THANKS 1 ハートウォーミング
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全世界同時LIVE中継。
九十九の国家の首脳が、円形の議場に集められていた。
壇上のスクリーンには、たった一つの言葉が映し出されている。
HUMANITY CRISIS
人類危機。
犯罪件数は増加し続け、残虐性は年々上昇し、
高齢化は社会の孤立を加速させた。
誰もが知っている現実だった。
だが、誰も止められなかった。
討論はすでに三日目に突入している。
「抑止力が足りない!」
「教育が崩壊している!」
「貧困が原因だ!」
「監視社会にする気か!」
正論が飛び交い、
誤論が混ざり、
結論だけが出なかった。
世界国家連合WCT議長が、静かに口を開く。
「……有効施策が決まりません」
会場が沈黙する。
「よって、国家改善計画を――
世界統一コンピューターAIに委ねます」
ざわめきが走った。
政治が、決められない。
人間が、決められない。
だから、AIに託す。
それは敗北ではなく、合理性と呼ばれた。
スクリーンが切り替わる。
WORLD UNIFIED AI SYSTEM
淡々とした機械音声が響いた。
《対応策を提案します》
《Project Name:HeartWarming》
《通称:HWプラン》
次の瞬間。
全世界の家庭、街頭、スマートフォン、病院、刑務所にまで、
同じシミュレーション映像が流れ始めた。
――HWプラン ルール概要――
13歳以上の全国民は、ブレスレットを装着する。
毎日0時までに、他者から「ありがとう」を受け取らなければならない。
同一人物からの認識は生涯一度。
対面のみ有効。
途中経過は表示されない。
結果は0時に記録される。
本当のありがとうをもらえなかった者は、生存不適合と判断され処分されます。
罰ではない。
観測である。
映像が終わると同時に、議長が言った。
「各国に一時間の検討時間を与えます。
その後、決議投票を行います」
首脳たちは別室へ移動した。
日本国別室。
日本の総理大臣である水仙寺は、最初にこう言った。
「我が国は古来より感謝を忘れぬ民族です」
穏やかな声だった。
「ありがとうは文化です。
この制度は、日本にとっては日常と変わらない」
隣にいた心理学者、桔梗が即座に反論する。
「総理、それは過信です」
空気が硬くなる。
「感謝は形式になりつつある。
言葉は残っても心は消えています」
桔梗は言葉を続ける。
藤堂官房長官が机を叩いた。
「だが日本は治安が良い!」
桔梗は目を伏せながら持論を掲げた。
「治安が良いのは、感謝ではなく沈黙です。
助けを求めない国民性が数字を隠しているだけです」
水仙寺総理は笑った。
「あなたは悲観しすぎだ。
世界に示せる機会ではないか」
桔梗は、静かに言った。
「示せるのは慈愛ではありません。
壊れる速度です」
「本当にそうかな。では試そうじゃないか。国民に真意を問うことが政治家の仕事だからね」水仙寺は、部下にサインを送った。
日本国民の真意投票を開始せよ。
日本は独自システムを起動していた。
他国に悟られないように。
国民の本音を測るために。
世界統一AIとは別の、
日本独自の投票回線。
他国に悟られてはいけない。
これは外交ではなく、
国民の本音だった。
スマートフォンが、一斉に震える。
《国家改善計画HWプランに関する意見照会》
《本投票は極秘扱いとする》
《選択肢:可決/否決/無効》
通知音は、
日常と同じだった。
それが一番おかしい。
あるマンションの一室
母親が、キッチンで味噌汁をかき混ぜながら言った。
「ねえ、どうするのこれ」
娘はソファでスマホを見つめている。
画面には三つのボタン。
可決。
否決。
無効。
「……分かんないよ」
娘の声は小さかった。
母は笑う。
「ありがとうって言うだけでしょ?
そんなの昔からやってるじゃない」
娘は返さない。
味噌汁の湯気だけが、ゆっくり上がる。
「とりあえず空欄で送っといて。無効でいい」
母は軽く言った。
軽すぎて、怖かった。
コンビニエンスストア
レジの青年は休憩中に通知を開く。
可決。否決。無効。
画面の文字を見たまま、笑った。
「国が感謝しろってさ。ウケる」
隣の同僚が肩をすくめる。
「否決したって意味ないだろ。
世界が決めるんだから」
青年は親指を止めた。
否決を押す。
理由はない。
ただ、誰かに決められるのが嫌だった。
病院の個室
老人が震える指でスマホを持っている。
看護師が覗き込み、優しく言った。
「おじいちゃん、難しいなら無効でいいですよ」
老人はかすれた声でつぶやく。
「ありがとう…って…言えない日もある…」
看護師は一瞬、笑顔を失った。
だがすぐ戻す。
「大丈夫ですよ。投票ですから」
老人の指は、否決に触れた。
そして、あるアパートの二階
カーテンの閉まった部屋。
若い女性の声だけが聞こえる。
「え…臨時教師?来週から?」
電話の向こうで母が言う。
『そう。だから…こういうの、巻き込まれるのよ』
「投票…?」
『来てるでしょ。どうするの』
沈黙。
「……怖いよ」
『大丈夫。ありがとうって言えばいいだけ』
「それが…怖いんだよ」
母は少し黙ってから、こう言った。
『じゃあ、空欄で送っといて。無効でいい』
その声が、妙に優しかった。
その優しさが、現実から目を逸らしている気がした。
投票は集計された。
否決:75%
可決:5%
無効:20%
国民の答えは、
明確だった。
拒否。
あるいは、沈黙。
日本の総理は数字を見つめ、静かに言った。
「否決で投票する」
日本国家としての答えは決まった。
世界決議投票会場。
一時間後。
各国より九十九票が投じられた。「結果をお知らせします。各国の投票の結果、
否決:3票
無効:6票
可決:90票
よってHeartWarming、通称HWプランは可決されました」議長が宣言する。
世界が拍手する。
誰もが安心していた。
「これで犯罪が減る」
「人類は救われる」
「ありがとうが世界を変える」
そう信じたかった。
世界統一AIが再び提案する。
試験国家選定します。
世界統一AIが再び提案する。
《本格導入の前に、一国で試験運用を推奨します》
《公平を保つため、電子ルーレットによるアトランダムにて選定を提案します》
議場がざわつく。
また多数決が行われる。
可決。
全世界の国民が、固唾を呑む中、
電子ルーレットが回り始めた。
光の輪が国家名をなぞる。
各国の首脳たちは祈った。
自国が選ばれないように。
その中で、日本の総理だけが小さくつぶやいた。
「日本でよい」
側近が目を見開く。
総理は続けた。
「日本人の75%は感謝を忘れていない。
ありがとうなど日常だ」
笑みを浮かべる。
「世界に示せる。
我が国がどれほど慈愛に満ちているかを」
ルーレットの回転が弱まり始める。
議場は緊迫に包まれていた。
Heart音。
心臓の鼓動。
ドクン、ドクン。
まるで世界そのものが生き物のように震えている。
鼓動が止まる。
光が一点に収束する。
選択された国家は――
【JAPAN】
※作者より、この物語をイメージするがための追記させて頂きます。もしこれがドラマであれば、【JAPAN】 提示後暗転し、画面は過去の日本のよくも悪くもダイジェスト映像が映し出される中、本来はオープニングで流れる曲が第1話に限りエンディングに流れます。 イメージBGM――尾崎豊「僕が僕であるために」
(※作中使用ではありません)
皆様に感謝申し上げます。
ありがとうございます。




