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不思議な気にならない存在

不思議な同級生がいたとしてから始めさいごにちょっと心に残るように書きました

その日、カナメは商店街の坂の途中で立ち止まった。


 夕方の風が通り抜けて、風鈴がちりんと鳴った。目の前を、ランドセルを背負った小学生が走っていく。


 その一瞬——


(誰かが笑っていた。薄いオレンジ色の制服。自分の隣で、風に髪を揺らして。)


 カナメは、はっとしてまばたきをした。


 なんだっけ、今の。どこかで見たような、でも思い出せない。


 「……懐かしい気がするけどな」


 こういうのは、ときどきある。


 突然、頭の中に映像のように“思い出”が浮かぶ。昔の出来事のはずなんだけど、いつの記憶か、誰なのか、なぜか曖昧だ。


 「小学校の頃……じゃないよな。中学? いや、制服が違うし……


  そもそもオレンジ色の制服などあるわけがないよな」


 思い出の中の風景と、今の景色が、ぴたりと重なる。


 でもそのたびに、「何かが少し違う」という違和感が残る。


 いつか見た気がする、まだ知らない記憶。


 カナメはその“思い出”のことを、誰にも話していない。自分でも説明できないから。


 ——でも、この街のどこかに、答えはある気がしていた。




 放課後、駅前のベンチはひんやりと冷たかった。


 カナメは鞄から文庫本を取り出し、背表紙をなぞる。タイトルはもう読み飽きるほどのものだけど、何度も読み返したくなる静けさが好きだった。


 電車の到着を告げるアナウンスが響く。


 その瞬間、ふっと何かが心に浮かんだ。


(駅のホーム。制服姿の生徒が桜の花びらの形の帽子をかぶっている。そのホームに電車が入ってくる。自分はそれを、じっと見ていた。)


 カナメは、本のページをめくる手を止めた。


 ——あれは、いつの記憶だ?


 妙に現実感があった。でも、思い出せない。


 あんな制服、見覚えがない。あの駅は、この町のものだったか?


 「……夢、だったのかな」


 誰かの姿を“思い出す”ような不思議な気配だけが、心の奥に残っていた。





 教室の午後は、眠気が強い。


 授業の合間、カナメはうつらうつらと船をこいでいた。


 気がつくと、机の下にノートが落ちている。誰かの忘れ物だろうか。


 拾い上げたその瞬間——まぶたの裏が、ぱっとひらける。


(グラウンドの隅。ノートのページに書かれた言葉。「わたしもここにいます」。風にそのページがめくられ、足元に落ちる。


 それを拾ってはみたもののどうしたらいいのかわからない)


 「……?」


 ノートをめくってみても、白紙だった。ただの自由帳。


 でも、確かに見えた。手書きの文字。あの声。


 「カナメくん、起きてる?」


 隣の席の藤井が、ノートを指差して笑っている。


 「それ、誰かの?」


 「……さあ」


 カナメは首を振ってノートを鞄に入れた。


 夢にしては、感触がリアルすぎた。


 “わたしもここにいます”


 その言葉だけが、どこか心に引っかかったままだった。




 ときどき思い出したように映像が目の前に浮かぶ


 でも見た覚えがあるもののいつのどこだかは思い出せない


 忘れているだけの夜泣きもするが


 まあ、


 脳がバグってありもしないことを作っているのかもしれないし


 いつものことだから、あまり気にしないようにしている




 雨の午後、カナメは学校から帰る途中の橋で足を止めた。


 向こうから傘をさした女子高生が、歩いてくる。遠目で顔は見えない。だけど、なぜかその姿に、既視感を覚えた。


(雨の音、川を水が流れる音、彼女の口が開くが何を言っているかはわからない。そして彼女は片手の手のひらをこちらに向けた)


 いったい何だろう、とおせんぼをしているみたいだが。


 忘れ物に気づき、踵を返していったん学校に戻った。

 



 なぜだろう。ただ彼女の傘の赤い色と手のひらだけが印象に残った




 教室に忘れ物を取りに戻ったが。


 誰もいないはずの空間に、何かが“残っている”気がした。



 教室の一番後ろの窓際。


 そこに、誰かがずっと座っていたかのように、椅子がわずかに引かれていた。


 机の上には小さなメモ帳。ページはちぎられたあとで、何も残っていない。


 カナメはふと、誰の席だったか思い出せなかった。


 クラスの席順は毎朝見ているのに、その一角だけ、記憶が曖昧だった。


 (ここ、誰が座ってたっけ)


 日直表を見ても、そこには確かに名前が書いてある。


 “咲良千紘”。見覚えのない字じゃない。けれど、顔が浮かばない。


 (いや、そもそも……咲良って、誰?)


 頭のどこかがひんやりした。


 でも、それ以上考えるのを、何かが止めているような気がした。




 次の日になっても昨日のことがモヤモヤと頭の中にある


 そんなモヤのような思考を抱えたまま、カナメは職員室に向かっていた。


 呼び止めたのは生活指導の西村先生だった。


 「……カナメくん、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


 午後の職員室。


 カナメは、担任の西村先生に呼ばれていた。


 「ちょっと頼みたいことがあってね。生徒会の広報係の子が、体調崩しちゃってさ。代わりにこれ、ちょっとだけ手伝ってくれない?」


 差し出されたのは、イベントの企画用紙と、何かのスケジュール表。


 思わず眉をひそめる。


 「え、ぼく、生徒会じゃ……」


 「知ってる。だから“ちょっとだけ”。ほら、君、真面目だし、向いてそうだから」


 先生の笑顔が、逃げ道を塞ぐ。



 結局、カナメは渋々ながら了承した。


 教室に戻ると、すでに人はまばらだった。


 「えっと……資料室で打ち合わせ、って書いてあったな」


 資料室のドアを開けたとき、カナメはその場に立ちすくんだ。


 中には、ひとりの少女が静かに座っていた。


 黒髪が肩に落ち、細い指先で何かをメモしている。


 その姿が、カナメの胸に何かを引き起こした。


 「……あれ?」


 思わず声が漏れる。



 目の前にいるのは、咲良千紘だった。


 だけど、今まで何度も同じ教室にいたはずの彼女を、どうして今さら見覚えがないのだろう。


 あの椅子、あの席、確かに「咲良」が座っていたはずだ。なのに、何も思い出せない。


 まるで初めて見るような感覚に、思わず足を一歩踏み出す。


 「こんにちは、でいいですよね?」


 カナメが言うと、咲良は顔を上げて、静かに微笑んだ。


 「こんにちは。」


 その声は、何の変哲もない日常のものだった。


 でも、どこか引っかかる。


 その微笑みが、何かを知っているように感じて、胸の中で何かがひっかかった。


 「……咲良、だよね?」


 思わず確認するように言ってしまった。


 咲良はゆっくりと、うなずいた。


 「はい、千紘です。転校生だからあまり接点なかったかもです」


 「転校……?」


 カナメの頭に、少し混乱が生じた。


 でも、彼女の姿が一度でも“新しく”見えたことが信じられなかった。


 まるで、ずっと前から存在していたように、どこか自然すぎて。


 何故か、過去の記憶の中に咲良の姿があったように思える。でも、それは断片的で、何も整っていない。


 「どうしたんですか?」


 咲良の静かな問いに、カナメは我に返った。


 彼女の目は、どこか遠くを見ているようで、でも確かに今ここにいた。


 「いや、なんでもない。前から、いたよね?」


 咲良は小さく首をかしげた。


 「……はい。いたと思いますけど。」


 その答えが、まるで自分の中の記憶と、ぴったり一致していないような気がした。


 咲良が転校してきたという事実に、どうして今まで気づかなかったのか、全く分からない。


 「でも、僕、君のこと……」


 言葉に詰まる。


 咲良は何も答えず、ただその目でカナメを見ていた。


 その視線には、何かを待っているような、でもどこか遠くを見つめているような、微妙な揺れがあった。


 何も言わず、黙って机に置かれたメモを指差した。


 「それが、今日の議題です。」


 その後、打ち合わせが始まった。


 咲良の話す内容は、明確でしっかりしていて、彼女の思考は無駄がなかった。


 それは、ただの生徒会の代役という枠を超えて、少しだけ特別な何かを感じさせた。


 けれど、その“特別”が何なのか、カナメにはどうしてもわからなかった。


 「ここ、どう思いますか?」


 咲良の質問に、カナメは一瞬だけ答えるのを躊躇った。


 「うーん……いや、たぶんこの部分をもう少し強調したほうがいいんじゃないかな」


 咲良はすぐにメモを取り、カナメの提案をすんなりと受け入れた。


 「分かりました。ありがとうございます。」


 そのやりとりの流れが、何だか妙に心地よく感じた。


 でも、どこか冷たいような、手の届かないような、そんな印象がぬぐえなかった。


 「でも、なんでか分からないけど……君のこと、ずっと前から知ってた気がする」


 ふと口に出すと、咲良はわずかに微笑んだ。


 「……それは、きっと、私もそう感じてるからですよ。」


 その言葉に、カナメはまた、胸の中で何かが小さく揺れるのを感じた。



 その日は一緒に駅まで帰ることにした


 なんとなくぎこちない思いをしながら


 こういうところで気の利くことが言いたいな


 言えないななんて、思考がいったりきたりする


 もう夕方になって空は夕焼けになってきていた


 駅までの階段を上るところは日当たりが良く


 階段の白いタイルもオレンジに染まっている


 ふと横の彼女を見ると


 夕日に照らされて夏服の白い制服がオレンジに見える


 (またた、どっかで見たやつだ)


 と思いながら



 そんな日々を送りながら


 それは、まさに何気ない瞬間だった。


 放課後、カナメが教室の片隅でノートを広げていると、咲良が近づいてきた。


 いつも通り、静かに話しかけてくる。


 「カナメくん、今日の打ち合わせだけど……」


 彼女の声が、突然、カナメの頭の中で「ズレた」ように感じた。


 言葉が、少しだけ遅れて響いてくる。


 それだけなら、普通にあることだと思った。しかしその次の瞬間、咲良の口から出た言葉に、カナメは思わず耳を疑った。


 「すみません、もう一度言ってもいいですか?」


 カナメは、少し驚いた。


 確かに、咲良はさっき言ったばかりのことを繰り返している。でも、さっき聞いた内容がもう一度耳に入ると、違う印象を受けた。


 同じ言葉が、まるで違う時間軸から来たかのように、遅れて響く。


 「え、あ、うん。なんだかちょっと聞き間違えたかな」


 カナメは、頭をかきながら言った。


 でも、違和感は消えなかった。


 「……今、言った言葉は、さっきと同じだよね?」


 咲良が少しだけ目を細めて、頷く。


 「はい、同じですよ。」




 その反応に、カナメはさらに疑問が湧いた。


 どうしてだろう。さっき、あんなにタイムラグを感じたのに、今、咲良の言葉には全く違和感がない。


 時間が一瞬、途切れたような気がして、何もかもが不確かになった気がした。


 「……なんで、そんなこと言うの?」


 咲良はしばらく黙って、ただじっとカナメを見つめていた。


 その視線が、まるでカナメの心の中を覗いているように感じられる。


 「わからない。」


 しばらく沈黙が続いた。



 その間、カナメは咲良の目を見ていると、どこかで未来が少しだけ見えてしまいそうな予感がした。


 そしてその瞬間、咲良が再び口を開いた。


 「時間のズレなんて、誰にでもあることですよ。」


 その言葉は、どこか遠くから聞こえてきたように感じられた。


 まるで、彼女がもう一度、何かを体験しているような感じ。


 そして、カナメの中で何かがひっかかり、心の奥に小さな波紋が広がった。


 「君、どうしてそんなふうに言うの?」


 咲良は、一度だけ微笑んで、静かにこう言った。


 「ただの気のせいかもしれませんね。きっと、気になるだけですよ。」



 今日も駅までは一緒に帰った


 彼女とは家が逆方向なので


 そこで別れて向こう側のホームに行く


 線路をまたぐ歩道を通っていくのだが


 窓ガラスには桜の花びらの飾りでがちりばめてあった


 近くの桜並木の宣伝用のものがずっと残っているらしい


 ふと立ち止まってプラットホームの彼女を見ると


 たまたま桜の花びらが帽子のように頭に乗って見えた


 そう思った瞬間、電車が来て彼女は見えなくなった


 (どっかで見た気もするが、よくある風景なんだな、きっと)


 と思って、足を早めた






 日が過ぎるごとに、咲良の姿を見かけることが減っていった。


 最初は、「今日は忙しいのかな?」と思っていたカナメだが、次第にその数日が、次の週へと繋がっていく。


 不安が、カナメの心に静かに忍び寄っていた。


 教室を見渡しても、咲良の姿はなかった。いつもなら、どこかで静かに本を読んでいる姿が見えるはずだったのに。


 なぜ、あんなにも一緒にいたのに、気づけば彼女の存在がまるで幻のように薄れているのだろう?


 次の日、カナメは思い切って先生に聞いてみた。


 「先生、咲良さんって、最近どうしてますか?」


 先生は少し不思議そうな顔をした後、答える。


 「ん?ああ、咲良ちゃんは、転校したんだよ。」


 転校?


 カナメはその言葉に驚き、反応が遅れた。転校すれば気づくはずだ。


 咲良はあんなに静かに、あんなに確かな存在としてここにいた。それなのに、知らないうちに転校した?


 それが現実だとは思えなかった。引っ越すようなことも言ってなかったし、何も予告はなかった。


 ただ、彼女は消えてしまったように思えた。


 カナメは深く息を吐き、心の中で問い続けた。


 「彼女は、いったいどこに行ったんだろう」




 時が流れて、カナメは社会人になった。


 会社勤めの忙しさに、咲良のことを思い出すことはなくなったが、ふとした瞬間にあの不安定な感覚が胸をよぎることがあった。


 毎日の膨大な業務、顧客の勝手な言いぐさ、厳しいノルマ


 協力してくれない同僚たちに、だんだん疲れていく毎日だった

 



 納期遅れで大問題になった案件をようやく片付けて


 ほっとした気持ちでする途中、


 ぼーっとしたまま歩いていてふっと赤信号で道路を横断しようとしてしまった。


 車のタイヤのキーっという音、激しい衝撃と音


 地面のアスファルトがゆっくり近づいてきて


 タイヤの裏側からホイールの穴をとおして向こう側の光が見える


 そしてすべてが暗闇に包まれる。


 交通事故にあったと思ったことまでは覚えている。


 視界がすべて真っ赤になり


 意識が途切れ、何も感じなくなる。


 その後、カナメは一切の感覚を失い、深い無へと落ちていった。


 そして——


 「カナメくん。」


 その声が、耳元でかすかに響いた。


 カナメがぼんやりと目を開けると、そこにいたのは、間違いなく咲良だった。


 真っ赤な壁の前に立っている


 「咲良……?」




 信じられない、現実なのか夢なのか、カナメはその場に立ちすくんだ。


 咲良は静かに微笑みながら、カナメを見つめていた。その目には、確かな温かさが宿っている。


 「まだ終わってないから、カナメくん。」


 その言葉が、カナメの胸に深く響いた。


 「頑張って、まだ終わってないから。」


 そう言って、咲良は手のひらをこちらに向けた


 「まだだよ、がんばりな」


 その言葉が最後に耳に届いた瞬間


 咲良のてのひらに押された感触があって


 カナメは深い闇の中から浮かんでいく感覚にとらわれた。




 病院のベッドで目を覚ましたカナメは、静かな室内に広がる静かな空気に気づいた。


 機械音がかすかに響き、カナメの体は石のように思い。


 しばらくすると医師がやってきて説明してくれた


 「君は一時、心肺停止状態だった。脳波も弱くなってもう助からないのではないかと考えたが……」


 カナメはその言葉に驚き、そして、自分が死と隣り合わせだったを実感した。


 でも、咲良の言葉が、あの不安定な状態の中で確かに響いていた。


 彼女の存在が、カナメを現実に引き戻したに違いない。




 医師は戸惑いながら言った。


 「君が集中治療室にいる間に懸命に治療に取り組んだんだが


  疲れたのか時間のずれのようなものを感じることがあってね


  不思議な感じを感じるとともに


  君の脳波が回復したんだ。


  ともかくこうして話せるようになって良かった」




 何を言っているのかイマイチ分からないまま


 先生の言葉は宙を滑って行った


 むしろ、意識の中に現れた咲良の言葉が胸から離れなかった。


 彼女が「まだ終わってない」と言ったのは?





 頭を動かすと、痛みが走る。しかし、カナメは目の前にあるものを見た瞬間


 凍りついた。


 そこに、ノートが置かれていた。


 カナメはそれを見た瞬間、心臓が強く鼓動を打った。


 絶対に見ないといけないものであることはわかった。




 カナメはなんとか手を伸ばして震える手でそのノートを手に取った。


 ページをめくると、「わたしもここにいます」と、咲良の字で記されている。


 字を覚えているわけではないがそうとしか思えなかった。



 さらに、数行の書き残した言葉があった。どれも、無理に強がることなく、静かに、でも確かにカナメを励ますようなメッセージが並んでいた。


 「あなたは、絶対に負けないよ。私は、いつもあなたを見守っている。」


 その言葉を見た瞬間、カナメの目に涙が溢れた。




 後日、回復したカナメは今までのことを思い出しながら


 この不思議なノートとその文字を眺めた

 



 そして、彼は決心した。


 彼女を探し、必ず見つけ出すことを


終わり方がどうなんだろうと思うものの

こんな話が合ってもいいのかなと思います


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