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ミッション開始

私は王国支部のマスター。

今回は3人のターゲットを輪廻に還します。


今回も美しくエレガントに……。

ご主人様方を幸福の香りで包み込み、お連れいたします。


ターゲットに関するデータは読み込みました。

3人にも叩き込みました。

ターゲットの調査は完璧でしょう。


しつけ、教育も、まぁ及第点はクリアしていることでしょう。


あとは皆様が業務を粛々とこなされるのを拝見しましょう。

私の役目は、監視と調整です。

この舞台にほつれがないように。

美しく着飾った役者達が最高の舞台を飾れるように。


私は執務室を出て、食堂に向かう。

今日の朝食は、かぼちゃのパンケーキに、フルーツ。

そしてゴールデンドロップまで、ちゃんと入れた美味しい紅茶。

素晴らしい香り。

今日の紅茶の出来は特に良い。


3人ともいるようですね。


「おはようございます」

と私は朝の挨拶を行う。


3人とも会釈をする。


「このギルドで過ごすのも今日で最後となります。

これから皆様はミッションに入り、各ターゲットの邸宅に使用人として潜入します」

3人とも少し緊張しているようだ。


「心配はありません。私が定期的に会いに行きますので」

そう私がいうと、少し緊張がほぐれたような表情になった。


おや……。

ローズマリーさんの様子が少しおかしい。


「ローズマリーさん?どうかされましたか」


「いえ。あのぉ。私、コミュニケーションが苦手で、特に男性は父とマスターとタイム、他には学校の先生くらいしか、まともに話したことがなくって……」


「まぁそれくらいの方と話したことがあるのでしたら、まったく大丈夫です。

それに使用人にとって、主というのは、とても緊張するものですから、逆に自然です」


おや……。

まだ不安そうだな。

あぁなるほど。


「ローズマリーさん。どんな妄想をされておられるかわかりませんが、この方の女性の好みは少し特殊でして、女性として気に入られる事はありませんよ。


あなた達もそうです。ターゲットの趣味嗜好は調査済み、その上での布陣です。

ですからターゲットに、そう言う目で見られる事はありませんので、安心してお仕事なさってください」


3人の緊張が一気に解けた。

そうか、

無理もない。18歳くらいの思春期の若者が、貴族の邸宅に入るとなると、そういう可能性も心配するものだ。


パンパンパン

私は手を叩き

「では、一度食事にしましょう」

と合図をした。


3人とも勢いよく、食事を始める。


あぁ……。

なんて幸せな光景だ。

世界では、今日もこのような光景が繰り広げられている。

それを、こういう光景を、慎ましやかな幸福を、

己の極端な欲望で、赤く染める者たちがいる。


私達はこの日常を守るもの……。


食事が終わった。

3人とも満足そうだ。


「では毒殺ギルドの10の掟

を唱和しましょう。

私のあとに続いてください」


皆うなずく。


「・いつも服装はエレガントに。

・常に何も残さず決して目的を悟られるな。

・何があっても焦らず粛々と行え。

・本当の主人は世界であることを忘れるな。

・我々は世界を守る蜂であると心得よ。

・笑顔は最高の仮面と心得よ。

・可能な限り1滴の血さえ流すな。

・自己犠牲を絶対禁止。

・最高の幸福は心の傷を癒した後に訪れる。

・仮の主人に最高のエンディングを」


ふぅ。ちゃんと唱和できた。


おや、またローズマリーさんが何か気になっている様だ。


「ローズマリーさん。どうかされましたか?」


「あの……。どうやって心の傷を癒すのかなって」

とオドオドしながら、ローズマリーは答えた。



「基本的に、指示された内容を実行していけば、自動的に彼らの心の傷は癒えます」

と答えた。

ちょっと補足がいるかもしれないな。


「基本的には、ターゲットのトラウマを解消するような作業を気取られずにしていきます。

見たい夢を魅せる香りやハーブティーの配合などを使い、例えば死に別れた妻の幻が現れたり、そういう絶望の気持ちから解放させる方向に進めます」



あぁよかった。

少し表情が明るくなった。

少しはスッキリしたようだ。


「そして最終的に、あとから考えると、まるで本人が旅立ちを自覚していたかのような行動を取らせるように促します」


そう伝える。

3人ともキョトンとしている。


「旅立ちの自覚というのは、

整理整頓、手紙を書く、思い出の品に触れる、静かな場所を選ぶ、孤独になりたがる、感情の解毒をはじめる、過去を語りはじめる、未来のだれかに託すなどです」


3人とも、少し納得したような顔をしている。


「こういう行動を取ったからと言って、必ずしも旅立たれる訳ではないですが、旅立たれると、それがわかっていたのね。と捉えられるのです」


と私は説明した。


「フラグってことですか」

とローズマリーは言った。


「……フラグ、聞いたことがありませんね。

それもラノベとやらの言葉なのですか」


「あっそうです。例えば戦場に行く前に『帰ってきたら結婚しよう』とプロポーズする兵士は必ず戻ってこれないみたいな」


「あっ。それ聞いたことがある。どこぞの軍師が、それを逆手にとって、領土奪還戦の1週間前に、恋人がいるものは結婚式を挙げろと指示したって」

とタイム。


「ほぉ……。それは面白い話ですね。それでどうなったのですか?」

と私。


「一兵たりとも損失が出なかったようです」

とタイム。


「それは素敵な話です。我々も彼らのように、血を流さずにやりましょう」

と私は言った。


私は3人を愛している。

代われる事なら、私がすべての役目を引き受けたいところだが、

運命がそれを許さない。


それであれば、可能な限り、みんなの苦しみを取り除いてあげたい。



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