表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
政略結婚の果てに──私に興味がないそうですが、私がいなくなったら困るくせに――  作者: クレキュリオ
第2章 レイ王女の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/27

第11話 父と子

 レイ達は小さな草原に、ピクニックに来ていた。

 ユウキの提案で、父と腹を割って話すために。

 こんな話、父は断ると思っていたが。意外とすんなり受け入れてくれた。


 かと思うと、父は早々にどこかへ消えた。

 レイは思う。きっと何かのついでなのだろうと。

 自分が外に出ると決心しても、感動一つしてくれない。


「素直に受けてくれたと思ったら。人の恋路の邪魔のついでかよ」

「君には関係のない話だ」


 ユウキが父を連れて戻ってきた。

 レイは既にシーツに座っており、昼食に手を付けている。

 食事は全て、ユウキが用意したものだ。


 以外にも彼は家事が得意で、綺麗なサンドイッチが並べられている。

 なぜかきゅうりに拘りがあるが、美味しさは保証されていた。


「それに。私は暇ではない。もののついででなければ、こんな事しないさ」


 反対側に座る父の口調は、冷たかった。

 レイはどうしても、彼からの愛情を疑う。

 

 いざ対面しても、なにを話して良いのか分からない。

 ユウキに助け舟を求めて、目線を向ける。

 彼は黙って頷き、ノバの方へ振り向いた。


「王様に聞いて欲しい話がある」

「興味がないな」


 ノバは鬱陶しいそうに、腕時計を眺めた。

 早く終わらせという、無言圧力なのだろう。


「僕の父は胎児の頃から、遺伝子操作を受けた存在だった」

「急になんの話かね? 君の身の上話に興味はないのだが」

「祖父が妻を失った復讐をするため。道具として生み出されたんだ」


 その言葉が続けられた瞬間。ノバは顔をしかめた。

 先ほどまでの興味のない態度を改めて、ユウキの方へ体を向ける。


「父は優秀な遺伝子と。人の能力を飛躍させる因子を組み込まれて生まれた」


 その因子は遺伝して、ユウキの体内にもある。

 彼はかつて悪魔の因子が自分にあると、語っていた。

 レイは話の意図が読み取れないが、聞き入る。


「父は生まれる前に勝手な事をした、父を憎んでいた。親子で憎み合っていた」


 ノバは口を挟まず、彼の話を聞き続ける。


「二年前。全人類への処刑宣言として。復讐は実行された」

「その復讐の結末は、どうなってのかね?」


 ノバは強い興味を持って、質問をした。

 まるで彼自身が当てはまるかのように……。


「息子と孫に止められた挙句。息子と共に最期を迎えたよ」

「皮肉な話だな……。自らが復讐の為に生み出された者に、邪魔されるとは」


 父は先ほどまで手をつけなかった、食事に手を伸ばした。

 もう時間は気にしていない。


「僕も正直、爺さんの事は嫌いだった。でも……」


 ユウキは立ち上がって、胸を叩いた。


「アンタは違うさ。娘に憎まれていないし。アンタの心にはまだ……」


 ユウキはノバに、訴えかける様に伝えた。

 まるで父が彼の祖父と同じ状況な様に……。

 それでも少し違うのを理解しているかのように、彼は感情を込めていた。


「破滅する前に、素直になった方が良いぜ。母型の祖母もそれを望んでいた」


 父は目を瞑りながら、ペンダントを握りしめた。

 三人を優しい風が、包み込んでくれる。


「その祖母の名前は、なんて言うんだ?」

「薫。工藤薫。かつて異界を救った、勇敢な戦士さ」


 薫。その名前にレイは聞き覚えがある。 

 どこで聞いたのか、よく覚えていないが。

 なぜか心が温まり、そして涙を流しそうになった。


「お膳立ては済んだ。後は親子でなんとかするんだな」


 ユウキはシートから離れて、近くの木にもたれかかった。

 距離としては、会話をギリギリ聞けない位置だろう。

 親子で話し合え。彼はそう合図しているのだ。


 レイは何を告げれば良いか迷った。

 父をジッと観察する。彼はペンダントを握ったまま、目を瞑り続ける。


「薫は……。お前の母親なんだ」


 父が不意に声をかけてきた。

 ペンダントを握りしめたまま、苦しそうに表情を歪める。


「レイ。お前は異界の血が混ざった、ハーフなんだ」


 その言葉にレイは、体を震えさせた。

 父は母の事を、話したがらなかった。


「十七年前。当時騎士団を指揮していた私は、ある女性と出会った」


 騎士団は強大な怪物を観測。

 その討伐のため、王族自らが指揮をする軍が駆り出されたらしい。


「時に喧嘩したり、軽口を叩き合い。戦い抜いて。愛し合った」

「それが私のお母さま?」


 レイの問いかけに、ノバは頷いた。

 初めて聞く、母親の話。彼女は静かに耳を傾ける。


「でもね。それは許されない事なんだよ。異界の法律で禁じられている」


 ユウキや薫の世界では、法律で定められている。

 異界の法や秩序に介入してはいけないと。


「私は王族だった。当然それなりに、法の執行権利を持っている」


 もし彼らが結婚してしまえば。工藤薫は法律を破ることになる。

 ちょっとした相談でも、この世界の法律に関わる事になるのだから。


「私は王位を捨てて、彼女の駆け落ちを提案したよ」


 権力を捨てれば、法の進行権利も消える。

 そう考えたノバは、全てを放り出して薫と一緒になろうとした。


「だがそれは出来なかった。実行すれば、私達は二つの世界の軍から追われる」


 法律を破ったとして、異界の軍隊からも追われる。

 薫はノバのそう告げて、彼の前から姿を消したのだ。


「危険な逃避行動だ。我々だけならまだしも、家族を危険にさらせない」

「だからお母さまは、姿を消した」

「今に思えば、その時既にお前を……」


 ノバも薫も本当はいけない事だと分かっていた。

 それでも彼女達は、一緒に居る事を選んだ。

 

「彼女が消えた後。私はこの地位と、世界の法律を恨んだ」


 ノバは時折、悲しそうな目をしていた。

 レイはそれが、母を思った事なのだと今理解した。


「こんな運命を決めた、二つの世界に復讐してやろうと思ったさ」


 ノバは目を開けて、レイを見つめる。


「お前を"道具"として、利用してな」


 少しだけ、ノバの目から冷たさが消えていた。

 子供を利用して復讐を遂げる。

 ついさっきに聞いた話だ。


「薫が消えて数カ月後。ある人物が、赤子とダークマター因子を持ってきた」

「ダークマター因子?」

「世界を破滅させる力だ。本来なら一つの世界を滅ぼす力だが……」


 ノバは目線を横に向けた。

 その先には……。二人の少年、少女が狩りをしている。


「二つの世界の遺伝子と混ざることで、よりパワーを増す」

「お父様は……。復讐のために、この婚約を?」


 父は無言で頷いた。


「だが彼の話を聞いて、思ったさ。復讐は破滅するだけなのだと」


 父の計画が進めば、当然向こうの世界から反撃を受けるだろう。

 きっと復讐は失敗に終わると、彼は悟ったようだ。

 ユウキが話した、もう一つの復讐劇のように……。


「そう簡単に割り切れないが。私は冷静さを欠けていたのかもしれない」

「お父様……」


 父の苦悩を見て、レイは思った。

 ノバは決して冷酷なだけな人ではないと。

 ただ愛情が強くて、それを失った悲しみに囚われているだけなのだと。


「私はお父様に、愛されていないと思っていました」

「実際道具として扱っていた。酷い父親さ」

「でもお父様は、毎日様子を確かめに来てくれました」


 父は一日たりとも欠かさず、レイの部屋を訪れた。


「私の事を心配しての事でしょ?」

「さあな……。親心が残っていたかは定かではない」

「でも私は信じています。お父様の事を」


 レイの言葉を聞いて、まるで氷が解けたかのように。

 ノバは初めて穏やかな表情を見せた。

 全てを吐ききった事で、スッキリしたようだ。


 レイは父の心情を知った。彼の持つ悲しみも。

 でもノバは孤独ではない。自分と言う家族がいるのだ。

 ちょっとだけ、見えなくなっていただけで。


「レイ。私はしばらく、休暇を取る」

「良いのですか?」

「ああ。お前の力についてや。お前自身について。話したい事が一杯出来た」


 話し合った親子を、優しい風が包み込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ