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政略結婚の果てに──私に興味がないそうですが、私がいなくなったら困るくせに――  作者: クレキュリオ
第3章 一致団結

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第18話 理屈じゃない繋がり

 セイは衛兵の護衛と共に、実家に帰省した。

 ここを出て、まだ一年も経っていないが懐かしい気がする。

 あの時と変わらない。少し古臭い屋敷のままだ。


 ここを出た時、新たな生活にワクワクしながら荷物をまとめたものだ。

 まさか意外な形で戻って来るとは……。


「さてと。トウイチとやらの、不思議な力。父が何か知っていればいいのだけど……」


 セイが帰ってくることは、既に伝えてある。

 屋敷に帰ると出迎えを得て、少しの間主用の食卓で待機された。

 兜の裏なので、顔は分からないが仏頂面で衛兵が立っている。


「アレはトウイチが元々持っていた力だ」


 不意に衛兵が口にした。只者ではないと思っていたが。

 彼なりにトウイチと因縁がありそうだ。


「人の脳をジャックして、感覚を疑似体験させる異能力」


 セイは思わず首に、手が向かう。

 あの窒息しそうな感覚。確かに締められているのと同じだ。

 脳が首が締められていると、錯覚しているという事だろうか?


「前に随分苦しめられたが。今は対処法を知っている」

「なにそれ? それならみんなに、教えれば良いじゃないか」


 セイは無駄足を踏まされたと、呆れていた。

 

「教えれば、君はここに来る理由がなかった」

「まあ、確かにね。それで。私をお父様と合わせて、なにをさせたいの?」

「君の意志を確認したいんだ。君はゾア様を愛しているのか?」


 その問いかけに、セイは即答できなかった。

 確かにゾアは放っておけない雰囲気もあるし、助けたいと思うが。

 自分が惚れているからなのか。それは分からない。


 ゾアとの婚約には納得した上で、受け入れた。

 それは大切に育ててくれた、両親への恩返しからだ。

 一家の貧困事情を理解した上で、政略結婚を植え付けた。


「君の父はゾア様を救うために、君を利用したんだ」


 一家の困窮事情は事実だろうが。

 セイは本当の理由を隠されて、婚約をした。

 

「それを知ったうえで、君は今まで通り両親と接しられるか?」


 衛兵は試すような口調で、セイに聞いた。

 確かに家の事情と嘘をつかれた。

 でもセイの気持ちは変わらない。両親の愛情を信じている。


「随分とお喋りになったね。悪いものでも食べた」


 衛兵は無口だったが、急にセイを心配し始めた。

 

「お節介だと分かっていても。君が運命を受け入れて過ぎていないか不安なだけだ」

「確かにゾアを愛しているか分からないし、両親は私を騙していた」


 セイは胸を叩いて、頬を緩めた。


「でもゾアを救いたいって気持ちは本物。今はそれで十分じゃない?」

「そうか。確かに十分だな」


 セイは衛兵の性格を、なんとなく理解できた。

 ファリウスと同じ、お節介を焼きたがる人物だと。

 こういう人の扱いは慣れていた。


「親の都合で色々決めらえるが、嫌いなんだ。だから心配になった」


 その言葉には実体験が込められているようだった。

 貴族の衛兵に、上流階級は居ない。

 なにより彼は一般兵だ。恐らく平民出身だろう。


 それなのに、なぜか政略結婚をさせられたかのように。

 親に決められた運命へ、怒りを感じられる。


「そう言えば名前を聞いていなかったね」

「ミツヤだ。忘れてくれて構わない」

「了解。ミツヤ、心配してくれてありがとう」


 貴族に随分な態度を取る衛兵だと思っているが。

 不思議と彼には、格を感じられる。

 彼はいったい何者なのか。セイが問う前に、部屋の扉がノックされる。


 数秒遅れで長髪の男性が、入って来る。

 彼はセイの反対側に座り、メイドから紅茶を差し出された。


「お久しぶりです、お父様。髪切った?」


 セイは男性、父親であり当主に向かって軽口を叩く。

 父は溜息を吐きながら、紅茶に口をつけた。


「その接し方も、久しぶりだな。セイ」

「数カ月で変わったら、怖いよね?」

「まあそうだが。楽しそうで安心したよ」


 父の態度から罪悪感が見られる。

 そんなもの、感じなくていいのにとセイは思った。


「それで、急に帰ってきて何の用件だ?」

「トウイチ・コスモについて知りたい。昔、従者だったんでしょ?」


 トウイチの名前を出した途端、父の手が震えた。

 落ち着かせるようにカップに口をつける。


「戻って来ていたのか……」

「ええ。当主に戻り、好き放題。いきなり婚約破棄を言い渡されたよ」

「……。あの人を非難する権利は、私にはないな」


 父は俯きながら、自分を笑うように口角を上げた。

 セイを政略結婚させたことを、気に掛けているのだろう。


「お父様の思惑は、既に主様から聞きました」

「そうか……。私は坊ちゃま。ゾア様を救うため、お前を道具にしたのだ……」

「だから父親として振舞う気はないと? ちょっと単純すぎだよ」


 セイは胸を張りながら、父に微笑んだ。


「私は婚約を後悔していない。おかげでゾアの事を知ることが出来たから」

「随分仲良くなったようだな」

「ええ。でもあの人が好きなのか。まだ分からないけどね」


 ゾアを救いたい、楽しませたいは本心だ。

 でも結婚するからには、相手を思っていたい。

 自分はゾアを好きになれるのか? このまま婚約を進めて良いのか?


「友達として接する手はあるのに。なんで必死に抗っているのかもわからない」


 友達より婚約者の方が近い。

 それでもセイは、必死にトウイチを失脚させようとしていた。

 婚約破棄を回避するため、自分に出来る事を行っている。


「理屈じゃない繋がりもあるんだよ。嫌っていても、切れない縁みたいなものが」


 父は不意にそんなことを口にした。


「その繋がりは簡単には断ち切れない。お前とゾア様には、そんな縁が出来ているんだ」

「理屈じゃない縁か……。お父様にアドバイスをもらうとはね」

「人間、長生きすればこんな事もあるさ」


 長生きってとしてでもないだろうにと、セイは呆れた。

 それでもアドバイスを胸に刻んでおく。

 自分とゾアの間には、証明出来ない繋がりがあると。


「本題に戻ろうか。トウイチ様のなにが知りたいんだ?」

「実は……」


***


「以上がトウイチ・コスモの罪状になります」


 国王の間にて、ファイルを読んだノバが告げた。

 証拠を全て集め終えて、トウイチの罪を明かす。

 この世界を破壊する。国家反逆に当たる決定的ない証拠を。


 帳簿でトウイチの旗色は悪くなった。

 トドメにダークマターを増強する装置が、彼の隠れ家で見つかったのだ。

 隠れ家の位置は、セイの父親が教えてくれた。


「トウイチから爵位をはく奪するには、十分かと」

「それを判断するのは私だ。余計な口出しをするな」


 国王は厳格な口調で、ノバに注意をした。

 弟相手でも、公の場ではビジネストークだ。

 セイは緊張しながら、国王の言葉を待つ。


「だがお前の言う通りだ。彼の罪は立証された」


 目の前にいるトウイチを指しながら、国王は立ち上がった。


「トウイチよ。本日より貴殿から、貴族権及び裁決権のはく奪を行う」


 トウイチは反応を示さず、黙ってノバへ目線を向けた。

 口元を緩めて、国王の言葉が聞こえていないかのように振舞う。


「ノバよ。これがお前の選んだ結末か?」

「私はお前と違う。子供を道具に出来ない」

「その程度の憎しみか。ならば……」


 トウイチの手が赤く光った。その輝きに、思わず目を瞑る。

 瞳を開くとセイの目の前に、剣が飛んでくる。

 突然の出来事で、彼女は対応出来ない。


「ヘイ! そんなバッドエンド。ノーセンキュー!」


 セイは不思議な力で、横の投げ飛ばされた。

 ユウキが以前怪物に見せた、力を発動したのだ。


「アンタも年貢の納め時だぜ」

「ユウキか……。飼い犬に噛まれるとは、こんな気分なのだな」

「なつき度が足りないのさ。もっと大事にしてもらわないと」


 トウイチは再び手をかざした。甲から赤い光を放つ。

 その時、一人の衛兵が彼の腕を使う。

 衛兵は腕から青い光を発して、トウイチの光を打ち消していく。


「なに!? お、お前……! 生きていたのか!?」


 トウイチは衛兵を見ながら、初めて動揺を見せた。

 兜で顔は見えないが、衛兵が笑っている様な気がした。


「ケルベロスに噛まれたな」


 ユウキの皮肉に、トウイチは白目を剥いた。

 衛兵ミツヤとユウキを交互に見ながら、歯を食いしばる。


「貴様ら……! 今度こそ……」

「失せろ」


 ミツヤは冷たい一言を放ち、トウイチの体に剣を突き刺した。

 剣はトウイチの体を貫通。彼は吐血する。


「嫌だ……。私は死なん……! 死なんぞ!」

「こっちは何とかした。後はお前達で未来を掴み取りな」


 ユウキが腕輪ヲ弄ると、王の前に青い渦出現した。

 ミツヤは渦に向かって、トウイチもろとも消えていく。


「異物の切除完了! ミッションコンプリート!」

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