巻き込まれてしまいますた。
コンコンコンコン……。
「おはようございます」
ノックをする音がする。
私は辺りを見渡す。
昨日と同じ部屋だった。
寝たら夢だったオチじゃないかと、少し期待したが、
それはなかった。
コンコンコンコン……。
「おはようございます」
父さんも、母さんも心配してないかな。
向こうでは、私の身体はどうなっているのだろう。
あぁ憂鬱だ。
しかしどうでもいいけど、憂鬱って漢字難しいよな。
コンコンコンコン……。
「おはようございます」
これから私はどうなるんだろう。
ガチャ。
鍵が開く音がする。
「ローズマリーさん」
昨日の男が飛びこんできた。
「あぁよかった無事でしたか。もしかして何者かの手によって……。
と焦りましたよ」
おいおいおい。なにか物騒なことを
「どうかされましたか?」
「いや。起きてこられるのが遅いもので、起こしにまいりました」
「いま何時ですか?」
「もう朝の6時30分を過ぎました」
「では、おやすみなさい」
「ちょいちょいちょい。お待ちなさい。もう起きる時間です。えぇあなたはしずるさんの方ですね。ローズマリーは毎朝6時には起きていますので、それにあわせていただきます」
「えぇ……。そんなのムリですよ。私夜型なんですよ」
「では昨日何時に寝ました?」
「あの後すぐに寝ましたから、夜の10時には寝ました」
「ぐっすり眠れましたか?」
「はい。なんかいいにおいがしたし、お茶を飲んで、リラックスして、すぐに眠れました」
あのお茶なんだったんだろう。なんか草っぽい感じだった。
「では、睡眠不足でもないですね。
じゃあ起きてください。
皆さんにも紹介しますので……」
えっちょっと待って……。
と言っても待ってくれない。
私は食堂らしきところに案内される。
大きめのテーブルには、真っ白い糊の効いたテーブルクロスがかけられ。
色とりどりのフルーツと、パンケーキ、そしてカップがあった。
男は私を中央に行くように、手でナビゲートした。
「おはようございます。えぇ~。この方はしずくさんですが、ローズマリーさんです」
と男。
「あのマスター。ローズマリーですよね」
と若いカワイイ男の子
「あぁタイムさん。彼女は外観はローズマリーさんなのですが、中身はしずくさんなのですよ」
「マスター。詳しく説明を」
と若い美少女。
「ミントさん。うまく言えないのですが、ローズマリーさんの中に、しずくさんが入ったのです」
とマスターは言った。
どうやら、この男はマスター、女の子はミント、男の子はタイムというらしい。
「あの……。いいですか」
と私は手をあげる。
マスターは『どうぞ』と手で合図をする。
ごほん……。
「私は西暦2025年の日本という国から来た、しずくといいます。
こんな事を言って、信用してもらえないかもしれませんが、
違う世界同士の、異なる魂が入れ替わったのではないかと思ってます」
これで通じるかな。
「あの……。
しずくさん。
ではローズマリーさんは、どうされているのですか?」
とミントが言った。
「それは私にもわかりません。しかし恐らくですが、日本にある私の身体に入っていると思います」
と私。
ちょっとここら辺は確証がないんだよな~。
「その根拠は?」
と心配そうな顔でタイムが言った。
同僚?友達?がいきなりどこの馬の骨ともわからない人物と、入れ替わったのだから、無理もない。
「私の世界にライトノベルというジャンルの本があります。現代的な童話みたいなものでしょうか。この世界にも童話はありますよね」
と私。
「童話、学術書、詩集、小説などはありますが、ライトノベルは聞いたことがありませんね」
とマスター。
「その小説をわかりやすくした……。童話と小説の間みたいなジャンルです」
と私。
「それでそのライトノベルがどうしたのですか?」
とマスター。
「そのライトノベルに、異世界に転生する話や、異世界に転移する話がよくあるのです」
と私。
「ほう、ではあなたの世界では、異世界に転生したり、転移したりというのは、よくある話なのですね」
とマスター。
「いや……。
あくまで、物語の話です。
でも……。
急にあったはずの乗り物が、突如消えたとかいう話とかは、聞いたことがあります」
と私。
だいじょうぶかな、普段家族としか会話しないから、緊張する。
「童話の世界も、ある種の真実を、すこし脚色して書いたものと言われることもありますしね。これはその異世界転生や、転移は実際にあると考えてもいいのかもしれませんね。
事実……。
ローズマリーさんの魂と、しずくさんの魂が入れ替わったようですから」
とマスター。
よかった。なんとか話が通じた。
それで私ここからどうなるんだ。
「ところで、あなたの世界と、私達の世界では同じ言語なのですか?」
とマスター。
「そういえば、なぜ通じているのでしょう。私は日本語をしゃべっているだけですが」
と私
「私は日本語という言語を知りません。すこしお待ちください。こちらの本を読めますか?」
なにこの文字。英語でも無いような。見た事のない文字。
ここは過去の世界にあっただけの世界なのか。
でもあれ……。
文字はわかる。
「どうも文字はわかるようです」
と私。
では、すこし待ってください。
マスターは部屋から出ていった。
数分後、マスターはギターのような楽器を持ってきた。
「これを弾いてくれますか?」
とマスター。
「えっ。こんな楽器弾いたことがありません」
と私。
「では私が手本をみせます」
とマスターは弾き出した。
ギターのような音だが、もっと古みをおびた音色
「この楽器は?」
と私。
「これはリュートと呼ばれる楽器です」
とマスター。
なにか懐かしい気持ちになった。
「それではどうぞ」
マスターにリュートを手渡される。
手にもつと、指先がリズムやメロディを覚えていた。
えっ。
弾けるよ。
私は夢中になり気が付いたら10分近く演奏していた。
3人は顔を見合わせて何か話をしている。
「ローズマリーさん。見事な演奏でした。
恐らくなのですが、しずくさんは、ローズマリーさんが出来たことなら、ほんの少し学習すれば、すぐにできるようになると思います。
語学といい、楽器といい、本来身につけるには、多量の時間が必要です。
それがこんなに一瞬でできるのは、それしか考えられません」
なるほど……。
そういうことか。
「それで、申し訳ございませんが、しずくさんには、魂が戻るまでの間、ローズマリーさんの代わりをしていただきます」
とマスター。
これ断わるのはムリそうだな。
「わかりました」
と私。
「では早速お勉強の時間です。3か月で叩き込みますよ」
とマスター。
「あの……。
ところで仕事って何ですか?」
と私。
「魂を輪廻に還す仕事だよ」
とミント。
「輪廻に還す?」
と私。
「すぐにわかりますよ」
とマスター。
まぁいっか。
長い人生。
たまには寄り道してもいいのだから。