5話 毒霧と共闘
「何か来る!遠隔攻撃か!?」
「いや、多分流れ弾だと思うけど、これかなり強力な魔ほ…」
ドカンっ!
俺たちのいた家に魔法が直撃し、壁が破壊された。
「リンノ、大丈夫か!?」
「ああ。問題ない」
魔法を使ったと思われる魔法士とその魔法士と戦っていたと思われる受験者が近づいてくる。
「こっちに来る」
「そうか、どうする?戦うか?」
「仕方ない、応戦しよう」
俺たちはいつでも戦える準備をする。
「毒霧の巨拳!」
「氷の花弁」
紫がかった煙の拳を大量の氷の花びらで受け止めている。
「クノ!?」
「タリス、手伝って」
魔法を制御しながらクノが言う。
「俺たちが手伝わなくても善戦しているようだが…」
「クノは表情も声色もほとんど変わらないからわかりにくいけど、結構焦ってるよ」
「そうなのか」
「さっきと同じように、埋めて動きを止めるぞ!」
「ああ!炎の六触手!」
リンノが炎の鞭を6本出して拳を絡めとる。
「泥の沼!」
毒霧の魔法士の足を埋める。
「埋められたぁ」
「氷の捕縛蔦」
「冷たっ」
氷の蔦で更に毒霧の魔法士の体を拘束する。
「あぁもう!だから私、試験官やりたくないって言ったのにぃ!」
「何か、愚痴ってる」
「そうだな」
「タリス、行くよ」
何となく、毒霧の魔法士さんが可哀想に見えた。
「特級貴族なんだ」
「クノはこれでも驚いてるよ」
「本当に表情が読めないな」
「慣れればはっきり違いがわかるんだけどな」
「そうか」
そして、二次試験は終了する。
『二次試験終了だ。残っているのは54人だ。それでは二次試験通過者は会場の北側入口に集まれ』
「そうだ、リンノにはこの蝶とか、金魚って見えるの?」
「金魚ではない!ジオ様と呼べ!」
「ん?いや、うっすら見えるような…見えないような…」
「まぁ、こいつはある程度素質があるようだからな。もっと成長すればはっきり見えるようになるだろう」
「その金魚とか蝶ってのは何なんだ?」
「魔導書の化身らしい。自称だけど」
「自称なのか」
「まずは二次試験通過おめでとう。これから三次試験を行う。これで最終試験だ」
「ここまで索敵能力、対応力を試していた。最後はおそらく──」
「三次試験の内容は3人チームでの団体戦だ」
「純粋な戦闘力を試すもの。タリス、お前のあまり得意ではない分野だ」
得意ではないが、予想はしていた。何も対策せずに挑むわけではない。
「では、ルールを説明する。まず二次試験通過者の54名には、魔法士サイドと犯罪者サイドに分かれてもらう。どちらに属しているかはこのピンバッジで判別しろ」
フェルノ試験官がそれぞれ魔法士、犯罪者と書かれたピンバッジを見せる。
「各サイド27名ずつで、その中でさらに9チームに分かれ、チーム内で得点を共有する。他のチームと協力してもいいし、逆にチームメイトと協力せずに単独で動いてもいい。ただ、協力関係にあるとしても他チームと得点の共有はできないし、単独で動いても得点はチームメイトと共有される。魔法士サイドは一般市民の救助と犯罪者サイドの受験者の無力化が目的となる。逆に、犯罪者サイドは一般市民の殺害と魔法士サイドの無力化が目的だ。会場内には人型クリスタルを配置しており、魔法士サイドはそれをこの北側入口に運ぶことで救助と見なされ、2ポイントがチームに入る。犯罪者サイドは人型クリスタルを破壊することで1ポイントだ」
「なるほど。犯罪者サイドは見つけ次第壊すだけでいいのに対し、魔法士サイドはクリスタルを運ぶ必要がある。運んでいる間に敵に見つかってクリスタルを壊される可能性もあるし、犯罪者サイドに比べて時間がかかるからその分獲得ポイント数が高いわけか」
「そして、相手チームの無力化に関しては、この捕縛用魔道具を使ってもらう」
そう言ってフェルノ試験官が取り出したのは、手錠のような魔道具だった。
「この手錠は腕につけると、その相手の魔力を封じることができる。これを相手につけることで5ポイント入る。説明は以上だ。では、チーム分けを発表する――」
「クノとリンノとチームで魔法士サイドか」
「知り合い同士でチームになってよかったな」
「そうだね」
スタート地点は魔法士サイドが北側、犯罪者サイドが南側の入り口だ。
「俺は協力なんて御免だぜ。信用できねぇ奴とつるむ気はねぇ。行くぞ、お前ら」
「「はい!」」
1つのチームが早速ステージ内に行く。
「出遅れちゃう出遅れちゃう!私たちも行きましょう!」
「はい!」
「そうですね」
「俺たちも行こうぜ!」
「おう!」
「そうね」
さらに2チーム出発する。
「俺は1人で動く。誰もついてくんなよ」
「待ってくださいよ。1人なんて」
「うるせぇ!足手まといなんだよ」
「はぁ、仕方ない。あの人は放っておいて2人で行きましょうか」
「そうですね」
仲間割れしているチームもあるな。
「わたくしたちも行きましょう。しっかりサポートしなさいよ?」
「「はい。カイカ様」」
あのチームは貴族とその配下って感じか?
その後も次々と出発していく。
「タリス、私たちも行くよ」
「うーん。俺は、他のチームと協力したいかなぁ」
「でも、他のチームと協力しても得点が協力したチームと共有されるわけじゃないでしょ?得点の配分で言い争いになったりしない?」
「そうだな、公平に得点をわけるのも限度がある。確かに戦闘において数の有利を取れるのはいいが、それよりデメリットの方が大きい気がする」
「クノとリンノの言い分もわかるんだけどさ、もし犯罪者サイドが全チームで協力してた場合、数の有利で1チームずつ潰されていくだけなんだよ。流石に全チームが協力するってことはないと思うけど、戦闘において数で有利を取るためっていうより、不利を取られないために、一緒に行動してた方がいい気がするんだよ」
「有利を取るためではなく、不利にならないため、か」
「よかった。同じ考えの人がいたんですね」
毒霧の魔法士さんいつか再登場させたい