落ちていく世界
見えた。
鮮明に見えるようになってしまった。
今までは所々しか見えなかったあの風景が見えてしまった。
『やはり科学の力より自然の力の勝利と言うことでしょうか』
『そうであろう。どれだけ人間があがこうとも、その意思と自然の力には通用しなかったということだな』
『流石は 様。意志の強さが我々に味方したわけですわね。さて、精霊からの贈り物いかがなものでしょうか。』
騎士のような恰好をした人、ヨーロッパ貴族のような恰好をした人そしてメイドのような恰好をした女性が話をしていた。
そして3人が同時に壇の上の椅子に座っている人物を見つめた。
赤いクッションに周りの縁や肘掛は金でできているようだった。そんな大層な椅子に座っている彼は大層な仏頂面だった。
しかし、その顔は整っているためまるで一つの絵画を見ているようだった。
『そんなものいらぬ。』
肘掛に肘をつきながら吐き捨てるように彼は言った。
3人は驚いた様子だったがとても悲しそうな顔をしていた。
『いらぬ。』
「藍!!!」
はっと意識が戻る。そう、今ゆうくんと二人でご飯の準備をしていたのだ。
今日は私の誕生日。ゆうくんも私も休みを取り二人でゆっくりと過ごすことにしたのだ。
ゆうくんが心配そうに見つめる。
このままじゃいけない。そう思って私は笑顔を繕う。
「ごめん!あー…卵ちょっと茹ですぎちゃったみたい。」
「やけどは?大丈夫か?」
お湯が噴き出る鍋の火を消して私の手を確認してくれる。
何もなかったのを見てほっとすると私にデコピンをくらわせた。
「あっちで休んでろ。俺が腕によりをかけてこの卵を生き返らせてやる。」
「ありがと。じゃあ、そうさせてもらおうかな」
炬燵にもぐりキッチンを見ながらふと思い返す。
ゆうくんといる時だけなのだ。あんな妄想のような世界が私の中に入り込んでくるのは。
大学で勉強しているときやアルバイトの時は何もないのに。
しかもゆうくんのことを知れば知るほど、愛せば愛すほど鮮明になっていってるのは自分でもわかっていた。
どうすればいいのか、なにをしたらいいのか。自分でもわからないままそれでもゆうくんのことが大事になっていく。
だからこそ、今日だけははっきり伝えたい。
「誕生日おめでとう」
料理が出来上がると机に並べパーティが始まった。
二人の小さなパーティ。しかし私にとっては最高のパーティなのだ。
ゆうくんが買ってきたケーキの上にローソクを立て私がその火を消す。
電気をつけるとそこには小さなプレゼントがあった。
「えっなにこれ。」
「なにこれって誕生日プレゼント。」
「うそっ?!」
「うそって、誕生日じゃん。プレゼントぐらいあるだろ?」
開けてみ、と言うのでそっと開けるとそこには指輪が入っていた。
「まだお義母さんのこともあるし、藍が調子おかしいのも知っている。だからこそ、俺が近くにいることを知ってほしいっつーか、お前一人じゃないってこと知っててほしいからさ。結婚の予約もできて、一石二鳥だろ?」
にかっとさわやかに笑いながら私の左手の薬指に指輪を着けるゆうくんに私はギュッと抱き着いた。
【もうすぐ!もうすぐだから――――】
『妖精が参りましたわ』
『王よ、我々をお救いいただき感謝します。』
『何もお前たちのためではない。己の力を試したまでだ。』
思考回路が捕らわれる。しかし今日は、今日だけは決して負けない。私はそう決意していた。
「ゆうくん、私は、私もおんなじ気持ち。」
「藍」
「ありがとう。たくさんの気持ちをくれて、お母さんのことに気付かせてくれて、私を愛してくれて、ほんとうにありがとう。私も、ゆうくんを愛しています」
【これ以上はだめ!】
『我々からの贈り物は王にとってなきモノ。それを与えてくれると信じています。』
眼を瞑りながらゆうくんにキスを送る。
目を開けるとゆうくんが微笑んでるかな。それとも顔を真っ赤にしてるだろうか。
そっと期待にしながら目を開けるとそこにはゆうくんはいなかった。
それどころかあの妄想の世界が目の前に広がっていたのだ。