2.部長のナン生地は最高。
「カフェって、どこの?」
急に身体を密着させんばかりに部長が身体を寄せてきた。
ち、近い近い!
何ですの!?
ナン生地みたいな柔らかいのが、俺の腕に当たってますよ?
「最近見つけたんですけど、割りと会社の近所ですよ。"ディメブル"のコンセプトカフェ出来てるんです」
「ああ、あの店か。"天宮カフェ"だろ。私も知ってるよ」
「流石、知ってましたか」
ちな、"ディメブル"というのは俺と部長の2人で作ったソシャゲ作品だ。
コンセプトから開発、営業まで全部2人だけでやったから、俺と部長にとっては思い入れの深い、我が子同然の作品なんである。
そのディメブルに出てくる"天宮カフェ"と全く同名で、内装や店員の制服、営業スタイルまで完全に模倣したカフェをアキバで見つけたのだ。
本来なら無許可で訴える措置をすべきかもしれないが、生みの親の1人だから分かってしまった。
愛だ。
あの店には、ディメブルへの愛しかないということが。
「部長も知っていたということは、我が社的には黙認の方向でおkということでしょうか?」
「そも、飲食店の店名までは商標権押さえてなかったからね……私個人の意見としては、公式へのリスペクトもしっかり感じ取れる、好感の持てるお店だと見てるよ。会社的にはグレー判定かな」
「ですよね! 俺もそう思います。特にお店の制服へのこだわりたるや、って感じっすよねー」
俺は、その店でいいなと思ってる子の特徴や、交わした会話の内容、どんなところを気に入ってるのかを部長に話さざるを得なかった。
そうしないと部長が許してくれなさげなので。
――すると、部長がとんでもないことを言い始めた。
「青山君の話を総合すると、私の見立てでは脈アリと思う」
「え、はぁあ?」
そんな馬鹿な。
「店外デートに誘ってみたら」だの、「あわよくば告っちゃえ」だの言い出す始末。
まさか、本当に脈あるの……?
「で、今度はいつお店に行くんだい?」
「えっ。ついて来るつもりです? 絶対にイヤですよ」
「えーっ、ケチ!」
こんな感じで、やっと解放してもらえたのだった。
まあ、部長の良いニオイとビジュで眼福出来たから全然いいんですけどね。
作業が遅れてなかったら、更にいいんですけどねーー!?><
「……青山君にはまだ気づかれてなかったか……そうかそうか私のコトを……クフフ……モゴ……」
「部長さっきから、何か言ってます?」
「い、いや! すまん」
部長の独り言が気になって、つい言ってしまった。
さっきまでは気にならなかったけど、今日の部長どこかフワフワ浮ついてるな。
らしくない。
何か目出度いことでもあったのだろうか。
どうやら部長は自身の持ち分は作業終えてるようだ。
部長は俺が残業する時は一緒に残り、自分の時には俺を先に帰す俠気もあって、そういうところも神上司なんだよな。
男の俺としては、こんな美女上司を遅い時間に帰宅させるのは危機感を感じてしまうので、いつもマッハで仕事を終わらせることにしている。
それでも定時はめったにないんだけどねー。TT
さて、明日の土曜日。
部長に乗せられて告白したりデートしたりなんてしないつもりだが。
なのだけど。
部長の「脈アリ」判定が脳裏にチラついてしまうのも事実。
う、うん。
いつもの自然体を心がけるしかないな。
い、いかん。
集中しないと午前様コースだぞ。
部長が夜遅くの帰り道で、変質者に襲われる光景を思い浮かべ、必死に危機感を煽る。
よし集中に入れた!
今日はきっと21時帰り(定時18時)だぞー。