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ローズマリーの場合

私は、ギルドの王国支部のマスター。

ローズマリーとの出会いは、5年前にさかのぼる。


彼女はとある民族の末裔だった。

その民族は、薬草にとても詳しかった。

しかし度々の戦乱や誤解のなか、

数を減らし絶滅の危機に瀕していた。


私は植物採取に訪れた樹海のなかで、彼女と彼女の祖母に出会った。


二人は石と木でできた質素な小屋に住んでいた。

家を訪れる者はなく、

ただ小さい畑、果樹、小動物などを日々の糧にしていた。


彼女の祖母は、私にこう言った。

「この子が最後です。そしてここにある書物がなくなれば、私達の歴史は終わります」


その顔は、諦めなのか、潔さなのか、凛としたものであった。


私は家の中を見渡した。

家には50冊近い書物があった。

許可を得て、私は書物に手を伸ばした。

どれも私の知らない技術ばかりだった。


私は

「あなたは、どうされたい?」

そう尋ねた。


どんなことでも協力したい。

そう思ったのだ。


すると彼女の祖母は

「孫娘が幸せになることいがい、おばあちゃんが、なにを望むというの?」

そう答えた。


その瞳は、とてもとても、優しいものだった。


私はその瞳の奥に、彼女がすごしてきた時の重みを感じた。


彼女を引き取る。この書物を引き取るということは、この民族の歴史を引き受けるというのと同義であった。


少しの重圧を感じたが、引き受けよう。私はそう思った。


私はローズマリーに

「私と一緒に来るか?」

そう尋ねた。


すると彼女は

「いまはまだおばあちゃんと一緒にいたい」

と言った。


彼女の祖母は笑っていた。

うれしかったのだろう。


野兎のミートパイでも作りましょう。

そういって、パイを作り始めた。

ミートパイはハーブが効いており、どこで食べたものよりも美味しかった。


私は二人に別れを告げた。



そして1年後、彼女の祖母から手紙が届いた。

「孫と書物をお願いします」

そう書かれてあった。


急いで私はローズマリーに会いに行った。

彼女の祖母はまだ元気だった。


私は彼女の祖母から、書物のことを詳しく聞いた。

そこには我々のギルドすら知らぬ、深淵の知恵があった。


私は、我々のギルドの話をした。

「そんな事ははじめから知っているわ」

そう言われた。


立ち居振る舞いから、ギルドの一員だとバレていたようだ。


それもそのはず。彼女の祖先こそが、かつて“毒殺ギルド”の原型を築いたのだという。


だが、それから色々あって、別々の道を歩み始めた。


そして、ここにある技術は、

ギルド創設時の技術より、深化したものだ。と言っていた。

実際見てみると、我々のギルドの技術から、別系統の発展がある技術と

推測される技が見られた。


この資料のお陰で、ギルドの技術は200年分は深化した。


私が到着し、3日後……。

彼女の祖母はなくなった。


この上なく美しく安らかな顔をしていた。


遺言通り、火葬し、遺骨を壺に入れ、土に埋め、その上にローズマリーを植えた。


ローズマリーは祖母の死を見ても、涙一つ出さなかった。


私は

「悲しくはないのかい?」

そう尋ねた。


「別に永遠に別れる訳ではないわ。どこかでまた別の形で会うでしょう」

そうローズマリーは答えた。


それから彼女も我々の一員となった。


正直、この生き方がローズマリーにとって、幸せな生き方なのかどうかは、わからない。


ただローズマリーも、この生き方を受け入れているし、彼女の祖母も、私に託した。


それが答えだとしてもいいのではないか。

そういう結論に達した。


今……。ローズマリーの魂はどこにあるのだろうか?


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