3話 争奪と乱戦
「右の道、地面の中に埋まっているな」
「だな」
池に沈んでいたロデーズを回収すると、柵を飛び越えて道に出る。
「泥の沼!」
地面を泥に変えて、手を突っ込むと、地面に埋まっていたロデーズが出てくる。
「よし、これで何個目だ?」
「91だな。もうそろそろ少なくなってきたぞ」
「近くには…ないな。まだ見つかってないのは300個弱ってところか」
「タリス、気を付けろよ。もうそろそろ始まる」
『残り15分。ロデーズは残り276個だ』
放送が聞こえる。
「は?マジかよ、俺まだ5個しか持ってねぇぞ」
「25個、これって多いのかな」
「やばいやばいやばい!1個でも見つけないと!」
焦りの声が聞こえてくる。
「タリス、ここから北北東258m先、もう始まってる」
「南西方向でもやってるな。300mくらい離れてるか?」
「北522m先」
「南東…結構近いな」
「後ろから来るぞ」
「わかってるよ」
足音が聞こえてくる。
「炎の闘拳」
「泥の柔軟球!」
炎を纏った拳を泥のクッションで防ぐ。
「殺す気かよ…」
「安心しろ。直前で炎は消すつもりだった」
始まった。
「お前の持っているロデーズを渡せ」
「断る」
「なら力ずくで奪うまで!」
ルールには他の受験者からロデーズを奪うことを禁止していない。
妨害行為も禁止しておらず、むしろ受験するときの書類に"他受験者に対する攻撃、その他魔法の使用は死なせない限り問題ない"と書かれているくらいだ。
「掌炎放!」
「泥の柔軟球!」
掌から放たれた炎を泥で防ぐ。
「泥の弾丸!」
泥の柔軟球で視線を遮り、泥の球を相手の顔面にぶつける。
「うっ」
「泥の沼!」
泥の球を目眩ましにして、足元を泥に変える。
相手の足が泥の沼に沈んでいく。
ある程度沈んでから魔法を解除し、地面を固める。
「くっ、動けん。足を埋められた。待て!掌炎放!」
「泥の柔軟球」
泥で炎を防ぐ。
「ジオの特訓のお陰ですぐに反応できるようになったな」
「様をつけろ。いいのか?あいつからロデーズを奪わなくて」
「だって、可哀想だろ?それに奪おうとしても炎で近づけそうにないし」
「お前ならできるだろう。それくらいの実力には育てたぞ」
「いいんだよ。ほら行くぞ。まだロデーズは残ってる」
「氷柱の雨」
「泥の柔軟球!」
降ってくる氷柱を泥で防ぐ。
「凍てつく風」
「泥の柔軟球っ!」
冷風を泥も防ぐ。
「泥の沼!」
「うおっ!?」
「何!?」
辺り一帯を泥に変えて、沈めてから解除し、足を埋める。
「数人関係ない人巻き込んだけど、仕方ないか」
「気にするな。巻き込まれた奴も戦闘中だった。お前を襲っていたかもしれない」
「てか、さっきの炎の人もそうだけど、強くない?それだけ実力があれば自力である程度集められると思うんだけど」
「魔法が得意でも魔力探知が苦手な奴はいる。それに、ある程度だ。それで満足できない奴もいるだろう。そもそも合格基準になる数が明確でない以上、多く持っていて損はないからな」
そして他の受験者からの攻撃を防ぎ、残り3分になったころ。
『ステージ内の全てのロデーズが回収されたぞ。残りは3分、もうわかっているとは思うが争奪戦だ!』
「お、これが最後だったのか」
「いや、会場内を魔力探知すれば残りの数くらいわかるだろう」
「会場内全てって…そんな細かく探知できないよ。ロデーズの魔力は小さいし」
そして3分後…
『試験終了だ。不合格者は転移魔術で会場の外に移動する』
「終わった…98個、流石に合格か?」
「そうだな。合格基準が分からないとは言ったが、34個で合格は確定する。十分すぎるくらいだ」
「確定?何で?」
「受験者数はちょうど1000人だ」
「そうなのか?」
「ああ。数えた。そしてロデーズが10000、合格者は300人。ってことは極端な話、不合格者がロデーズを1つも持っていないと仮定して、ロデーズを均等に割ると、34個所持が100人、33個所持が200人になる計算だ。34個所持が不合格になるためには34個以上が300人いることになる」
「34個以上?35じゃないのか?」
「同率の場合不合格の可能性があるからな。34個が300人だとロデーズは10200個、200足りない。どうあがいても34個以上が300人いて、試験に落ちることはないんだ。ちなみに、33個なら300人で9900個、100個あまるから33個所持の人数が301人を超え、同率で何らかの基準によって落とされる可能性がある。実際、34個以上で合格が確定するのに気づいて、空中に退避している者や隠れている者もいたな」
「なるほど…数学か」
「違う。算数だ」
「結局、同率だとどうなるんだろう」
「何らかの基準で審査され、合格者がちょうど300人になるように調整されるようだな。偶々合格者が
ちょうど300人の可能性もあるがな」
「何らかの基準…?」
算数って難しいね