1話 泥と魚
CHAPTER:RED,YELLOW,GREEN,BLUE,INDIGO,PURPLEも同時に投稿する予定だったのですが間に合わず…REDだけは投稿できたのでそちらも読んでた方がいいかも…?というか読んでください。強制するのはよくないので読者さんの判断に任せますが、読んでください。
活動方針や投稿頻度は活動報告に記載しておきます。
エレテール王国では、年の始めに15歳になった子供へ魔導書が配られる。
魔導書は王都にある魔導書物庫で配られ、手にするとその者に見合った魔法が刻まれる。
「ついに俺も魔導書を貰えるのか!」
「タリス、うるさい。静かにして」
「だって、テンション上がるじゃん!」
「はぁ…警備員さん呼ぶよ?」
「すいませんでした。騒ぎません」
「よろしい」
俺は、幼馴染みのクノと魔導書物庫に来ていた。
「それにしても、人多いなぁ。午前と午後に分かれてるはずなのに」
「王国中の、去年15歳になった人たちが集まってるからね」
ちなみに、2人は午前だ。
「あー、これから魔導書の贈呈式を始める。私がここの管理者じゃ」
老人が出てきた。
「まぁ、堅苦しいのは嫌いなので、適当に1冊とったら帰っていいぞー」
随分適当な爺さんだ。
「ただし、2冊取ったものは…ま、どうなるかは想像次第じゃ」
「「「「「…」」」」」
物凄い圧だ。俺は冷や汗をかく。周りの人たちも同じような反応だ。
だが、1人だけ違った。
「はぁ?俺様は上級貴族だ。知ってるぜ。ジジイ、庶民だったんだろ?なんでお前の命令に従わなきゃいけねぇんだ。2冊取ったって問題ねぇ。俺様は特別なんだ」
馬鹿なやつもいるものだな、と思う。
魔導書を保管するこの国に1つしかない場所の管理者だ。
いくら庶民出身とはいえ、特別な権限が与えられているはずだし、相当な手練れ。下手すれば即刻処刑されてもおかしくない。
「ったく、5年に1度くらいはこういうやつがいるから困る。上級貴族ならもう少しちゃんと教育してほしいものだ…」
「あ゛?」
上級貴族の少年が2冊目を手に取った瞬間、意識を失って倒れた。
「えっ…」
「ひゃっ」
「死ん…だ…?」
「おいおい嘘だろ…」
顔を真っ青にして怯えている人や軽いパニックになっている人もいる。
「大丈夫じゃ、死んじゃいない。まぁ殺してもいいが、こんなのでも未来ある若者じゃからのう」
管理者の老人は何食わぬ顔で言った。
殺してもいいということは、身分関係なく処刑できる権限があるということだろう。
「おーい、医務室まで連れてってくれ」
老人は警備員を呼ぶ。警備員は特に怯えたり気分を悪くする様子はなく、恐らく慣れているのだろう。
「んじゃ、まぁさっき言った通り勝手に取って勝手に帰ってくれ」
会場は静まり返っている。
俺は近くにあった魔導書を手に取る。
すると、真っ白だった魔導書の表紙は茶色くなり、文字が刻まれる。
「古代文字だな。ええっと…泥魔術…え?」
いや、見間違いかもしれない。
「泥…?泥…だよな。いや、泥?本当に…泥?」
泥魔術。地属性の魔術の中でも最弱と言われるものだ。
「タリス、どうだった?私は氷華魔術」
「泥…」
「…泥?」
「うん。泥」
「そっか…」
ちなみに、クノの氷華魔術は氷属性と草属性の複合魔術だ。
「まぁ…きっと何とかなるよ」
俺は家に帰る。父は魔法兵士団の団員で、俺が生まれてすぐ他界、母も病気で3年前に亡くなり、今は独り暮らしだ。
「泥魔術かぁ…」
俺は、3ヶ月後の魔法兵士団の入団試験を受ける。だが泥魔術で入団できるかと言われれば、正直かなり可能性は低い。
「泥魔術の魔法士って歴史上3人しかいなかったよな…」
800年の歴史がある魔法兵士団で3人だ。
「まぁ、可能性は0じゃないってことだよなぁ」
ほとんどあり得ない。でもそれは絶対に無理ってことじゃない。
「試験までの3ヶ月をどう過ごすか、だ」
俺は魔法士になると、再度決意した。
次の日、俺はとりあえず家の庭で使える魔法を試してみた。
「攻撃の魔法もあるけど威力は低そうだな。サポート向きの魔術って感じかな?」
「まぁ、泥魔術は補助メインだからな。十分に威力が出る魔法は今は使えないだろう」
「へー…え?誰?」
独り暮らしだから誰もいないはずなんだけど。
横を見ると、金魚が空を泳いでいた。
「茶色い金魚が浮いてる!?」
「誰が茶色い金魚だ」
「茶色い金魚が喋ってる!?」
「だから、誰が茶色い金魚だ」
「いや、茶色い金魚だろ」
「ジオ様と呼べ」
「なんで?」
「敬え」
「は?」
なんだこの生意気な金魚。
「魔法…か?」
「ん?あぁ、あれだ。魔導書の化身みたいなやつだ。そう思っておけ」
「魔導書の化身?」
まぁ、考えても答えはわからない。ひとまずそういうことにしておこう。
「魔法士になるんだろ?なら魔術の特訓だ。泥魔術で魔法士はかなりの邪道だぞ。俺様が特別に指導してやる」
「で?具体的に何するんだ?」
「まず基礎だ。魔力の流れを正確に把握し、自分の魔力を制御・抑制する」
「魔力探知と魔力の隠蔽か」
「より正確に、細かく魔力の流れを把握するんだ。そしてそれができたら魔法をひたすら使い続ける。魔力が尽きるまでな」
「魔力が尽きるまで…」
「そして回復したらまた尽きるまで発動し続ける。魔法発動の感覚を体に叩き込む。そうすることでより速く魔法を発動できるようになるし、反射的に魔法を使えるようになる。命にかかわるような戦闘では魔法を脳じゃなく脊髄で使えるやつが勝つ。咄嗟の判断で発動が遅れればそれが命取りになるんだ」
ジオさんはスパルタ。一応タリスのためにっていうのもあるんですけど、単純に面白そうという私情も入っているので優しいかと言われたら微妙だし「敬え」も冗談じゃなく本気で思ってる。本人からすれば優しさっていうより慈悲って感じですね。まぁ悪い奴ではないです