第22話 未来へ
「よう。まだこの世界に居てくれて、助かったぜ」
コスモ家の屋敷。その裏庭でゾアは待ち合わせをしていた。
冬木ユウキ。異界から来た戦士。
彼はまだ任務中とのことで、この世界に残っていた。
「気にすんな! 僕と君の中だろ?」
「お前とそんなに親しくした気はないけどな」
「僕はとっくに友達だと思っているけど?」
正直な話、ゾアは今も人に心を開けていない。
親しくない間柄では、警戒する。
でもユウキには、そんな気になれない。
彼がどことなくセイと似ているおかげなのか。
或いは世界規模の部外者だからなのか。
「聞きたい事ってなんだ? 手短だと助かる」
「ダークマター因子を、完全に消す方法を教えて欲しい」
ゾアは単刀直入に、用件を伝えた。
希望を感じ続ける事で、因子の影響を消すことができる。
だが十五年間蝕まれた体から、完全に消すことは難しい。
「あるにはあるさ。でも君には渡せないね」
「っ!」
この答えは想像していた事だ。
国王の尋問を聞いていた時、ゾアは真実を知った。
「君の体内の因子は、既に臓器まで浸食している」
臓器の細胞が既に、因子の一部となっている。
完全に除去してしまえば、その臓器は不完全になる。
ゾアの命は失われるだろう。
「なら遺伝を止める方法は? 子供に受け継がせなやり方は?」
「前にも話たけど、確率的な問題だ。僕達にはどうしようもない」
因子が遺伝するかは、生まれてみないと分からない。
ユウキは限りなく低いと、語っていた。
だからゾアも気に留めていなかった。
でももしかしたら……。
その低確率が起きたかもしれないのだ。
「子供に因子除去の注射も出来ない。未発達の子供には、副作用がある」
「じゃあ……。もうどうしようもないのか……?」
ゾアは諦めきれなかった。
何とか方法を探そうと必死に、縋りつく。
「たとえ子供に遺伝しても。君達がちゃんと育てれば、完全な除去が……」
「多分無理だ。俺達は子供が育つまで、傍に居てやれない……」
ゾアの考えは推測だ。だが辻褄が合う。
「たった一つ、方法がある」
俯き絶望するゾアに、ユウキは微笑みかけた。
その悪戯っぽい笑みには、儚さが映っている。
「因子の存在を知る、君達の敵を僕が始末すれば良い」
「そんなの一人しかいないじゃないか……。そんなことをしたら……!」
ゾアはノバから、異界のルールを聞いていた。、
異界には深く関わっていけない。その政治に口出ししてはいけない。
彼はそのルールを破ろうとしている。
「心配すんな! 僕が処分を食らえば済む話だ」
「なんでだよ……。なんでお前はそこまで出来んだよ!」
ゾアは彼を引き留めようとした。
「お前から見たら、俺らは他人だろ。なんでそこまで……」
「別に理由なんかないよ。ずっと昔から、そうやって生きてきただけさ」
処分と軽い口調で言ったが、彼のやることは重罪だ。
きっと小言や始末書では済まないだろう。
自分達の幸せのために、他者を犠牲に出来ない。
ゾアは必死で彼を止めようとした。
「幸せに生きろよ。君は十分代償を払ったのだから」
ユウキは中庭を飛び出して、高速で屋敷を去った。
行き先は宮殿。将来ゾア達の幸せを脅かす存在の下だ。
「どいつもこいつも……。俺にばっか、幸せを託しやがって……」
残されたゾアは、拳を握りしめた。
思い返せば、多くの大人に不幸にされたものだ。
同時に多くの人に、救われたのも事実だ。
「分かったよ……。俺は必ずセイやミラを守って見せる……!」
自分達の幸せが、多くの犠牲で成り立っている事を噛みしめる。
だからこそ自分は、幸せにならないといけない。
自分だけでなく、家族を幸せにしないといけないんだ。
***
セイとミラはテーブルで、折り紙をしていた。
ミラの子供らしさがない事に心配する。
彼女の歳ならまだ間に合うと考え、創造力の育成を始めた。
「折り紙って、難しいですね……」
ミラは折り鶴に苦戦する。
どうやら初体験の様で、動きがおぼつかない。
「手先を動かすことは、脳に良いらしいよ」
「じゃあ不器用な人が不利ですね」
「脳トレは他にもあるから、無問題ね」
子供の頃、砂遊びを良くしていた記憶がある。
発想力はそう言った創造性のある遊びで、育まれる。
まるで我が子の様に感じるミラに、微笑んでいた。
彼女は自分は存在していけないと言った。
そんな人間居ない。まずはそれを教えたい。
「よう。変な事を教えていないだろうな」
ノックの後扉が開き、ゾアが戻ってきた。
少し大切な話があると言って、彼は立ち去ったが。
どうやら直ぐに話し合いは終わったらしい。
ゾアの様子が妙な事は、直ぐに分かった。
彼はどこか寂しさを抑えて、明るく振舞っている。
「失礼な。私の教育は完璧だよ?」
「婚約者との初デートが、サバイバルの奴が良く言う」
自分もいつも用に、振舞った。
少しでも彼の寂しい気持ちが、薄れる様に。
「折り紙か? 意外な趣味だな」
「ゾアのスイカ割りにくらべれば、マシでしょ?」
「スイカくらい切ったって良いだろ」
ゾアもテーブル前に座って、一枚取る。
彼は器用な手先で、カエルを居り始めた。
「こんな風に、家族の団らんってのも良いもんだな」
「ゾアは初体験だからね。まあ、出来ないってのも珍しくないけど」
子を愛さない親も、少なくない。
義務がない以上、すれ違う家族だって存在する。
「これからも。こんな当たり前の幸せを、感じ続けると良いな」
ゾアの何気ない一言に、ミラが暗くなる。
「いや、続けてみせるさ。守ってやる」
ゾアはミラの頭を、優しく撫でた。
優しいほほ笑みをしながら、同時に胸を痛めた表情で。
「ミラ。もう大丈夫だ。俺の友達が、全てを終わらせてくれる」
「え……?」
「君が現れてくれたおかげだ。俺達は幸せになれるんだ」
その言葉の意味は、理解できないが。
ミラに伝わったようだ。彼女は張りつめていた表情を緩める。
「本当に……。全部終わるんですか?」
「ああ。俺も彼も。薄々今後の展開を危惧していたんだ」
彼はミラの体を抱きしめた。
「もう良いんだ……。俺達は、三人で幸せになろう……」
「パパ……」
ミラは三人称を使わないようにしていた。
再び彼女の口から、その単語が取り出した。
セイも何も聞かず、彼女の体を抱きしめる。
「まあ私が居るんだ。絶対幸せになるよ」
「ママ……」
初めて抱きしめる娘の体は、とても暖かい。
きっと初めて自分を抱いた両親も、こんな気持ちだったのだろう。
「あの……! 私は……」
「何も言わなくて良いよ。知識がなくても、伝わるものはあるもの」
二人は優しくミラの頭を撫でた。
耐えきれなくなった彼女は、温かい涙を一杯流した。
***
どうして自分がこの場所に居るのか。
自分でも分かっていない。
でももしかしたら、このために自分はこの場所に来たのかもしれない。
『幸せに生きて良いんだ』
記憶があやふやになる前。誰かが言ってくれた気がする。
もしかしたら"彼"はこのために、来てくれたのかもしれない。
大切な家族を守るため。自分の家族のケジメをつけるために……。
ノバ「トウイチにはスポンサーが居たんだ……」
レイ「貴方の身勝手で、これ以上彼らの幸せを奪わないで!」
?「全て私の計画通りだ」
ミラ「私は世界を破壊する存在……」
ゾア「お前は俺達の娘だ! ダークマターじゃない!」
セイ「一緒に暮らそう……。今度こそ三人で!」
?「ユウキ、奴を追え! そして絶対に勝て!」
ユウキ「任せとけって!」
セイ&ゾア「婚約を破棄する」
Next The Final Episode 政略結婚の果てに……




