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政略結婚の果てに──私に興味がないそうですが、私がいなくなったら困るくせに――  作者: クレキュリオ
第3章 一致団結

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第13話 一難去ってまた一難

 屋敷での会話を終えた後、二人は帰宅した。

 心なしかゾアの背中が、穏やかに見える。

 自分が沢山楽しい思いをさせてあげる。

 

 セイは後ろ姿を見ながら、そんな事を考えていた。

 でもこれから行うのは、少し気が重い事だ。

 レイ王女との婚約を、断ること。


 これはノバが直々に持ってきた縁談だ。

 断ればなにをされるか分かったものではない。


「本当に大丈夫? コスモ家が潰されたりしない?」

「ノバは食えない奴だ。そんな表立った制裁はしない」

「でも制裁はしてくるんでしょ? ちょっと気が引ける」

「ちょっとだけなら、我慢してくれよ」


 セイの軽口を流しながら、ゾアは叔父の部屋に向かった。

 叔父を説得するのは簡単だ。

 彼は元々縁談に反対だったのだから。

 ゾアがドアノブに手を掛け、ノックしようとすると。

 

「ふざけるな! 今更なんだ!」


 叔父の怒号が聞こえてきた。

 セイからしたら、主が声を荒げることは珍しい。

 彼は怒ると静かな口調になるタイプだ。


 これほど強い怒りを露わにするのは、初めてかもしれない。

 二人はいけないと思いつつも、扉を明けてこっそり見る。


「今更ではない。今だからこそだ」


 叔父と一人の男性が、会話をしている。

 知らない男性の方は、仮面で素顔を隠している。

 黒い鉄仮面で、顔を覆いつくす様はどこか不気味さを感じる。


「俺はこれより、コスモ家当主に復帰する」


 セイは男性の声に、違和感があった。

 人間の声じゃないような。妙に響く声。

 エコーのかかった声を、男性は発している。


「一度逃げたお前に、そんな権利があるとでも!?」

「法律では認められている。それから……」


 男性は手を赤く光らせた。

 それと同時に、主は首を押さえて苦しみ始める。

 呼吸を止めて、男性に向かって手を伸ばした。


「兄に向かって、お前は止めろ」


 男性の手から光が消えると、主は深呼吸をした。

 過呼吸になりながら、男性を睨みつける。


「お前の様なゴミが、十五年も当主につけたんだ。感謝するが良い」


 セイは隣で様子を伺っている、ゾアの表情を見た。

 彼の顔は青ざめている。当然だろう。

 当主へ復活。主の兄。ここから導き出せる答えは……。


「ゾアの親権も、俺が貰う。法律上、実親に最も権利がある」


 男性の正体。それはゾアの父親だ。

 彼は駆け落ちから、戻ってきたのだ。


「い、今更なにを……」

「ふざけんな! 今更何言ってやがる!」


 ゾアはたまらなくなって、扉を開いた。

 鉄仮面の男性が、冷たい目線で彼を見つめる。


「盗み聞きとは。弟の教育は悪い様で」

「アンタに育てられたら、性格悪くなりそうだけどね」


 セイはゾアを引き留めるため、前に出た。

 このままでは親子喧嘩が、激しくなりそうだ。


「なんだ? 無関係なゴミは黙っていろ」

「私は彼の婚約者です。彼の親権問題なら、私にも関係あるかと」

「ならその婚約は、この場で破棄だ」


 横暴の言い方に、流石のセイもムッとした。

 

「名前も知らない貴方の言う事を、聞く義務がありますか?」

「トウイチだ。トウイチ・コスモ。会うのはこれが最後だと思うがな」

「律儀にどうも。これからもしつこく、お会いさせてもらいますね」


 セイもここで引くつもりはない。

 折角ゾアが前向きなり始めたのだ。

 最後まで彼を見届けたいと、思っている。


「クソ親父。また俺の人生を勝手に決めるのか? また俺を縛り付けるのか?」

「クソ親父か……。どうやら私は"息子"に嫌われやすいらしいな」

「俺はもう、自分の意思決定が出来る! アンタの好きにさせない!」


 ゾアが言いきった後、トウイチは冷たい目線を彼に向けた。

 以前のゾアと似ているが、それ以上に冷たい目線だ。

 セイですら、ゾッとするほど凍てついていた。


「お前の様な子供に、なにが出来る?」

「俺はもう十五歳だ! 誰かに頼ってでも、何とかしてやる!」

「十五歳か。確かに油断ならない歳だ」


 年齢を聞いた途端、トウイチは態度を改めた。


「二年前、その年のガキに足元をすくわれた。同じミスはしない主義でね」


 トウイチは再び手を赤く光らせた。

 同時にセイの喉が、締め付けられた様な感覚に陥る。

 苦しい……。呼吸が出来ない……。彼女は咄嗟に首に手を回した。


 ゾアも同じ感覚なのか、苦しそうな表情をしている。

 トウイチが光を引っ込めると、苦しさから解放される。


「先に恐怖を植え付けておくとしよう」

「はぁ……。はぁ……。なんだよ……。今の力は?」

「三日後。俺は正式に当主に帰還する」


 セイとゾアを押しのけて、トウイチは扉に向かった。

 正式な手続きにかかる時間が、三日と言う事だろう。


「それまでに荷物をまとめて置け。ゾアは俺が決めた者と、結婚する」


 セイに嫌味を言いながら、トウイチは部屋から出て行った。

 セイはまだ首元を押さえている。

 呼吸が出来ないほどの苦しみが、まだ感覚的に残っていた。


「なんなんだよ。急に帰ってきて、一方的に話を進めやがって……」


 ゾアは悔しさから、拳を握りしめていた。

 やっと前向きになれたというのに。

 急に父親が帰ってきて、彼を運命に縛り付けようとするのだ。


「法律的には奴が正しい。親権も当主に戻るのもな……」


 主が眉間にシワをよせながら、口にした。

 彼も納得いっていないようだ。

 

「だが気持ち的には、間違っている。親としても、当主としてもな」

「でも法律的に問題がないなら。彼の手続きは通りますよね?」


 セイの問いかけに、主はゆっくり頷いた。

 当主になるのも、親になるのも人格は関係ないのだ。


「だからって、俺はこのまま納得するつもりはない」

「ええ。私も。さっきの礼はさせてもらいたいしね」


 ゾアは強い目線で、主の事を見つめた。


「叔父さん! 力を貸してくれ! クソ親父をぶっ潰すために!」

「ああ。私としてもこのままにしておくつもりはない。当主としても。父親としても」

「ああ……。叔父さんは俺を自由にしてくれた。アンタが本当の親父だ」


 ゾアは主の愛情を、素直に受け取れるようになった。

 セイとの婚約も、彼の心を思ってのことなのだから。


「だがどうやって、状況を打破したら良いものか……」

「ありますよ。あの人が当主にも親にも相応しくないと、国に示せば良いのです」


 セイには作戦があった。


「この国の一番偉い人の前で。大恥をかかせてやりましょう」

「確かにこの国では国王陛下の言葉が、第一だが……。一体どうやって?」

「ゾアは王族と繋がりがあるでしょ? それを使う時です」


 ゾアはレイ王女と、縁談が来ていた。

 それは断るつもりだったが、答えるためにはノバと話す必要がある。

 ノバは国王の弟だ。謁見の手続きは出来るだろう。


「ふむ。そうなると、何か条件が提示されそうだな……」

「レイ王女の婚約とかな……」


 ゾアは苦しそうな表情で、口にした。

 婚約にコスモ家側は、条件を提示しなかった。

 ここで条件を追加するのもありだが、それではゾアが幸せになれない。


「その必要はない」


 扉を開けて、一人の男性が入ってきた。


「急な訪問、お詫びする」

「ノバ様!? なぜこちらに!?」

「ユウキ君のテレポートとやらで、来たんだよ。どうしても伝えたい事があってな……」


 ノバはゾアを見つめながら、頭を下げた。


「君とレイとの縁談は、なかったことにしてくれ」

「……! どういう心変わりですか?」

「私もたまには、自分のためでなく。娘のために働きたいものだ」


 そう語るノバの表情は、以前と別物だ。

 食えない狸の様な顔から、一人の父親になっている。


「それと……。君には償わなければならないことがある。だからこちらの条件はなしだ」

「良いのですか?」

「ああ。寧ろこの程度では、足りないくらいだ」


 セイはなんとなく、彼の罪を理解した。

 きっとゾアにダークマター因子を、組み込んだのは……。


「二日後。王の間に来てくれ。兄には私が話を通しておく」

「ふむ……。しかしどうやって、失脚させるかですな……」

「一応こちらに策があるが……。少し足りない」


 親権と当主が受理されるのが、三日後。

 二日後までに打開しなければならない。

 つまり、のこり二日でトウイチを失脚させる何かが必要なのだ。


「頼りっぱなしは性に合わない。私達でなんとかしましょう!」


 セイは悩める二人の背中を叩いた。

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