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政略結婚の果てに──私に興味がないそうですが、私がいなくなったら困るくせに――  作者: クレキュリオ
第3章 一致団結

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第14話 懺悔

 セイは招待状を片手に、街にあるバーを訪れていた。

 彼女は未成年だが、手紙を見せると通された。

 少し警戒をしながら、バーの様子を確かめる。


 寂れている。カウンターに居る一人以外客はいない。

 気配を探るが、隠れている人もいない。

 今店に居るのは、マスターとセイをここに呼んだ自分つだけだ。


「どういう風の吹き回し? 貴方が私を呼ぶなんて」


 一致団結したところで、セイは一度部屋に戻った。

 その時招待状の入った、手紙が部屋に入れられていた。

 窓に刺さったていたため、送り主は察しがついていた。


 彼の事を警戒しているセイは、敢えて自分だけでやってきた。

 送り主、ネガリアンの隣に座る。

 ネガリアンは茶色い液体をコップに入れて、ゴクゴク飲んでいた。


「いい味じゃな、マスター。ワシの部下にならんか?」

「悪いが誰かの下につくのは柄じゃない。今更な」


 マスターは水を入れて、セイに出した。


「こっちの質問に答えてくれる? 私を攫って、ゾアを脅す気?」

「いや。もう彼を殺す理由はなくなった。一筋の希望が見えてきたんじゃ」


 ネガリアンは指名手配されている。

 王族を誘拐しようとしたのだから当然だ。

 とは言え、衛兵を連れてきても、彼には勝てないだろう。


「ダークマター因子を消す方法がある。そうすれば、彼は普通の少年に戻れる」


 セイは息を飲み込んだ。そもそも彼に力を教えてのは彼だ。

 覚醒の仕方を知っているなら、当然押さえ方も知っているだろう。


「絶望で。マイナスエネルギーで覚醒するのとは逆に。プラスエネルギーで因子は消える」

「プラスエネルギー?」

「簡単に言えば、楽しい思い出じゃな」


 ネガリアンはコップの麦茶を、一気に飲み干した。

 コップを割れない程度に、強く叩きつける。


「楽しいという思いをすればするほど。遺伝子に組み込まれた因子は、抵抗体に除去される」

「それなら丁度良かった。私ははなからそのつもり……」

「逆に絶望が強ければ、因子は増加する」


 ネガリアンの言葉で、セイは再び緊張する。


「因子が脳を浸食すれば、ダークマターの本能で動く」

「ダークマターとやらの目的は? 本能でなにをするの?」

「世界を消滅させる。自分達の世界が出来るか、二分の一に賭けて世界を再生させる」


 セイは脳の処理が追いつかない。

 そもそも彼女はダークマターがなにであるのか、知らないのだ。

 

「彼は長い絶望の末、ダークマターに体を侵食されておる。もって後一カ月じゃろうな」


 その宣告は、セイにとって衝撃だった。

 ネガリアンがゾアを始末しようとした理由は、時間がなかったからだろう。

 それにあの時はまだ、彼はセイを信用していなかった。


「じゃが君のおかげで、浸食は止まりつつある。ワシはもしかしたらと考えた」

「ええ。私はこれから、ゾアを沢山楽しませるつもり」

「そうじゃな。彼にとって君は、かけがえのない存在になりつつある」


 ネガリアンは拳を握りしめた。


「だが大切になればなるほど。失った時の絶望が大きくなる」

「私は長生きする予定だよ? ゾアと同じ日に死ぬかもね」

「じゃが命が狙われたらどうかな?」


 セイは首を傾げた。自分が命を狙われる理由がない。

 貴族とは言え、階級は低い。

 実験も持っていない自分を、わざわざ暗殺するメリットがないのだ。


「業を煮やした奴は、遂に自ら動き出しよった」


 ネガリアンは立ち上がり、セイに背中を見せた。

 マスターにお金を渡し、セイの分を奢る。


「"冬木登市"。いや、この世界ではトウイチ・コスモじゃったな」 

「トウイチって名前なら、さっき聞いたよ。本当に最近ね」


 トウイチはゾアの父親だ。

 彼は強引に彼を引き取ろうとしている。

 その理由がセイと離れさせることなら、合点が行く。


「奴の事はワシに任せろ。どのみちワシは、王女を狙った犯罪者じゃ」

「自己犠牲も結構だけど。どうしてそこまでするのさ?」


 セイの問いかけに、ネガリアンは俯いた。

 鉄仮面をかぶっている上、後ろ姿だ。

 表情は読み取れないが、どこか儚い雰囲気を抱いた。


「ワシはな。この世界の人間じゃないんじゃ」

「まあ察しがついていたよ。そんなファッション、どこでも見ないし」


 ネガリアンは振り返って、セイの事を見た。

 赤い目も顔も変わっていないのに。

 セイには彼の感情が読み取れるような気がした。


「元の世界では世紀の天才を自称して。世界征服を何度も企んだ」


 ネガリアンは鼻で自分の事を笑った。


「愚かじゃな。一人の人間に、そんなことが出来る訳なかろうに……」

「そりゃ賢明ね。どうやって賢くなったの?」

「最後のユウキとの対決後。ワシはこの世界に飛ばされた」


 ユウキとネガリアンは、何度も戦う仲だったそうだ。

 彼は何度もユウキに戦いを挑み、敗北した。


「見知らぬ世界で全てを失ったワシに、手を差し伸べる女性がおった」

「随分なもの好きがいるようで」

「お前の母親じゃなが」


 セイは目を丸くした。同時に自分の母親ならあり得ると思った。

 何せ自分に世界を楽しめと、教えてくれた人なのだから。


「ワシはこの世界で、美しい自然や優しさ。愛と言うものに触れる事が出来た」

「世界征服なんか企むから、元の世界に友達いなかったんじゃない?」

「そうじゃ。自惚れたワシに、そんなものなかった」


 ネガリアンはバーの窓を見つめた。

 外から見える風景は、街の寂れた部分だ。


「ワシはこの世界が、お前の母親が好きになった」

「私の父親、そんなダサイセンスしていないけど?」

「身元も分からぬ者と、貴族女性が一緒になれるわけなかろう」


 ネガリアンは兜の様なものを、取り除いた。

 下から見えた顔を見て、セイは本日最大の驚きが広がる。


「お嬢様。私は叶わぬ恋でも、愛する人が幸せならそれで良かったのです」


 ネガリアンの素顔は、セイの執事と同じものだった。

 彼は幼い頃からセイに色々な事を教えてくれた、教育係だ。

 時には身を挺して、自分を庇ってくれた事があった。


 彼はゾアとの婚約を、最後まで反対していた。

 本人の意志を、尊重するべきだと。


「でもとんだお節介でしたね。お嬢様は自分で、解決さられた」

「本当にお節介だよ。貴方は昔から……」


 執事は我が子の様に、セイと接しいた。

 忙しい両親の代わりになって、いつも相手をしてくれたのだ。


「ですがトウイチは恐ろしい相手です。お嬢様でも、恐らく私でもどうにもならない」


 先ほどトウイチから、不思議な力を受けた。

 多分失脚させても、実力行使に出られれば負ける。


「ですから私は再びこれを被り。元の世界から我が宿敵を呼びました」


 ネガリアンと名乗る時、いつも仮面をつけていたようだ。

 こちらでは数年たっていたが。

 元の世界では一カ月も経っていなかったそうだ。


「ですからお嬢様。後は我々に任せてください。貴方は貴方のやるべき事に集中してください」


 執事は全ての罪を背負って、トウイチを倒すつもりだ。

 貴族の殺害は立派な反逆。重罪だ。

 二度とセイに会うことはない。これはお別れのつもりなのだ。


「二日だけ。待ってくれる?」

「ダメです。もうアイツと、同じ部屋に居させたくありません」

「私が貴方のお節介を聞いた事があった? 自分の事は、自分で何とかする」


 失敗したら、命が狙われると分かったのだ。

 だったら対策を取れる。


「私は生き残る。ゾアも楽しませる。トウイチも倒す」


***


 バーの表で彼は話を盗み聞きしていた。

 セイの護衛を頼まれた。襲撃された場合、飛び出す予定だった。

 コスモ家の衛兵である彼は、どこか強者の雰囲気を醸し出していた。


 ネガリアンだと察しがついた彼女は、彼なら軍勢に勝てると思い連れてきた。

 バーの壁にもたれかかりながら、彼は黙って話を聞いていた。

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