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はじまりはあの場所で

「おねーさん、笑った方が絶対かわいいよ。」





この言葉が私のすべてを変えた。











別に自分が可哀想なお涙ちょうだい人生を歩んでいるとは全く思っていない。

ただ、他の人にはいるお父さんがいなくて、お母さんも働きすぎて病気で伏せている。

私は朝早くから夜遅くまで勉強をして入った日本で一番の大学の法学部に首席で入った。もちろんお金持ちになってお母さんと幸せな生活を送るためだ。

奨学金をもらっているが生活費を稼ぐために今度はコンビニでアルバイトをしながら朝から夜まで勉強。

働かないと死んでしまう。勉強しないと奨学金を失って退学せざるを得ない。

毎日馬車馬のように働いて、勉強していた。

今日も夕方から眠たい目をこすりながらアルバイトをしていた。

10時に終わってそれからは母のために栄養のつくご飯を作ってあげなければ。

やることが山積みでそれをいかに効率よく捌くか頭で計算しながら接客をしていた。

その時、ふと言われた言葉







「おねーさん、笑った方が絶対かわいいよ。」








ふと顔をあげる。するとよく見かける常連のお兄さんだった。

「え?」

わけがわからず行動のすべてが一時停止してしまう。

すると常連さんは笑いながら人差し指で私の眉間を抑える。

「し・わ!眉間にしわ寄せてるとろくなことねえぞ?」

「…商品はこちらになります。ありがとうございました。」

「うわーお客さんに対してその態度?ひっでー!」

ぶつくさ文句を言いながらそれでもお兄さんは笑っていた。

そういえばこの常連さんはいつも笑っていた。

雨の日も、風の日も、ガテン系の仕事をしているのか毎日つなぎを着てやってきた。

そして店員にも笑顔で「ありがとよ」と言って帰ってくれるのだ。

だからかこの常連さんのことは覚えていた。

次の日、同じ時間に入るとまたお兄さんがやってきた。

「おねーさーん!レジおねがーい!」

わざわざ他人がいるというのに私のところまでやってきて接客を頼んできた。

バーコードを通す音だけがやけに大きく聞こえる。

「全部で774円になります。」

「うわー!惜しい!あと少しで777だったのに!」

ショック受けているのを無視しお金をもらいレジ打ちした後ひたすら袋詰めをしていた。

そして最後の棒付きの飴を入れようとするとストップをかけられた。

「それは入れなくていいよ。お姉さんへのプレゼント。」

「は?」

また出てしまった疑問の言葉。この人はいつも突拍子のないことをしてくれる。

「だから、いつもがんばってるお姉さんにご褒美。」

「…」

「少しでも眉間のしわがなくなるように、」

そういうとまた人差し指を眉間に抑えると飴以外の入った袋を持って立ち去って行った。








それから私が夕方入っているときにはいつも飴の差し入れが入るようになった。

そしていつしか相手の名前が末澤優介という名で一つ年上だという情報を手に入れてしまっていた。

逆に相手にも私が櫻井藍という名前だということも知られ大学生ということも知られてしまったのだ。

「藍ちゃん、今日はリンゴ味の飴。」

「あの、末澤さん、私のことを藍ちゃんというのは…」

「えーなんで?」

「何でと申されても…店員ですし…」

「え、俺ら友達じゃねえの!?」

「えっ」




いつ友達になったのか全く分からないのですが。




ぽかんとしていると末澤さんはレシートにつなぎのポケットからペンを取り出し何かを書いた。

そしてそれを私に差し出す。

「はい!俺の電話番号とメルアド。寂しくなったり、辛くなったらいつでも連絡ちょーだい」

「は?!」

戸惑っている私をよそに末澤さんは私の手にそのレシートを握らせるとありがとねーと立ち去って行った。

そのレシートをどうしたらいいか迷っていると隣からよくシフトで一緒に入る大学生で可愛いうちの看板店員真鍋さんに笑われた。

「櫻井さんうらやまし~!」

「え、だってこれ、こんなこと…」

「だって末澤さんがメルアド渡すところなんて初めて見たあ~。」

「それは…」

「イケメンだからチェックしてたけど~末澤さん櫻井さん両想いなんだもーん!私馬に蹴られたくないし~」

「は?!どこが?!」

両想い?!どこをどうしたらそう思われるのだろうか。

問いただすと口に手を当てくすくす笑いながら話してくれた。

「末澤さんが接客を頼むのは必ず櫻井さんだし~櫻井さん自分で気づいているかわかんないけれど~最近難しい顔しなくなりましたよ~?」

「え、そうなの?」

「ほらあ~!だからすごい話しかけやすくなったって他の人も言ってましたよ~?よかったですね!」

徐々に顔が赤くなるのがわかる。

真鍋さんはにやにやしながらレジに来た人の接客をし始めた。

私は居た堪れなくなってたばこの補充をがむしゃらにした。









その空気は母にも感づかれていたらしい。帰ってご飯を作って一緒に食べるとどこか母は嬉しそうに私のほうを向いていた。

流石に気まずくなり母に話しかけた。

「なに?」

「今日は何かあったの?」

「いや、べ、別に…」

「ふふ。最近楽しそうね。お母さんも嬉しくて最近体調がよくなってるみたい。」

いつもより少しだけ顔色がいいお母さんを見るとあながちそれは間違いではないらしい。しかし、その原因を考えると何も言えなくなり顔を真っ赤にする。

ご飯を食べ終え、今日は体調がいいからと後片付けがすることになり私は早速勉強に取り掛かる。

しかしふと思い出すのはもらった連絡先の書かれたレシート。

携帯電話は万が一何かあった時のためにと所持しているが、自宅ぐらいしか入っていない。

私はじっと携帯とレシートを交互に見る。

そして自分の人差し指で眉間のしわを伸ばすとそっと携帯をつかんだ。

11ケタの番号を押すと通話ボタンに手が伸びる。







『もしもし?』






その声にどこか安心を覚えたのは私の心が彼を求めていたからだろうか。

じっとしばらくその声を聴いた後そっと自分の名前を呟いた。

そしていつもはただ言っているだけの言葉を心を込めて伝える。

彼は突然何?と笑い飛ばしていたが私にとっては重大なことだったのだ。

それからはいつも話さないようなことをたくさん話した。

彼の仕事のこと、私の学校生活のこと。

当たり障りのない会話だけれどそれがどこか嬉しかった。

この時だけは何か少しだけ口の端が上に上がり目が細くなったような気がした。









しばらくして私と彼は付き合うことになる。

あの桜の木の下で、彼は真っ赤な顔で一生懸命告白してくれた。

照れながらも私は頷くと祝福するかのように桜の花びらが舞った。









真鍋さんはやっぱりねえ~と少し悔しそうに、けれどとても嬉しそうに祝ってくれた。







よろしくお願いします。



※編集入れました。肝心の桜を入れるのを忘れてました。

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