1.部長の淹れたコーヒーは至高。
カチャカチャ
カチャカチャ
カチャッ
キーボードを叩く音だけがオフィスに響く。
俺はゲームプログラム。
ゲームプログラムは俺。
……
「――――山君、青山君、あーおーやーまーくん」
「あっ、はい」
上司に呼ばれてた。
モニター百%、集中百%の世界が遠ざかっていく。
急速に周囲の音が戻ってくる。
集中力が去っていく……
「そろそろ休憩にしないかな」
「あ、はい」
「いつものコーヒーでいい?」
「モチロンっす」
「特別だよ?」
「ありがたき」
上司――豆木部長について給湯室に向かう。
コーヒーを淹れるのが趣味で、いつも部下の俺の分まで入れてくれる。
「2人分が丁度美味しく出来るからね」
「いつもありがとうございます!」
部長の手際にはいつも惚れ惚れさせられる。
水を電気ケトルで沸かし、
マグにドリッパーとコーヒーフィルターをセット。
冷凍庫からコーヒー豆取り出し、
計量器で2人分の豆を計り、
ハンドミルで粉にする。
俺の鼻先にミルの下皿が差し出される。
中には粉状になったコーヒー豆。
引きたてホヤホヤだ。
「どう?」
「今日も最高っす」
この様に部長は必ず挽きたての豆の香りを嗅がせてくれる。
その時、彼女は気づいていないようだが、かなり近づいてくるから……
俺より頭1つ小さくも、俺の眼下には見事に実った果実が……
控えめに言っても視界が最高なんである。
そして視覚だけでなく、嗅覚はスペシャリティコーヒーのフルーティーな香りと、加えて部長自身の香りまで味わえてしまうのだ。
お湯が沸く。
ケトルから「の」の字でお湯をドリッパーに注ぎ始める。
ここまで約2分弱。
コーヒーを淹れる部長の後ろ姿をさり気なく見つめる。
視姦?
いや、しないほうが失礼というものだ。
何度もしてますよ、もちろん。
「はい、どうぞ」
「いつもありがとうございます!」
「特別だよ?」
「光栄です!」
なんて良い職場!
俺は心の中で叫び声を上げた。
いつものことである。
コーヒーの味、最高。
俺がコーヒーの苦みと酸味が苦手なのを知ってるから、香りを失わない程度にお湯を足してアメリカンにしてくれる豆木部長、神。
そして、神の美しいビジュアルを眺めながら、神のアニメ声優のような可憐ヴォイスを聞きながら、淹れたてのコーヒーに神の味と香りを感じながら、飲む。
至高。
足りないのは、後はもう、触覚と痛覚だけだな(変態発言)
ん? 五感を超えたな?
まあ良いか!
仕事は超過酷でも、1日1回訪れるこの珈琲タイムがあれば、俺は生きていける。
「――の方はどうだい?」
そんな勿体のないことを考えながらおしゃべりしていたのだが、部長が何か話題を振ってきたのに聞き逃してしまった。
「すませんコーヒートリップしてました。ドリップだけに。もう一度始めっからおなしゃす!」
「君は……もう。……なんでこんな恥ずかしい事2回も言わせるのかな……モゴモゴ」
「良く聞こえないっす!」
「あー、えと。最近、連日残業続きだったから、仕事の息抜きはできてるかなと思って。例えば、その……最近は恋愛の方はどうだい?」
「! あー、恋愛っすか。さっぱりですねー」
恋バナ。
でしたか。
まあ、部長と俺の2人だけの部だから、恋バナの相手に不足してるのは分かる。
女性の息抜きはおしゃべりとネット記事で見かけたからな。
ここは相手をせねばなるまい。
「部長はどうっすか」
「私もまったくだな」
ふたりでハハッと苦笑いし合う。
「気になる人くらいはいるのかな?」
「気になる人ですかー」
それならいるな。
2人。
ひとりは部長。
高嶺の花ですね。
となるともう一人に絞られるけど、こっちは額縁に飾られてる花。
手が出せないという意味では一緒だ。
「おっ、その顔はいるんだね。誰だい?」
おっと、表情の変化を読み取られてしまったぞ。
部長がこうなったら、絶対逃げられないからな。
ここは額縁の花の方でお茶を濁すしかない。
「まー、1人いますよ」
「おおー!」パチパチ
拍手して、期待の眼差しで見つめられる。
可愛い。
「それで?」
「あ、はい。カフェの店員さんです」
「カフェの?」
締め切り迫ってるので、第1話見切り発車で投稿します(汗)
割りと短めの予定っ(未定っ)