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感度良好

作者: 新野

やや残酷な表現あり

私って、すごく感受性が高いじゃない?



だから結構何にでも感情移入しちゃうわけ。

小説や映画はもちろん、ドラマとかマンガ、TVのニュースなんかにも感情移入しちゃうから本当に大変で、TVなんか見た日には一日中泣いてばかりいるわ。


それで最近気がついたんだけど、バラエティや動物番組なんかでも涙が出て来ちゃうわけ。

バラエティなんかは、所謂芸人で多いいじられキャラ?

ああ言う人たちを見たら笑いなんかちっとも起きなくて、人に罵られ、笑われて

なんて可哀相な人なんだろうって思っちゃう。


もちろん動物番組はお涙頂戴の感動系じゃなくて、ああ、もちろんそれでも泣くんだけど、それを見て悲しすぎて一回過呼吸になったからそれ以来見てないわ。

動物たちの可愛い映像とかでもダメなの。

なんか人間に無理矢理飼われて自由を奪われているはずなのに、ただ盲目的に飼い主を慕う動物たちを見ると、本当に涙が止まらなくなるのよね。



一体私の涙タンクはどうなっているのか不安に思う時もあるけど、だいたい感動屋っていうのは良い意味にとられるからそれで困ったことはないの。


泣くと結構すっきりするし、まぁ一種のストレス解消方法だと思うわ。



極力テレビは見ないようにしているんだけど、何もつけずに家の中にいると気が狂いそうな気がしてるから基本付けっ放しなの。

今日もソファに寝転がって、ぼんやりしているとテレビから突然音楽が流れ出す。



ああ、嫌だわ。

またあの音。



丁度お昼前に必ずこの局で始まる番組。

今までは平気だったのに、この音楽を聞いただけで今は体が強張る。

軽快なリズムで流れるこの曲、昔は着メロにしていた事もあったけど今は絶対に無理。


蛇に睨まれた蛙のように一切の身動きがとれなくなって、リモコンを変えようにも手が動かない。

肌色全裸の栗頭が画面に出た瞬間、いよいよ吐きそうになるけど、グッと堪えて画面を睨み付ける。


にこやかに微笑む偽善者面の男女がトークを始めて、テーブルの上に準備していた鳥肉をおもむろに取り出した。

今日の餌食は鳥肉なのね、可哀相に。

心の中でそう呟いて冷や冷やしながら女の動向を伺う。


画面の中の女は、包丁を握り締めると一思いに鳥肉に突き刺した。



「ぎゃあ」



思わず見ていられず声をあげた。涙が勝手にポロポロと流れ落ちる。

こんなひどいことを何のためらいもなくやるこの女は、一体どういう神経をしているんだろう。

胸を押えながら女を睨み付ける。

女は気にする素振りも見せずに、そのまま高温に熱せられたフライパンの上に鳥肉を乗せた。

じゅううぅという肉が焼ける音が左右のスピーカーから聞こえてきて、私は絶叫した。



「こ、の、お"んなぁ"」



涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔を腕で拭う。女は楽しそうにフライパンの上に転がる鳥肉をもてあそぶ。

目が霞むのを必死で堪えながら、私はポケットの携帯電話を握り締めた。


早くこの番組に文句を言わなければならない。文句を言って中止にしてもらうのだ。

こんな残虐行為は信じられない。だいたい3分クッキングのくせに3分で終わったためしがない。


携帯電話を取り出して、電話帳を手早く開く。いつも電話しているテレビ会社を選択するも手が震えて思うようにいかない。


画面の中では、鳥肉を弄ぶ女の横から男が何か赤黒い液体をかける。

男はしょうゆですねと呑気に笑うが、絶対に違うはずだ。

あれは恐らくあの鳥の血である。


溢れ出る涙と嗚咽で息を切らしながら、私は携帯電話のダイヤルボタンを押す。


いよいよこいつらの残虐行為の数々を訴えてやるわ。電話を耳にあてがいながら、にやりとほくそ笑む。

耳元でコールが鳴るのを聞きながら画面を見つめていると、ふいに男の手元がアップになった。

男の手には刃渡り30cmはあろう物騒な細長い包丁が握られていて、まな板の上には青々としたキャベツが乗せられていた。


私ははっと息を飲む。

男は笑みを浮かべながら、まな板の上に乗っているキャベツに刃を入れた。



ざくり。



嫌な音がして、私は再び悲鳴を上げた。


携帯からはもしもしどうしましたと声がする。


私は構わずに叫び続ける。


男はすごい早さでキャベツを刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む、刻む。




原形がなくなるまで切り刻んでから、嬉しそうに言った。



「つけあわせのキャベツですね」



私はとうとう息が出来なくなって、視界が真っ白に覆われたのを最後に、意識を手放した。

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