老戦士、最後の戦闘にてハムスターに出会う
白いおもち。背中にクリームがかった1本線。
小さなお耳がぴょこん!さくら色のお鼻はフスフス…
紛うことなきジャンガリアンハムスター…
「戦士よ、よくぞここまで来たな……!」
魔王城の最奥。
長年の戦いに身を投じてきた老戦士は、重たい剣を握りしめ、ゆっくりと扉を開いた。
だが——
そこにいたのは、ハムスターだった。
ふわふわの毛並み、つぶらな瞳、小さな前足。
立派な玉座にちょこんと座るその姿は、どう見てもハムスターだった。
老戦士は剣を構えたまま、動かない。
(……これは……どういうことだ?)
疲れた目をこすり、もう一度見た。
やはり、魔王と呼ばれる者は、小さなハムスターだった。
「どうした? 貴様が我を討ちに来たのであろう」
その声は堂々としていた。
小さな体からは想像もできぬ、威厳ある響きだった。
老戦士は静かに剣を下ろし、口を開いた。
「……随分と小さな魔王だな」
魔王は鼻をひくひくさせると、ゆっくりと玉座から降り、老戦士の前へと歩み寄る。
「そなたは……随分と疲れた顔をしておるな」
老戦士は息を吐く。
「戦い続けて、もう何十年になるだろうな……」
魔王はじっとその言葉を聞いていた。
「この世界のために戦い続け、仲間たちを失い、気づけば、私はひとりになっていた」
老戦士はふっと笑う。
「そして、ようやく魔王の元へ辿り着いたというのに……お前は、あまりに小さい」
「ふむ……」
魔王は前足をちょこんと揃え、静かに問いかけた。
「そなたは、戦うためにここへ来たのか?」
老戦士はしばし考え、首を横に振った。
「……いや。戦うためではない。ただ、長い戦いの終わりを迎えに来たのだ」
「ならば、そなたに提案がある」
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☆老戦士、第二の人生を歩む☆
「そなた、我が軍に仕えぬか?」
「……魔王軍に?」
老戦士は驚いたように眉を上げた。
魔王は老戦士を見上げながら、ゆっくりと頷く。
「戦いは、もう終わりにすべきだ。そなたは、そなたの人生を歩むがよい」
老戦士は剣を見つめた。
これまで自分を支えてきた、重く、傷だらけの剣。
「……私は、戦うことでしか生きてこられなかった」
「それがそなたの誇りであったのだろう?」
「……そうだ」
「ならば、その誇りを胸に、新たな道を歩めばよい」
老戦士は目を閉じ、しばし沈黙した。
そして、ゆっくりと剣を床に置いた。
「……わかった。もう、戦うのはやめよう」
魔王は満足そうに頷き、小さな前足で老戦士の手をちょこんと叩いた。
「よかろう。そなたを我が軍の『城の管理人』として迎えよう」
「……管理人?」
「うむ。我が軍にも、そなたの知恵と経験が必要なのだ」
老戦士は苦笑した。
「……まあ、悪くないかもしれんな」
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☆老戦士の新たな日々☆
こうして、老戦士は剣を置き、魔王城で新たな生活を始めた。
魔王軍は、思ったよりも平和だった。
強大な軍勢を率いる魔王がハムスターであることは、最初は信じがたかったが——
魔王の統治は、確かに見事なものだった。
兵士たちは規律を守り、城は整然としていた。
老戦士の役割は、その城の管理をすること。
設備を見回り、魔王軍の記録を整理し、ときには新人の教育をすることもあった。
そして——
「そなた、今日もいい働きをしておるな」
「……魔王様、お前はまた私の肩の上に乗っているのか」
「居心地がよいのでな」
ふわふわとした感触が、老戦士の肩にのしかかる。
最初は驚いたが、今ではすっかり慣れてしまった。
(……こういう生き方も、悪くないものだ)
かつて剣を握っていた手で、老戦士は魔王の頭を優しく撫でた。
「……おやすみなさい、魔王様」
「うむ、おやすみ」
ふわりとした毛並みの感触を肩に感じながら、老戦士はゆっくりと眠りについた。
——老戦士の戦いは終わった。
——だが、老戦士の『第二の人生』は、ここから始まるのだった。