その名を紡ぐ者
「…え?」
目の前にはあの椅子。顔を徐々に上げていくと妄想の中と同じ仏頂面。
なに、ここ
何が起こっているの
周りを見ると他の三人は驚いたように私を見ている。
「だ、…誰?!」
必死に言葉を紡ぐ。その言葉にさらに三人は驚いたように私のほうを向いた。
「な、何で妄想が現実にあるの?何がどうなっているの?誰か教えてよ!」
叫ぶ私に対して誰も声を発しない。
なぜ、どうして。その答えは次の瞬間、私の後ろから聞こえてくる。
「-----」
英語?イタリア語?それともフランス語?
仏頂面の彼の言葉が全く理解することができなかったのである。
「は?」
「-------」
肘掛にひじをつき、ため息をつきながら再び言葉が発せられる。
後ろを振り向き眉をひそめ警戒しながら再び聞くも、言葉が理解できない。
このグローバル社会で聞かない言語もなかなかない。
私は、一体どこに来てしまったのだろう。
私が驚き無言状態の中、三人と椅子に座っている人は討論していた。
あの妄想と同じだ。三人が必死に椅子に座っている人に語りかけているようだ。
ぎゅっと自分の腕を握る。
それに気づいたのかメイドのような服を着た女性が笑顔で私のほうへ向かってくる。
「---------」
何か言ってくるがわかるはずもなく、できうる限りの笑顔を見せることしかできなかった。
女性は私と一緒の目線になるように座ると自分を指しながら同じことを言う。
「コーリ、コーリ」
「こー・・・り?」
私が復唱すると嬉しそうに頷いてきた。
もしかして、彼女の名前なのだろうか。
失礼と思いながらも彼女を指差しながら再びコーリというとさらに頷いてきた。
後ろの騎士のような格好をしている男性とヨーロッパ貴族のような格好をしている男性がこちらを向き自分をさしていた。
「ロジ、ロジ」
「アルナ」
どうやら前者はロジ、後者はアルナと言うらしい。
ならば、私も同じことをしよう。
「あい。あい」
そう決めると、自分を指しながら自分の名前を伝えた。
「アイ、」
「あ・・・い?」
「アイ、アイ!」
皆、私の名前を笑顔で呼んでくれる。
ほっとしているも後ろの彼は何も呼んでくれなかった。
コーリは私を立ち上がらせると、部屋へと案内してくれた。
天蓋つきのベッド、豪華な華を立ててある花瓶、すべてが真新しい家具。
光に誘われるように私は窓へ向かう。
そこに映っているものは、昔の欧風の町並みだった。
「私、本当にどこへ来てしまったの…?」
そっと、窓を触るも力が抜け膝をついてしまう。
「アイ!」
コーリは後ろから私を支えてくれる。
違う。私が欲しいぬくもりはこれじゃない。
「…ゆうくんは?」
「----?」
「コーリさん、ゆうくん知らないですか?!末澤優介というんです!男性で、私よりも10cmぐらい身長が高くて、そう!日本人です!黒い髪なんです!それでーーーー」
私を救ってくれた人
すがるようにコーリの肩を揺らすがコーリは困惑した顔でこちらを向くだけであった。