第15話 一致団結
「どこ行ってたんだ? 急に出かけるなんて」
ゾアが心配そうな声で、セイに語り掛けた。
以前の彼なら、セイがどこでなにをしようが興味を示さなかったはずだ。
これからは言い訳が必要だなと、セイは呑気に考えていた。
ゾアの執務室、既にメンバーは集まっている。
ノバにレイ。彼らの付き添いで来たユウキ。
ユウキはマスクを脱いだネガリアンに反応するかと思ったが。
宿敵同士通じ合うものがあるのか、敢えて言及しなかった。
「強力な助っ人を連れてきたから、文句言わない」
「心配しているだけさ。君がまた無茶企んでいないかな」
「無茶はするよ。じゃなきゃ勝てないでしょ?」
ノバはトウイチを失脚させる、証拠を持ってきた。
ただそれだけでは、まだ足りないのだ。
親権をはく奪するには、より強力な証拠が必要。
このメンバーはその為に集まっている。
もはや自分達だけの、問題ではない。
「ウェイ、ウェイ。漫才はそれくらいにして、作戦会議に入ろうぜ」
ユウキは真っすぐ、セイが連れてきた衛兵を見つめた。
全身鎧で身を包み、顔も兜で隠している。
でもなぜだか、衛兵からは強者の覇気を感じる。
「心強い助っ人も居る事だし。まあ何とかなるだろ」
続いてセイの執事。"ファリウス"と名乗る者を見た。
ファリウスは鼻を鳴らしながら、ユウキを見る。
「まず前提として、奴はこの世界の崩壊を企んでいる」
ノバが代表して、この場ヲ仕切る。
一番偉い人が仕切ってくれるのは、セイとしても有り難い。
「私にダークマター因子を渡したのは、奴なのだからな」
少し申し訳なさそうに、ゾアを見つめるノバ。
彼が絶望し、覚醒すると計画して組み込んだものだ。
ノバにはまだ人の心が残っていたらしい。何かがきっかけで、取り戻せたのだ。
「奴の危険性は示せる。だが……」
「世界を崩壊させようとした罪状なんて、ありませんからわね……」
レイが困ったような態度で、口にした。
確かにそんな法律は存在しない。国家反逆罪に繋がるかも不明だ。
それで牢獄にぶち込むことはできない。
「そこで奴が国家反逆を企てている証拠が欲しい」
世界を壊そうとしているのではなく。
国に大きな損害を与えようとしている、決定的な証拠。
それを手に入れれば、トウイチを完全に失脚できる。
この国で最も重い罪が、反逆罪だ。
親権をはく奪するには、十分すぎるだろう。
「奴は隠れて研究をしていた。研究所もあるはずだ。それには莫大な資産が必要だ」
「兄は裏金を使っていた疑惑があります。それは証拠になりますか?」
「なるだろうが、反逆罪にするには弱いな……」
裏金だけなら、反逆罪よりずっと軽い。
ノバは苦い表情をする。トウイチの企み、その全貌を知っているのだろう。
「でも武器になるなら、持っていた方が良い。叔父さん。証拠に心当たりは?」
「あるにはある。お前達がこの間失脚させたメイドだ」
セイは肩をすくめ、ゾアは溜息を吐いた。
確かに古株だったメイド長なら、何か知っているだろう。
問題はどうやって協力させるかだ。
自分から仕事を奪った人のために、働くような人物じゃない。
主は他に心当たりがないようだった。
「俺がなんとかする」
ゾアは拳を握りながら、宣言した。
「武器になるなら、どんなものも手に入れるべきだ」
ゾアは強い信念を見せた。
心配そうにする主に、ゾアは爽やかな笑顔を見せた。
「大丈夫だよ、叔父さん。今の俺は復讐のために、動いていない」
ゾアはセイへ振り向いた。
「ただ彼女と一緒に居たいだけなんだ」
「そうか……。ならば何も言わない。兄の研究室は、私と衛兵達で調べよう」
主は従者からの信頼が厚い。
トウイチが当主になることは、殆どが反対している。
彼らなら力を貸してくれるだろう。
「私は国王への手配で、調査出来そうにない。すまないな」
「そんなお父様の尻ぬぐいのため、私達が調べますわ」
レイが父の背中を叩いた。
以前祭りであった時より、随分と明るくなった印象だ。
父親との距離も、随分と近いような気がする。
「ユウキ。お前に調べて欲しい場所がある」
ファリウスがユウキに話しかけた。
「冬木登市が死んだ場所を調べて欲しい。そこに真相があるはずじゃ」
「確かにそれは僕が適任だね」
ユウキはレイの肩に、手を置いた。
「彼女を連れて行っても? どうしても、見せてあげたいんだ」
「ワシに拒否権はない。あっちでもこっちも犯罪者だからな」
「心配すんなって! もうみんな、お前の事は忘れているさ!」
ユウキは親指を立てて、ファリウスに反応した。
何かの合図なのだろう。ファリウスは何も言わず、頷いた。
「各々決まった事だけど。私は何をすれば?」
セイだけは調査内容が、決まっていなかった。
ジッとしているのは性に合わない。
たとえトウイチが自分の命を狙っているかもとしてもだ。
「君には兄の不思議な力について、調べて欲しい」
「あの首が痛い奴ですか。確かに対策は必至ですね」
トウイチは触れる事なく、呼吸を止める事が出来る。
あの力は昔から持っていたようだが、主にも分からないらしい。
「昔から兄の従者だった、君の父親なら何か知っているかもしれない……」
「久しぶりの親子の会話ですね。任せておいてください!」
「……。護衛は俺に任せろ……」
ずっと無口だった衛兵が、初めて喋った。
腕を組みながら、冷静な口調だ。
「ふむ。護衛が君一人では不安だ。何人か……」
「ぞろぞろ大量で動くと奴に察知される。単独でコソコソ動いた方が良い」
トウイチにこちらの動きは察知されたくない。
主は反論できず、迷った様な視線を向ける。
セイは一つだけ気になった。衛兵はトウイチの事を良く知っているかのようだ。
年齢はかなり上だ。昔トウイチに使えても、おかしくはない。
「彼なら百人の衛兵よりも、心強いさ」
コスモ家と無関係のユウキが、不意にそう答えた。
祭りであれだけの強さを見せた彼に言われては、主も黙る。
「動きは決まったな。それじゃあ、一致団結ってことで!」
ユウキは掌を差し出した。
レイ王女は首を傾げる。
「なにそれ?」
「手を重ねるんだよ。気合入れていくぞって奴だな」
衛兵がフッと笑いながら、手を重ねた。
ファリウスも少し照れながら、同じ動きをする。
それに釣られて、全員がユウキの掌に手を置いた。
「トウイチは危険な相手だ。全員が一歩間違えたら、始末される可能性がある」
ノバが声を震えさせながら、全員に警告をする。
誰か一人でも欠けたら、トウイチを失脚出来ない。
力を封じ、罪を明かして、失脚させる必要がある。
「「ああ。知っているさ。よくな……」」
ユウキと衛兵が同時に口にした。
二人共心臓に手を置いて、目を瞑っている。
「それじゃあ、一致団結と言う事で……。掛け声どうしようか?」
「気合挙げていくよ!」
ユウキの代わりに、セイが掛け声を上げる。
それにつられて、全員が声を上げた。
「丁度、思いついたところなのにな」




