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Aランク冒険者と不毛なやり取り

『お前、事件について何か知ってるな?答えろ?』

鎌之介たちは、冒険者キアラに疑いを向けられた。


「どうします?バッグスさん?完全に犯人扱いですよ。僕ら。」

「知らねぇものは、知らねぇからそれでいいんじゃないか。」

バッグスは適当に答える。



『知らないよ。初めて聞いた。』

『白状するなら、今のうちだぞ。』

キアラは、バトルアックスで脅す。

『無い袖は振れない。俺は情報を持っていない。』

脅しは全然怖くない。遠隔操作の利点が出たようだ。利文は脅しに動じず答えた。

 

キアラは脅しが効かないと判断したのか、バトルアックスを収めた。

『依頼の内容を精査してもらう。少しでも不審な点が確認できたら、お前を拘束する。』



「利文。私か、鎌之介に操作を交代しろ。お前では、ボロが出そうだ。」

「舐めるな。的確な指示があれば、ボロなど出さん。前回、鎌之介が頑張ったんだ。今回は俺がやる。」

バッグスは、利文の気持ちを汲み、操作を任せた。



閃盤岩(せんばんがん)の使い道。詳しく聞こうか。アクセサリーだったか?何だそれは?具体的に教えろ。』


『閃盤岩は、光を当てれば、妖しく青黒く輝く。装飾品に使いたいと思っただけさ。』


『閃盤岩は、製錬し、鉄に添加することで強力な合金となることは知っているが、そのような使い方は聞いたことないな。』


『試したいんだ。閃盤岩の新たな可能性を探るために。』


『特定の量が必要と言ったな?』


『そうだ。具体的に言うと、60.28ガラク(※)』※この世界の重さの単位


『随分と具体的だな。』


『具体的に言えとお前が言っただろ。それ以上でもそれ以下でもだめだ。60.28ガラクだ』


『なぜその量にこだわるんだ?適当な量を採掘して、そこから切り出せばいいのでは?』


『俺にそんな技術はない。』


『じゃあ、アクセサリーも作れないだろ。』


『俺が作るとは言ってない。』


『技術者に、切り出しまで頼めばいいだろ。』



なるほどなー。

鎌之介はそう思った。確かに重さにこだわる必要は無い。


「尋問のはずが、僕らの作戦のただのダメ出しになってますね。バッグスさん。」

「そうだな。そして、全くもって、キアラの言う通りだな。」

バッグスも感心している。


「どう答えるんだよ。その通りですね!って今更言えないぞ!」

「適当に答えるしかないだろ。相手の気が済むまで。」



『閃盤岩は、シマル山の神事をする洞窟に埋まってるよな。大量に採ったら、時間もかかるし迷惑がかかる。』

『特定の量を吟味してる方が、時間かかるだろ。』

『60.28ガラク!それが迷惑のかけない、最適な数値なんだよ!』

『なんの根拠があって、その数値なんだ。』



「バッグスさん、この人何がしたいんですか?僕らを事件の犯人なのか、尋問するつもりじゃないんですか?」

鎌之介には、キアラの言動が理解できたかった。

「冒険者のご法度の一つは、依頼者の素性を聞くこと。もし、依頼者に嵌められて、犯罪に加担した時に知らなかったと言い訳が立つようにするんだ。」


「ああ、だから直接的に聞いてこないんですね。」


「キアラは、私たちの依頼の矛盾をつくことで、私たちが発言でボロを出すのを狙っているんだ。だが、そもそも私たちは、事件に関係ない。」


「だから、全く意味のないやり取りが繰り返されるだけなんですね。」


「くそ、面倒くせえ。」

利文は段々と苛ついてきた。



『お前こそ、何の根拠で俺の採掘計画より時間がかからないと言えるんだよ。』

『私は冒険者だ。鉱石の採掘は、かなりやってきた。経験上いえる。』

『じゃあ、俺も経験上で考えついた数値だ。』

『切り出す技術もないのに?』


『んだよ!こいつ、面倒臭ぇな。見当違いも甚だしいんだよ。経験上〜とか言うくせに、無意味な尋問を続けやがって!その経験値もたかがしれてるぜ。…あ、やべ。』



 利文は、苛つきのあまりマイクのスイッチを切らずに悪態をついた。だか、時すでに遅し、しっかりと相手に伝わった。


「あーあ、ボロが出たね。利文。」

「君は、本当に期待を裏切らないな。」

鎌之介とバッグスはあきれた。


モニターでは、キアラが人形の胸ぐらを掴み持ち上げている。

『お前、私をバカにしているのか?』

当然ブチギレていた。


「どうする?利文。もう弁明できないよ。」

鎌之介は冷汗をかいた。


「知らん!もういい、こいつは捨てよう。やり直そう。人形を戻して、話のわかるやつに頼もう。」

利文もブチギレた。


「君さ。開き直るなよ。私が、せっかく冒険者の仕組みを説明したのに。」

バッグスは利文をなだめるようにいった。


「仕方ないだろ!疑われた時点で、アウトだったんだよ。ここからの打開の手段はない。」


「わかったよ。もとより一発で成功できると思ってなかったらな。」


「よし、やり直しで決まりだな。最後に文句言って、あいつとはさらばだ!」



モニターには、鬼の形相のキアラがいる。

『貴様!何とか言ったらどうだ!』


『ああ、言わせてもらうぜ!お前はとんだ勘違い野郎だ。俺は、今回の事件にまーーたく関係ねぇ。それが、わからないお前はダメ!浅はか!捜査係としての嗅覚が完全に終わってる。向いてない。』


キアラは、人形を思いきりソファに叩きつけた。ソファは半壊した…。


『仲間が死んでいる!貴様に何がわかる!』


『焦ってんのか?こういう時こそ!冷静でいろよ。』


『そうさ!緊急時に、冷静ではいられない!私は、確かに向いていない!でも、動くしかないんだよ!』

キアラは、天井を見上げた。

その様子は、何とも寂し気であった。



「利文、お前さ、最低だよ。言い過ぎ。無茶苦茶に傷ついてるじゃん。チクチク言葉はだめだよ。謝れよ。」 

鎌之介は利文を責める。


「すまない…。た、確かに言い過ぎたな。でも、傷つきすぎじゃないか?かなり落ち込んでるぞ。」

利文は、怒りは無くなるも動揺してる。


「Aランク冒険者とはいえ、メンタルは鍛えられないはずだよ。」

 

鎌之介は、利文から操作を奪った。


「僕がフォローしてやるよ、見とけ。」



『申し訳ない。言い過ぎた。仲間のために、頑張るやつを罵るつもりはなかったんだ。』


『…。』

キアラは黙っている。


『本当に悪かった。俺もさ。冷静じゃなかったよ。自分が疑われて焦ったんだ。同じさ、君と。緊急時に向いてるも、向いてもない。』


『…。』

キアラはまだ黙っている。


『言ってしまった言葉は、戻らないけれど撤回させてくれ。君は…、仲間想いのすごいやつだ。浅はかじゃない。最善を尽くしただけだ。』


『私は、そんなんじゃない…。』

キアラは喋りだした。


『功を焦ったんだ。ギルドから責め付かれてね。仲間のためじゃない、自分のためだ。お前が、あまり情報を持っていないことも感づいていた。だが、引き下がるわけにはいかなかった。犯人を探すポーズだけでも、取る必要があったんだ。お前には、見抜かれたみたいだな。』


 

 鎌之介は、当然そんなことは考えてなかった。想像以上に、利文の適当な罵倒が刺さっていたことに驚いた。そして、何より、多少の優しい言葉であっさり落ちたことにも驚いた。

 なお、好意的な解釈をしてくれたので乗っかることにした。



『ふん、わかってたか。君も。』

 こちらも、全て見透していた感を出すボーズを取った。

 


 二人は仲直りの握手をした。


『それじゃ、犯人候補から外れたってことで。またな。また、どっかで会おう。』

 人形は背を向けた。


『待て、お前の依頼を私は受けた。去られては困る。』


『え?受ける気あったの?まあ、じゃあ、シマル山の麓の街に現地集合で。またな。』


『だから、待て。お前の疑いは完全に晴れていないぞ。それに、今からの出立だと、街につく頃は夕方だ。監視の名目もあるが、護衛しますよ。依頼者殿…。』



「えー。まあ、結果オーライってことで。」

鎌之介は、ゆっくり二人の方を見ると、

二人は、苦虫を噛み潰したような顔で拍手していた。


キアラとの二人度旅(実質、四人旅)が始まった。







 キアラは無茶苦茶に強かった。

 危険な道中、襲いにくる魔物をほぼ瞬殺。華奢な体で、巨大なバトルアックスを片手で振り回す。

 鎌之介たちは、何もすることなく、ただ、ぼーっとついていった。


「いやー、楽ですね。冒険者が、仕事として成り立つのも理解できますね。」

 鎌之介は談笑を始めていた。


「あいつがついてこなかったら、もっと楽に行けたんだけどな。」

バッグスは皮肉を言う。


「そういえば、シマル山の麓の街ついて教えて。」

 利文が質問した。


「ベイラー領の代表的な街。カゲン。街の歴史は古く、昔から祭事の際には多くの観光客が国内から訪れると聞く。」


「もしかして、その祭事って今回の神事と関係あります?」


「祭事の際に、ひっそり行われると聞く。」


「祭事と神事が密接な関わりがあるのは、異世界でも同じか。」

 利文がそう言うと、モニターから声がした。



『おい、何か言ったらどうだ。終始無言で気まずい。』

キアラが気まずそうに言う。



「完全に忘れてた。そういえば、何も喋ってないや。」

利文は思い出した。


「この人、空気感とか気にするんですね。」

鎌之介は、キアラの意外な一面を感じ取った。


「どうしよか?何を話す?」

利文は悩んだ。特に話したいことはない。


「せっかくたからさ、エスアル王国のこと聞こうよ。異世界召喚についてとか。」


利文は鎌之介の提案に乗った。



『すまん、特に話したいことがなかった。』

『だからって、沈黙はやめてくれ。死んだかと思うだろ。』 

『わかったよ。そうだなー。異世界召喚とか、知ってるか。』

『ああ、最近、王室が異世界から勇者の召喚に成功したって声明を出していたな。』



「?成功?俺たちここにいるけど。」

「国としては、失敗なんて言えないだろ。」

「ああ、そうか。」

バッグスは二人の会話を黙って聞いている。



『何でも、異世界人は強力なスキルを持っているらしいな。』

『ふん、スキルの強さなど。真の強さの指標にすらならない。結局は使い手さ。』







再び長い沈黙が続く。



『だから、黙るのはやめてくれ。』

『話したいことないんだよ。じゃあ…、しりとりでも、するか。りんご!』

『え!あっ、えー、ごま!』

『薪。』

『き、気管。あっ!』

『お前…、まあ、いいや、“き“から仕切り直し。騎士。』

『紙面。あっ!』

『…。“し“からな。島。』

『的。』

『都市。』

『士官。あー!』

『お前!わざとかよ!そんなにしりとりが嫌いか?』

『違うんだ!私はゲームが苦手で!』



「やっぱり、面倒だぞ、こいつ!」

利文は、またキレた。

「いやー、可愛いとこあるじゃん。好きだよ。キャップ。」

鎌之介は必死にフォローする。

「くそ、無理矢理にでも話題作るしかねぇ。」



 その後、キアラと利文たちは不毛な会話を続けた。天気の話とか、交通手段とか。天気の話とか…。




 そして、街についた。




エスアル王国ベイラー領 カゲン

通称 “厄神が降臨した街“


『ようやっと着いた。』

利文は、気を使いすぎて疲れていた。


『妙だな。祭りの準備をしてる様子がない。』

キアラは、周りを見渡し不審な顔を浮べた。


とりあえず、街人Aに事情を聞く。

『祭りか、中止になったよ。最近色々あるからね…。』



利文は、コントローラーを落として叫んだ。

「は?祭りは無し!神事も無いってこと?詰んだんだが。」





〈この世界の真実〉

冒険者のランクは、S、A、B、C、Dの順番で強さを区分する。

Sランクは、次元が異なる強さを持つものに与えられる称号。

ゆえに、Sランク冒険者に戦いを挑んではいけない。絶対に。





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