になってんだ?」
おかしい……見取り図を見る感じじゃあここは左か右のどちらかにしか行けないはずなのに。一度道を戻ってみるか。
よし、ここの見取り図は合ってる。ここも、ここもだな。
確認作業を終えて元の三叉路まで来ると、やはりここだけが見取り図と違うのだ。何度か見取り図とにらめっこをした結果。このルートには無かったはずの直進の先には大きな広間があることに気づく。
「この広間は結局通らないと行けない道だし、もしかして近道なのかも!?」
そう思いきった僕は直進のルートを急ぎ足で駆け出した。
光が見えてきた。その空洞の先にはゴツゴツとした岩肌が見える。間違いないこの道は近道だったんだ。
「おい!馬鹿!」
「えっ」
僕は気付かなかった。出口の手前に落とし穴があることに。
「うわぁあああああああ!」
ガシッ
宙を足掻くように振り回していた僕の腕を何者かが掴んだ。さっき馬鹿と言って来た奴だろう。そいつに引っ張りあげられて事なきを得たが荷物を落としてしまったようだ。
「あわわっ……お金も入ってたのに」
引っ張りあげられて地面に下ろされて体が少し軽いことに気付いた僕は落とし穴を覗くように体を乗り出した。しかし底は真っ暗でなにも見えない。悲しみに暮れていたところにドンっと背中を殴られた。またまた落ちそうになる僕は慌てて岩肌を掴んで難を凌いだ。
「オイ、いつまで無視してんだよ」
「あ……ありがとう、ございます」
「ふん、礼儀のなってねえガキだぜ。だがまぁ、この落とし穴を掘ったのも俺だからな今回は不問にしてやるよ」
今なんていった?
「は?なんで二度も説明してやんなきゃいけねえの?」
僕は顔に陰りを帯びながらも、思わずに口に出してしまってたんだと冷静に考える。
「君、駄目じゃないか!君こそ礼儀のなってないガキだよ!君は知らないのかもしれないけど、それこそ何で知らないの!?祝福の塔は基本的に地形を変えることを良しとしてないんだ!戦闘による崩壊等はダンジョンの能力で自己修復が行われる!でもね!自己満足で空けられた所は直らないんだよ!だから、見つかり次第取り締まられちゃうんだ!馬鹿は君なんだよ!」
ダンジョンには不思議な力がある。24時間経過すると損傷した内観が元に戻るというものだ。ダンジョンの階層は判明したけど、未だに謎は多い。
はぁはぁと息を切らさずに言い切ったせいで僕は彼に顔を近づけて威圧しながらも肩で息をしている。彼は赤い体をわなわなと震わせながら、僕よりも少し大きな体を動かして肩を掴んできた。
「えっと……マジで?」
目をしばしばとさせながらも流れる汗は止まるところを知らない。
「うん……本当に知らなかったんだね」
「今すぐ直せば……大丈夫か!?」
「僕が黙ってれば、ね」
「ならお前をコロシテ……」
「わー!黙るよ!その代わり僕と一緒に臨時パーティー組んで!」
「おう、じゃ直すからちょっと俺の後ろにいってくれ」
彼は何かに信仰しているのだろう。何かに祈るように動作を加えると地面に手をついた。
『地の精霊よ、我が願いに応えてくれ』
地面が隆起して直進ルートの壁は次々と塞がっていく。信仰の度合いが特殊な力の強さと聞いたことがあるから、彼の地の精霊への信仰は高いんだろうな。
「凄いね君の力」
「よせよ、これは地の精霊から借りた力で俺の力じゃねえ。それと俺は君じゃねえ。ジグルスだ。赤鬼のモンスターとの新人類だ。お前は何て名前なんだ?」
「僕は千国チャム。頭の悪い父と歴史にしか興味のない母から生まれた人類さ!」
「短い間よろしく頼む」
「よろしく!」
◆
どうやらジグルスはダンジョンから離れた辺境の生まれらしい。ダンジョンで身籠った女性が視線から耐えられずそう言ったところへ向かうことはよく聞く話なので、そういうことなのだろうと何も聞かないことにしたが。
「ジグルスはダンジョンがどういう風に捉えられているか、曖昧にしか分かってないみたいだから道中に詳しく説明してあげよう」
「説明とか苦手なんだけど……」
「ええい!問答無用!」
祝福の塔と呼ばれ始めた理由は世界中の人々が憎悪の塔から得られる恩恵を受け入れ始めたことに始まり、それで世界が廻り始めた今に繋がる。まず、ダンジョンでモンスターを倒した時に敵が落としていくモンスタードロップと呼ばれる現象。これはモンスターの階層が高いほど価値の高い物が落ちると言われており、高値で取引されている。
そうやって取引されたアイテムが流通して、ダンジョンは今の人々にとって無くてはならない存在となった。祝福なんて呼ばれてるけど受け入れてからは、今みたいに僕達、人類と新人類が普通に表を歩いて会話をするまで随分と時間が掛かったみたいだから、五分五分だよね。人によっては未だに憎悪の塔って呼んでるみたいだし。
おっと、話がそれてしまった。要するにだ。世界が祝福の塔を受け入れ、ダンジョンから得られる恩恵を生活の主流としている今の商業組合はダンジョンの保全を守る必要が出てきた。
交通の関係でダンジョンの地形を変えるのは入口を儲けるときのみにし、それ以外で地形を変え、無闇やたらと地形を変えるような行動は厳密に処罰すると、新しく法律が制定された。
「こんな世界で法律なんてのが、守られるなんてちゃんちゃら可笑しな事だな」
「まあ、それを言ってしまえばそうなんだけどさ。それだけ皆はダンジョンがこれまで通りではなくなることに怯えているんだよ。そんで、それだけダンジョンは皆にとって大事なんだよ」
「俺からしたらダンジョンなんて親の敵みたいなものだ。さっさとこの階層も踏破して上に行く。そんで母さんを使って俺みたいな化け物を生み出した赤鬼を殺す」
「そうかい。今ではそういう考えも出てくるんだね。昔は威張り散らす新人類が多かったんだけど、人類である母親の敵かなるほど。ジグルスは世間知らずだけど、いい人みたいだね」
ジグルスは頭を抱えながら僕の話を聞いていた。心配になったから大丈夫か尋ねようとしたけど手で制されてしまったので、ついでにダンジョンで生き残るために必要なことを軽く話しておこう。
ダンジョンのモンスターと戦う方法は三つある。一つは武器を使用した攻撃だね。モンスターを殴るも良し、切るも良し、叩きつけるも良し、形状により様々な戦い方をすることが出来る一般的な方法だ。二つ目は宗教の町で信仰する神を選び特殊な力を授かること。特殊な力によっては武器に属性を付与することが出来るため、一つ目と二つ目は相性が良く少しだけ難易度のある一般的な方法だよ。三つ目は罠を使用した方法。落とし穴もその一つになるのだけど、ダンジョンでモンスターと遭遇してからの設置でなければ祝福の塔の自己修復が作用しないため、違反行為と定められているので難易度が高い。使用する人も少ない。
「こんな具合でどうだろうか」
「もう十分だ。で、千国はどこへいきたいんだ?」
頭が痛いのか軽く流されると、違う話題を振られた。そういえば話してなかった。
「チャムで良いよ。僕は宗教の町に行きたいんだ。そこでとりあえず役に立ちそうな神を信仰する」
「役に立ちそうな神って……お前なぁ」
ジグルスは呆れたように僕を見たあと、にやりと笑って頬をつついてきた。うざい。
「なに」
「いーや、物知り顔のチャムの間違いを見つけてしまってな。聞きたいか?聞きたいだろ?」
話の流れからして間違えてしまったのは宗教の話だろう。すでに信仰する神がいるジグルスからすれば捉え方の違いがあるのかもしれないな。しかし、何を間違ったというんだ。
「すげー聞きたそうな顔をしているのを見れて満足したから話してやる」
むっとした僕は思わずやっぱり新人類だなぁ、と心の中で悪態をついた。
「いいか?信仰する神、もしくは俺みたいに精霊とかは人類や新人類への警戒心が強い。それはチャムが言ったみたいに宗教を乗り換える者が続出したからだ。だから、まずは毎日礼拝堂に通い、お祈りを捧げなければならない。そうしてから初めて恩恵を受けられるんだ。チャムのような考え方は凄く古いぜ。今の時代、宗教だって裏切り者には厳しいんだ。どこにも入信させてもらえない。だから神を乗り換えるなんて言語道断。分かったか?」
「そうなんだ!知らなかった。僕もあんだけ堂々と知識を披露してるけど全部の母の歴史本から得た物なんだ。宗教にはあまり興味が無かったのか知らないけど参考書が無くて、冒険者から聞いてたのを信じてたんだ」
「言い訳は聞かねーよ。これで五分五分だな」
バッサリと僕の理由を切り捨て、笑顔を見せた。そんなに僕の間違いを訂正したことが嬉しいの?ともやもやした気持ちが晴れなかった。
「遠回しに言ってくんな。俺はチャムのことを信じてんだからな。簡単には怒らねえよ」
「うぐっ」
ジグルスの強気な純粋さに胸の奥が抉り取られる気分だ。ごめんなさい。反省します。
「ぼ、僕も信じてたさ、ははは、あはははは」
「嘘くさっ」
「ごめんなさい、反省してます」
「おう、それじゃパーティー再結成だ。行くぞチャム」
「あ……」
今気付いた。
ジグルスが任意で土壁を操れるのなら荷物を落とし穴から取って貰えば良かったと。しかしそんな前のことを考えていてはもやもやした感情が出てきそうだし、お金もないから当分パーティー組んでもらえないかなぁ……。現実を逃避する。
「あの、臨時じゃないパーティーを暫く組んでくれない?」
口から出てきた言葉は逃避しきれなかったみたい。
「ダンジョンでの出会いって結構貴重なんだぜ?母さんが言ってたんだ。気に入った奴とだけパーティーを組めって。俺はチャムが気に入ったから、当分臨時じゃなくて、普通にパーティーを組めたらと思ったんだが、要らぬ考えだったな!」
いずれ直面するであろう事態の混乱は避けられたようだ。
「よっしゃ!」
「俺たち、相性が良いのかもな!」
ガシッと方を組まれ、勢いで僕も同じように肩を組む。なんだかんだで、僕は冒険者として好スタートを切れているのではないだろうか。村を出てから半日、ジグルスという赤鬼で新人類の仲間が出来ました。