8話 裏切りと潜入
『犯罪者サイド、2人目の脱落者が出た。犯罪者サイド大丈夫か?』
アナウンスが入る。
「クノだ。あいつがやった」
「そうか。俺達も3人捕らえるぞ!」
「あぁ!泥の沼!」
「うぇっ!?足元が」
「不味い、やられた」
結界の中にいた2人を拘束する。
「もうっ!酸の矢!」
空中を飛び回りながら酸の矢を放つ。しかし――
「氷の花弁」
氷の花びらが矢を打ち消し、酸の敵に軽い切り傷を与える。
「クノ!」
「こういう敵には物量で範囲制圧すれば動き回っても意味ないんだよ」
クノが手錠を酸の敵につけながら言う。
「俺たちはそういう魔法使えないからなぁ」
「魔法を同時に発動すればできないことはないが、魔力を消費しすぎてしまうからな」
「ローンは?」
「あいつはサポート役2人を捕まえに行ったよ」
「で、この結界はどうするんだ?」
「うーん…ダメージを与え続ければ割れるだろ。足を埋めたからワープゲートが開いても逃げられないだろうし、多少時間がかかっても…」
「降参だ」
トインさんが結界を解除する。
「え?ちょ、待ってよトイン!」
「どっちにしろ捕まってる。潔く負けを認めよう」
「いや、でも」
「ブイさん、別に来年もあるしいいんじゃない?」
「はぁ、分かったわよ」
2人にも手錠をつける。
これで、俺たちは20点を獲得した。
「…逃げられたかな。転移魔術とチームメイトと連絡できる人だから味方から僕がこっちに来てる情報は得てるだろうし」
僕は魔力探知に集中する。
「…2人纏まって…あれかな」
あまり遠くない位置に誰がが2人で行動しているのを見つける。
行ってみよう。
「やっぱり…あの2人だ」
近づく。すると――
「っ!短距離転移門!」
「逃げられ…短距離しか転移してない。長距離転移は未習得なのか。さっきのはたぶん魔力探知でバレた」
再度近づく。
「ここら辺かな。さっきバレた距離的にこれより先に進むと敵の魔力探知に引っ掛かる。なら!」
手錠を投げる。
「!?短距…」
「ヒット!範囲外から手錠投げればいいんだよ」
「ヤバっ!転移封じられた!」
そのまま近づいてもう1人も捕まえる。
「さらに犯罪者サイド5人確保。2チームが脱落。魔法士サイドも5人確保されて1チーム脱落した。では引き続き励め」
魔法士サイド残り22名8チーム、犯罪者サイド残り20名7チーム。
「もうそろそろいいんじゃない?フェルノさん」
「早くないですか?」
「両方1チーム以上減ったし、ギミックはまだまだあるでしょ?」
「ですが、このギミックは最後の方に残しておこうと…」
「それでみんな脱落してギミックの意味なくなったらどうするの?」
「確かに」
「そもそも、6人中2人はすぐ落ちるでしょ」
「上下関係…ですか」
「そうそう。それに、このタイミングだと面白くなりそうなんだよね。魔法士サイドの2チームが」
その合図は唐突だった。
『魔法士サイド1人脱落だ。ここで潜伏期間を終了する』
「潜伏期間…?」
「炎の闘拳」
「っ!?」
リンノが殴りかかってくるのを泥で止める。
「リンノ!何して…っ!」
リンノのピンバッジが魔法士から犯罪者に変わっていた。
「スパイかよ」
「すまんな。これも試験の一環だ。全力で潰させてもらうぞ!」
「スパイはチームメイトが全員無力化された場合にチームのポイントとは別で20ポイント貰える。ただし、潜伏期間中は潜入している側のサイドへ攻撃等の妨害行為をしてはいけない。そしてアナウンスで潜伏期間の終了が宣言されてからは本来のサイドとして動き、それまでのチームポイントが与えられた上でチームとの得点共有がなくなり、個人でポイントが加算されていく。中々えげつないことするね。フェルノさん」
「これくらいのアクシデントに対応できなければ困る」
「いやぁ、たぶんフェルノさんが監督してる試験が一番キツいよ。難易度とかじゃなく、精神的に。これは魔法士も対応できるかわかんない」
「ちょっと難しいくらいがちょうどいいんじゃないですか?実力を測るためには」
「そうなのかねぇ」
よく考えてみれば、最初からおかしかった。
スタート地点の様子を見る限り、ほとんどのチームが顔見知り同士だった。
なんで顔見知りで組ませた?顔見知りがスパイだと知ったときに動揺が大きいからだとしたら納得がいく。
『魔法士サイドが1人、犯罪者サイドが7人脱落した』
アナウンスが入る。スパイが奇襲して倒したのか?
いや、それにしては脱落者が多すぎる。いくら奇襲でもこんなに上手くいくか?
顔見知りが…スパイ…まさか…