表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/16

面接の緊張を助けたもの

面接前に余計なおしゃべりで失敗した話から始めました

冬の朝。

推薦入試の面接日が明日に迫り

タケルは昇降口の前で制服のポケットに手を突っ込んで立ち尽くしていた。

落ち着かない。

早くも心臓がどきどきする。


そのとき、後ろから声がした。


「緊張してるの? 顔に出てるけど」


振り返ると、同じクラスのアイが立っていた。

明るくて、ちょっとおせっかいだけど、頼りになる存在。


「まぁ、無理ないか。

 いくらなんでもびびりすぎじゃね

 なんかかわいそうだから……これね」


そう言って、彼女は自分のカバンのぬいぐるみに結んであった

細くねじった白いこよりを外して、

タケルの右手の人差し指にそっと結んだ。


「“自信がつく魔法”ってことにしといて。

見えないものでも、信じてるとちょっと強くなれるから。

でもね、これがあるからって安心しすぎないでよ。

ちゃんと“自分の言葉”で自信もって話さなきゃ意味ないんだから」


タケルは、小さくうなずいた。


面接会場の廊下で、タケルは順番を待っていた。

その隣には、同じ学部を受ける別の生徒が座っていた。


「おい、キミも〇〇学部志望?」


「あ、うん……」


「志望理由、どんな感じで言う?」


一瞬ためらったが、タケルは準備してきた答えを話した。

自分の経験と大学のゼミとのつながり。アイと一緒に考えた、大事な答えだった。


「へえ、参考になるわ」

そう言ってその生徒は席を立ち、面接室へと入っていった。


やがてその生徒が戻ってきて、タケルの名前が呼ばれる。


面接室に入ると、2人の面接官が座っていた。


「志望理由を教えてください」


タケルは深呼吸をして、話し始めた。

練習の成果でスラスラ言える。


だが途中で、片方の面接官がふとつぶやいた。


「……ああ、さっきの人も、似たようなことを言ってましたね」


その言葉で、タケルの思考が止まった。

(……真似したと思われる?)


焦りが一気に押し寄せ、言葉が出てこなくなる。

頭が真っ白になり脂汗が出る。

そのとき──タケルは指に巻かれたこよりを見つめた。


白い小さなこより。

でも、そこに込められたアイの言葉と笑顔がよみがえる。


「自信もって」


もう一度、タケルは口を開いた。


「……あの、それ、僕がその人に教えたんです。

 面接の前に聞かれて

 だから、話した内容がそっくりなんだと思います」


面接官が少し表情を変えた。


「そうなんですか。

 では、あなたが考えたというその志望理由──

 背景を聞かせてもらえますか」


タケルは、ゆっくり話し始めた。


中学のとき、僕は人とうまく関われなくて、ずっと壁を感じていたこと。

その経験を通して、人の気持ちや関係性に興味を持つようになって……

この大学のゼミで扱っているテーマが探求したくなったこと

先生方の発表を調べ、もっと学びたくなったこと


話しているうちに、タケルは自分が指のこよりを見ていることに気が付いた。


面接官のひとりも気づいたようで、かすかに笑って言った。


「ちなみに……それ、何か書いてあるんですか?」


タケルは一瞬驚き、そして苦笑した。


「あ、いえ。ただのこよりです。友達が、“自信がつく魔法”だって……」


「良い友人ですね」


そのひと言に、ふっと肩の力が抜けた。


帰り道、学校の前の公園でアイが待っていた。


「どうだった?」

「色々あった。でも、ちゃんと話せた。こより見ながらだけど」

「ガン見?」

「うん。そしたら『何か書いてあるんですか?』って聞かれた」

「印象悪くない? で?」

「友達にもらったと言ったら『いい友人ですね』って」

「……ふーん。面接官、見る目あるじゃん

 わたしだからね」


二人は笑って、まだ指に巻かれたままのこよりを見た。


その白い紙の感触は、なぜか今も、少しあったかかった。

口は災いの元とも言いますが 友人のおかげで結果オーライとしました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ