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政略結婚の果てに──私に興味がないそうですが、私がいなくなったら困るくせに――  作者: クレキュリオ
第2章 レイ王女の物語

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第8話 婚約相手の物語

あくまで主人公はセイです。こちらの物語は物語を深めるスパイス程度に思っています。

 ネガリアンの襲撃があったその日。

 国王の弟の娘。レイ王女はユウキを強引に引っ張っていた。

 衛兵に囲まれた彼を助けるには、特別客として招待するしかない。


 自室に他者を入れるのは、好きではないが。

 彼だけは特別だった。

 ネガリアンの怪物を倒すとき、不思議な力を使った彼だけは。


「どこまで行くんだい? 強引な少女はちょっとね……」

「私は普段そこまでだよ。でも今だけは、強引も許されるよね?」


 レイは本来、引っ込み思案な性格だ。

 だが今チャンスを逃したら、二度とこないかもしれない。

 だから多少キャラじゃないと思いつつも、ユウキを連れ出した。


「そもそも貴方、衛兵とどんな悶着があったの?」

「あ~。色々手違いで。変な場所に飛ばされて。剣持ってたから、色々とね……」


 全く答えになっていない言葉を、ユウキ話す。

 レイは彼を自室に招き入れて、ベッドに座った。

 ユウキの方は立ちっぱなし。彼はジッとしているのが嫌いなようだ。


「王女様の部屋っつたから、もうちょっと豪華なのを期待していたぜ」

「期待外れで御免なさい。でも私にはこれだけあれば良いの」


 レイの部屋は精々、ベッドと本棚が置かれているくらいだ。

 王女の寝室としては、どちらかと言えば狭い。

 そもそも王女と言われているが、正確には王位継承権などないのだ。


 王族の血を引いているから、そう呼ばれているだけ。

 その王族の血も今、政治目的に利用されようとしている。

 彼女は婚約を父から言い渡されている。


 断る理由はなかった。彼女はいつも自室にこもっている。

 外に出るときは、祭りの時に顔見世が必須な時だけだ。

 誰とも関わりたくなかった。だから形だけの婚約を拒否する理由はない。


「衛兵との関係は私が何とかする。その代わり条件」

「オーケー。死ね以外なら聞いてあげるよ」

「複数あるけど?」

「ノープロブレム」


 ユウキは親指を突き出しながら、ニヤリと微笑んだ。

 動作の意味が分からず、レイがキョトンとしていると。

 彼は『やべぇ……』と言いながら、手を隠した。


「今のは了解って意味。僕達の世界では、サムズアップって言っているな」

「サムズアップ……?」

「僕は基本的に、任せとけって意味で使うけどね」


 未知の少年は、本当に未知の世界から来たようだった。

 先ほどからレイには意味が分からない言葉を、繰り返している。


「それで? 複数ある条件って言うのは?」

「まず貴方の持つ、不思議な力について教えて欲しい」

「不思議な力? ああ。超能力の事?」


 ユウキは右手を前に突き出した。

 本棚の本が一冊緑色に光り、勝手に浮く。

 ユウキが人差し指をクイッと曲げると、本は彼に寄って来る。


「僕らの世界では一般的だから。あまり特別な力って気がしないなぁ」

「その僕らの世界ってなに? 貴方は特別な部族か何かなの?」

「そこからか。僕はこことは異なる世界。通称異世界から来たんだ」


 さらっと衝撃的な事実を言ってのける、ユウキ。

 レイにもそこまでの驚きはなかった。

 この世界で異世界人が観測されるのは、これが二度目だ。

 自分が生まれるちょっと前に、邪悪な怪物を異世界人が倒してくれたと記録されている。


 当然そのことを知るのは、王族や一部の家臣だけだ。

 異世界の存在が一般的になるには、まだ文明度が足りないとのことだ。


「ちょっと見てて欲しい……」


 レイは目を瞑って、神経を集中させた。

 頭の中で、本棚を完璧にイメージする。

 本棚が倒れる様子を想像し、全身に力を込めた。


 すると本棚は何もない状態で、倒れ始めた。

 ユウキが直ぐに超能力で支えて、元の位置に戻す。


「コイツは驚いた。この世界にも異能力を使える人が居るとはね」

「知っている限り、私だけなの。自分でもなんでこんな力があるのか、分からない」

「まあ確かに。この世界に異能力があるとも、思えないね」


 ユウキは腕を組んで、何かを考え始めた。

 彼らの世界で、レイの力は異能力と呼ばれているようだ。

 それも一般的な力らしい。一体どんな世界なのだろうか?


「私は偶然この力が発現して、友達を傷つけてしまったわ」

「あ~。暗い話は苦手なんだけど……」

「友達は私に言った。化け物って。それ以来二度と会ってくれなくなった」


 ユウキは呆れた表情で、首を傾げた。


「それでこんな小さな部屋に閉じこもるって? 早計過ぎない?」

「無意識で発動してしまうの。私が咄嗟に想像したことが、現実になってしまう」


 レイは胸に手を置きながら、体を震えさせた。

 ずっと得体の知れない力に怯えてきた。

 その答えを知る者が、今現れたというのだ。

 

 正直ユウキが善人だとは、限らないが。

 話している限り悪い人ではないと、レイは直感していた。


「でも本当は私だって、普通の女の子の様に野原を駆けまわりたいよ」

「普通は無理だろ。王女だし」

「貴方、喋れば喋る程ムカつくと良く言われません」


 ユウキは急に黙った。図星なのは誰が見ても明らかだ。


「それに、仮にも王女相手に堂々とため口を使いますわね?」

「だって僕はこの国の人間じゃないし。ネガリアンを潰したら、さっさと元の世界に戻るから」


 一理あると思った。彼は異世界人だ。

 言ってしまえば、王女であるレイにも管理外の人間でもある。

 敬語を使う義務など、どこにも存在しないのだが。


「この力の秘密が分かれば、少しは前に進めると思ったのに……」


 レイは少々ガッカリした。ユウキから得られた情報は、有益ではない。

 力の秘密さえ知れば、消す方法だって見つかるはずだ。

 普通の少女として生まれれば、こんな力に惑わされることもないだろう。


「儚い見た目な割に、強引なお嬢様って感じだね」

「良く言われる。見た目と言動が不一致って」


 病弱で弱そうな見た目に反して、レイはアグレッシブだ。

 寂しそうな表情をしていると言わるが、実際寂しい。

 

「君の悩みを要約すると。その力が普段、発動しないようにしたいでオーケー?」

「ええ。まあそうなるわね……」

「あんまり異世界に干渉するのは良くない事だけど……。まあ、困っている人を見捨てるよりマシだろ」


 ユウキは自信満々に、コイントスを行った。

 空中のコインを素早くキャッチして、レイに腕を向ける。


「君が望むなら、僕が手伝っても良いけど」

「そりゃあ、望むけど……。貴方にそれが出来るの?」

「勿論! 僕も正直君と似たようなものでだったし!」


 ユウキの言葉に、レイは首を傾げた。

 彼の世界で異能力は当たり前の力ではないのだろうに。

 自分と似たようなものとは一体……?


「僕も普通の人とは違うんだ。父が遺伝子操作を受けてね。悪魔の遺伝子って奴を受け継いだんだ」

「はあ? なによ、それ?」

「この話は長くなるから、別件ってことで。とにかく、変えようのない遺伝子に悩まされた事があった」


 ユウキを見ながら、レイは自然と笑いがこぼれた。

 彼が悩んでいる姿なんて、想像できない。


「でもね。悪意を持って造られた力でも。善意で使えば、世界を救えるんだ」

「大きく出たわね……」

「本当さ。僕は実際、悪魔の遺伝子で父と共に世界を救ったからね」


 その話は凄く興味があるが、脱線しそうなので追及しない。

 レイは代わりに、自分の腕を見つめながら力について考える。

 この力で世界を救う事など、本当に出来るのかと。


 そもそもこの世界に、滅びるほどの脅威が来るのだろうか?

 争いは起きるが、殆どが人間同士によるものだ。

 世界規模の厄災など、起きたことがない。


「それに、僕は君の事。ちょっと気になるし」

「あら? もう私の惚れたのかしら?」

「ああ。その力は僕らの世界のものだから。興味津々」


 軽く冗談を返されて、レイは溜息を吐いた。

 だが同時に、自分の持つ力が異世界由来のものだと分かった。

 なぜ自分が異世界の力を持っているのだろうか?


「そう言う事かもな……」


 ユウキは何かに思い当たったのか、指を鳴らした。

 

「なに? 思い当たる事でもあるの?」

「まあ、確信はないから、また後日ね」

「ああそう。なら確信が得るまで、調査が必要よね?」


 レイは悪戯笑みを、ユウキに返した。


「貴方の調査が終わるまで、特別に私の世話係にしてあげるわ」

「へえ。そりゃあこっちも、王宮を出入り出来て便利だけど。僕に世話なんて出来るとでも?」

「嫌でもさせてあげるわよ! 私が教育してあげるから!」


 レイは内心、絶対世話をする方だと感じていた。

 ユウキの無礼な態度に、呆れを繰り返すばかり。


「それから。私の事はお嬢様と呼ぶ様に!」

「王女なのに?」

「王女だけど。憧れていたのよ。執事とかにそう言われるの」


 今度はユウキが、呆れた溜息を吐く番だった。

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