2話 宝石と捜索
「咄嗟の判断で発動が遅れればそれが命取りになるんだ」
「ジオって魔導書の化身なんだよね?何でそんな歴戦の魔法士みたいな雰囲気出してんの?」
「様をつけろ。そして口ごたえするな。俺様の言ってることに異論あるか?」
確かにジオの言ってることは正しいように聞こえる。
「続けるぞ。魔法の発動を反射的に行えるようになったら次は魔法の精度を上げる。発動にいくら時間がかかってもいいから、じっくり正確に魔法を発動する。そうしたら最後だ。魔法の発動速度と精度を両立させる。精度の訓練でやったのをより速く、そして魔力が尽きるまで行い続ける。発動速度と精度を両立させればじっくり意識して魔法を発動させる必要がなくなる。そうなれば魔法を身体の一部のように扱えるようになるだろう」
「なるほど」
「今、扱える魔法は幾つだ?」
「3つだけだ」
「そうか。ではその3つをさっき言った方法で鍛える。そして訓練の中で新たに魔法を習得するかもしれないが、それは一旦置いておく。3つが終わって余裕があればそれらの訓練も行う。それでいいな?」
「1つ質問。なんで俺にそこまでしてくれるんだ?」
「ん?まぁ暇潰しだな。それに、泥魔術が地属性最弱のハズレ魔術っていう評価も気に食わん。泥魔術はサポートメインの魔術だし、極めればちゃんと攻撃への転用もできる。にも関わらず泥魔術の者は努力をしようともせず、諦める。そんな中で努力し、踠こうとするお前は鍛えがいがありそうだった。それだけの理由だ」
「優しいんだな」
「勘違いするな。面白そうだから付き合ってやるだけだ」
そこから3ヶ月間、ジオの指導の元、俺は魔術の特訓をした。
「ほら、北側1kmくらい先のところ。魔法士いるだろ。何属性だ?」
「いやどこ?1km先ってわかんねぇよ」
「魔力の流れを掴め馬鹿」
「泥の弾丸!」
「遅い!鈍い!もっと速く!はい休むな。まだあと2発は撃てるだろ。俺様は尽きるまでって言ったぞ!」
「無理、もう疲れた」
「何言ってる?休憩時間はちゃんととってるぞ!ほら魔法使え!」
「泥の沼!」
「ほら、粒子一つ一つに意識向けるようなイメージで!ほら固めて!もっと圧縮して固く!泥の量足して!少ない!」
「泥の柔軟球」
「ほら、速く正確に!発動がおっそい!精度意識しすぎ!はいもう一回!」
「泥の柔軟球…」
「精度落ちたよ!速さ意識しすぎ!はいもう一回!」
「泥の…」
「集中!」
「泥の柔軟球」
「ほら遅い遅い!精度も下がった!集中力高めて!」
そして、試験当日がやってきた。
光暦3602年4月1日。魔法兵士団第8試験会場。
「人が多いなぁ。これ魔導書配られたときより多くないか?」
「魔導書と違って、魔法士に年齢制限はないからね」
「クノ、同じ会場だったのか」
「お互い頑張ろうね」
「ああ…ん?蝶…?」
クノの周りを水色の蝶が飛んでいた。
「タリスは見えるんだ、この蝶。家族も友達も見えないらしいんだけど、魔導書貰ってから私の周りを飛ぶようになったの」
「まぁ、素質のある奴にしか見えないだろうな」
「空飛ぶ金魚が…喋った?」
「ジオ様と呼べ。崇め称えよ」
「ジオ、調子乗んな。で、素質のある奴にしか見えないって?」
「様をつけろ。その蝶も俺様と同じだ。魔導書の化身とでも思っておけばいい」
「ってことは、ジオも他の人には見えてないのか」
「様をつけろ」
「この蝶は喋れないのか?」
「喋れるだろう。喋りたくないのか、そういう性格か」
「うわぁ、今年スゴいっすね。2人もいるじゃないすか」
「マジか!どこだ?」
「あそこあそこ。あの白髪の女の子と、その隣の茶髪の男の子ですよ!」
「あの2人か。どっちかはうちの隊にほしいな」
「まぁ、実力がどれだけあるかっすね~」
「ようこそ、魔法兵士団試験へ。司会進行を務める、第2部隊副隊長のフェルノだ。それでは、一次試験の内容を説明する。一次試験は索敵だ」
フェルノさんはポケットから宝石を取り出す。
「これはロデーズという魔晶、魔力を持った宝石だ。これを試験会場の模擬市街に10000個設置した。制限時間内にこれをより多く集めた上位300名が一次試験通過だ。ロデーズは入場の際に渡した袋に入れろ。その袋は魔道具になっていて、見た目より何倍も収納できる。ちなみにこの試験会場には約1000人いるから3割が合格となるぞ。制限時間は1時間だ。では、始め」
一斉に動き出す。
「試験会場は約1k㎡で人数は約1000人。ロデーズは10000あるから1人あたり10個、少なくとも10個以上は取らないと差をつけられないな。入り口は4つあるからここからスタートするのは約250人だな」
魔力探知で探せばすぐに大量に見つかる。
植木鉢の土の中、箪笥の中、ベッドの下、道端に落ちているもの、家の屋上など、色んな場所に落ちている。
「あそこの庭の池の中、沈んでるぞ」
「ジオは黙って」
「様をつけろ。何故だ、手伝ってやっているだろう?」
「いや、自分の実力で合格したいんだよ」
「俺様は魔導書の化身、つまり俺様もお前の実力そのものみたいなものだ」
「なんだその理論」
「それに、俺様の特訓がなければ今のお前はないだろう?既に手を貸しているのだから大して変わらん」
「はぁ、わかったよ」
ハイファンタジーなので、文明レベルは中世ヨーロッパです。