1 迫る2つの影
「いますぐここを出ていけ!さもないと…」
と、言う父の声で寝起きの余韻で浮かれていた私は、はっと我に返る。
寒い冬の日だった。
あー、こんなこと前にもあったなぁ、などと私は、かなり楽観視していたようだ。
いつものように、いや、いつも以上に軽くあしらう。
「でも、お父様はやさしいから、追い出せないし、追い出さないよね?」と
ありあは、いつもどうせ追い出されないとわかっていた。そんな彼女の言葉に大層苛ついたのか、父は含みある口調で怒りの混じった笑顔を見せてあるものを取り出した。
「あぁ、追い出さないよ。これをやろう。今すぐつけるがよい。お前への贈り物だ。これをつければ、お前も普通の人間とおなじようになれる。」
―これは、力封じの首輪ネックレス。きっとなにかの策略に決まっている。
でも、もし、父の言ったことが本当なら、昔のように、父と母に愛されながら生きていける。
そんな過去にすがるような願望がありあの中を駆け巡る。
悩むありあに、父は一枚の紙を見せつける。
「これにサインすれば、お前も納得できるだろう?」
彼が見せたものは契約書だった。
書面に書けば、きっと本当になる、浅はかな考えだった。
でも、彼女は心の何処かで親に愛されたい、そう願っていた。
だから、契約書にサインをしてしまった。
力封じの首輪もしてしまった。
彼女には愛が足りなかった。居場所が欲しかった。
すべての力を失ってまで、手に入れたかったんだろう。
「おいで。」
甘くささやく父の声を信用した。
父は私を抱きしめた。
___はずだった。
「これが、私からの愛だよ。」
気づかなかった、思い出せなかった。父は本当は薄情で、卑怯な人間だったことに。
愛する、ということは人によって違うことに。
「お父、様?」
父はキラリと背後から綺麗なまでに赤く染まった刃物を見せつけてきた。
「今まで構ってやらなかった分も、しっかりと構ってやろう。」
そして、思いっきりありあの腹部をめがけて、刃を打ち込む。
当然のことのようにありあは避ける。これくらい身体能力のあるありあにとっては序の口であった。力があれば。ありあは体力を一気に吸われる。逃げよう、と思った。
その瞬間、父の追い出さないという言葉は、追い出さないが、ここでありあのことを消す、または、ありあに勝手に逃げさせる、そういうことを暗示していたのではないかと。
_そう感じた瞬間、ありあは策略なんかには乗らない、と考え力封じの首輪を思いっきり外す。
その後、顔から色の消えてしまった父から刃物を奪う。そして、父の頭上までそれを持ってくる。
「ありあ、私のことを殺すのか?違うだろう、きっとまだ、きっとこれから分かりあえるはずだ。」
父が最後に叫ぶように言った。動揺するありあの一瞬を父は見逃さなかった。
「っ、お父様、ごめんなさい、こんな娘で。」
自分の手では父を殺めることはできなかった。まだ、約束を破られたのに、希望を持ってしまったから。
ありあは逃げた。必死に、父との距離を置きたかった。
期待してしまった自分が馬鹿だった、と惨めに思う。
あんな簡単に信じてしまった自分が憎らしい。
父の策略に結果的に乗ってしまった自分がよくわからない。
結局父を殺すことができなかった自分が訝しい。
___ありあは誰かに聞いてほしかった。誰かに必要とされたかった。
だから、走った。自分を受け入れてくれる友人の元へ行こうと思った。
その日の夜、私はずっと走り続けた、たった一人の信頼できる友人の元へ。
寒い雪の降る夜中、ありあの意識はこの世界への絶望感、怒りとともに落ちていった。
ありあは猛烈な暑さによって、意識を取り戻した。
ーーにしても、暑い。こんな冬場なのに。
と思いながらありあは考えた。
考えること数十秒。
「「みんな!逃げるんだ!火事だ!!!」」
そう、友人の家の周辺は火事が起きていた。
ありあにはもしかしたら、友人や他の誰かが残っていて、その人達を助けよう、という思いがあったため、すぐにマンションの中に飛び込もうとしていた。
「っ!おい!やめるんだ!」
ありあのことを止める声もあったが、多くの人はあんな子なんて、どうでもいい。といったように自分だけ逃げていく。
ーー無理。困っている人を放って置くなんて。
きっと、こういうときのために、私の力・はあるんだから。
他の人を幸せにするためにあるはずだから。こういうときこそ、使わないと。
何が何でも救ってみせる。
友人のために、人のためにっ!
__彼女の能力は主に2つある。
ただ、彼女はその能力を全くと言ってもいいほどよく思っていなかった。
実際、それが原因で親から裏切られたり、周りから白い目で見られたので。
ありあの能力の一つは計算能力。どんな計算でも素早くできる。
これは、相手の行動を計算によって導き出し、予測することができたりする。
もう一つは、戦闘能力。もともとの基礎能力はかなりあり、敵や人の動きを封じたり、攻撃をしたりと、戦闘技術が豊富である。
__ありあが救う、と考えた直後、彼女の体は見たこともないような、大きな光りに包まれる。
ーーなに、これ、今まで能力を使ったときはこんなことなかったのに…
「っ!でも、体が、凄く軽い。それに火の中にいるはずなのに、全然熱く感じない。どうして、、でも、とにかく、助けにいかないと!」
さらに、覚醒という能力が彼女にはある。これは体力を著しく使ってしまう代わりに特異な身体能力を一時的に手に入れることができる、というものだ。そして彼女は今まさにそれを使っている。
ありあは炎の中をまっすぐと突き進んでいく。
「だれか、たす、け、て、だれか!、だれ、か」
ーー!?風里!?
ありあは会いたかった友人の声を聞き、駆けつけた。
「風里っ!風里!!!!」
ありあは必死に名前を呼ぶ。すると、友人は苦し紛れに返事をする。
「あり、あ、、たすけに、きて、くれた、の、?」
「風里!今すぐここを出よう!他に残された人はいない?」
「あっち、に、」
そこには必死で子を守る親と、泣き崩れる子の姿があった。
ーー何も罪のない人がこんなにつらい思いをするなんて。どうしよう、一回風里を外に出してからじゃこの火の広まるスピードからして、間に合わない。
ここは、もう、一気に行くしか無いかな。
「わかった。その人達も助けて、今すぐ出よう。」
ありあは覚悟をしたような顔つきで風里を抱え、助けに行く。
「もう大丈夫です!今すぐここを出ましょう!!」
「あなたは…?…きっと、神様が助けを呼んでくださったのね。お願いします。」
「ままぁ、助かるってこと?」
「ええ。大丈夫だから、安心して。」
「任せてください!!」
ありあは三人を抱えてすぐさま外に出る。
ーー今日は思った以上に体が軽かったな。なんで、なんだろう。
まぁ、無事助けられたし、よかった、かな?
__しかし、ありあたちが安心できたのも束の間であった。__
「「あそこにまだ人がいるぞ!!」」
「あいつは、力を持った人間だ。きっと力を使ってこの事件を起こしたんだ。一度捕らえて話を聞こう。」
検察官は彼女を捕らえ、個室に閉じ込めた。
そこで、彼女は考えた。
ーー?一体、どういうこと?
私は、何もしてないのに、力を持っているだけで、どうしてこんな目に合わないといけないの?
やっぱり、普通ではない人わたしは幸せにはなれないのでしょうか。