全裸で操作
·丸ボタン→必殺技
·右スティック→移動
·左スティック→カメラ操作
·右トリガーボタン→操作譲渡
·左トリガーボタン→視点変更
·十字キー→現在割り当てなし
バッグスがホワイトボードに操作方法を書き出した。
「何か質問は?」
「基本操作は3 Dアクション ゲームと一緒ですね。」
涼之介が頷きながら答える。
「視点変更ってのは、一人称視点か三人称視点にするかってことで合っているか?」
利文が質問した。
「その理解で間違いはない。」
現在、背後の視点から写した人形の姿がモニターに映っている。これが三人称視点だ。一人称視点は人形の目から見た映像になる。
「必殺技ってのは何だ?」
続けて利文が質問した。
「とりあえず“1“と書かれた丸ボタンを押してみろ。」
涼之介は、バッグスに言われた通りボタンを押した。すると、人形はどこからともなくドスを取り出し、目にも留まらぬ速さで辺り一面を切り裂きまくった。岩が裂け、大木が真っ二つになり、まるで嵐が過ぎ去ったような風景になった。
「うわぁ、人形を外に出しててよかった。室内だったらとんでもないことになってたよ、これ。」
涼之介は目を細めて言った。
「六つのボタンそれぞれに強力な技が出せるようになっている。他に好きなボタンを押してみろ。」
涼之介は、2のボタンを押した。
すると今度は、人形がその場でのように高速で回転し始めた。右スティックを動かすと、回転したまま動き出し、近づいたものを弾き飛ばした。
「どうだ?歩いてる時にスティックを動かした時と手応えが違うだろう?こだわりなんだ。手応えに違いを持たせた方がいいと異世界人から聞いたんだ。」
バッグスは得意気に言う。
「その異世界人はゲーム製作者なのか?まぁ、どうでもいいか。にしても、人の動きじゃねぇなこの人形。こんなんで買い物とかできんのかよ。」
「そのための、これだ。これを着ろ。増上利文。」
利文の疑問を聞いたバッグスが、フルハーネスのようなベルト状のなにかをとりだす。
言われた通りに利文は着た。
「全裸より変態な格好だね。利文。」
涼之介が笑いながら言う。
「なんだこれ?ベルトを全身に巻くことに何の意味が?」
利文がイラつきながら質問すると、
バッグスはホワイトボードの”·右トリガーボタン→操作譲渡”を指して、
「そのベルトは、君の動きを人形に真似させる。」
と言った。
「本当だ!利文と同じ動きをしている。」
モニターに映った人形の動きは、ㇳとシンクロしている。さっきまでの身体性が欠如した人形とは思えない。まさしく人の動きだ。
「人間では不可能な動きをコントローラーで!人間の動きをそのベルトで!ってことですね。バッグスさん!」
涼之介が言った。
「ああ、その通りだ。そして、このマイクを通して音声を発することができる!」
バッグスは、マイクを取り出した。
「喋れんの!?完璧じゃん!」
利文は興奮気味に言った。
その時、一つ目の巨人が人形に襲いかかった!
すかさず、涼之介は1ボタンを押して巨人をズタズタに切り刻んだ。気づけば、辺り一面魔物に囲まれていたのだ。そして、息をつく間もなく狼のような化け物が人形の周囲を数十匹で囲い襲いかかった。涼之介は2ボタンを押し、襲いかかる魔物を次から次へと吹き飛ばした。
「やべぇ、楽しい!回転したまま街まで行こうかな?」
「おい、バカやめろ。バッグス、街までどのぐらいかかるんだ?」
「たぶん、三日かかる。」
「長っ!」
「だが、私たちにはつまらない旅の道中なんて不要だ!このピンを地図上に押せば一瞬で人形をその場所に移動させることができる!」
バッグスは、また得意げに今度は奇妙な地図を取り出した。
「ファストトラベルまでできるの?完璧じゃん!」
涼之介も興奮気味に言った。
遠隔操作に死角はない。完璧だと三人は思った。このときは。
あっという間に街の服屋に着いた。服屋の店員は、カウンターに頬杖をついてぼーっとしている。こちらが人形であるとは気づいていないようだ。服は、各々が適当に選び、人形に着せる用のものだけバッグスが選んだ。
バッグスはやけに服にこだわっていて、"どこで作られたのかをしっかり見せろ"と言い入念に服のタブを確認していた。涼之介は、人形の視点の切り替えの練習のためだと一瞬だけ考えたが、なんだか違うようだ。
さて、いよいよ店員との会話である。
『これ、ください。』
利文は抱えた服を差し出し、マイクごしに喋った。その動きは、ややぎこちない。
『大丈夫かな。緊張するな。』
涼之介がつぶやく。
『ここまでは完璧だ。問題ないはずた。』
バッグスも固唾を飲む。
『…。本当に大丈夫ですかね?凄い怪訝な目で見てますよ。あの店員。』
涼之介が気にしたので、利文が店員に聞く、
『どうしました?俺に何か?』
『あの、お客さん。お客さんから複数の男性の声が聞こえるんですけど、どういうことですか?』
『え、あっ!ちょ、切れ!スイッチ切れ!』
バッグスが叫んだので、利文はすかさずマイクのスイッチを切った。
「どどどどいうことだ?バッグス!?」
利文は動揺している。
「どうやら、マイクの集音範囲が広かったらしい。」
「広すぎだろ!!会話筒抜けじゃねーか!」
利文が突っ込む。
「利文、会話しないと!変な間があいてるよ!」
涼之介がモニターの店員を指さして言う。
「おい、どうやってごまかすんだよ!」
「いいから早く!何か言って!」
利文はマイクのスイッチを入れ咄嗟に思いついた言い訳を言った。
『い、いや〜、これ、俺のスキル何すよ。複数人の人間の声を出せるってね!』
下手くそー!なんだ、その言い訳!
涼之介は心の中で突っ込んだ。
「もういい、あんましゃべんな。とっとと商品受け取れ。バカ。」
小声でバッグスが利文に指示した。
『いや~、ははははははは。』
利文は愛想笑いでどうにかする作戦に移行した。怪しげな目で見つめる店員から、とりあえず服を受け取り、
『ありがとうございます。』
とお辞儀した。
と同時に、どんっ!と鈍い音がした。
「ん?どうしたんだ?頭が上がらないんだけれど。」
利文はお辞儀の姿勢のまま動けなくなった。
「あー!利文がお辞儀した勢いで、カウンターに人形の頭がめり込んでる!」
「はぁ!?何で!?ちょっと待て!全然身体動かないんだか?どういうことだ、バッグス!」
「さっき言っただろ?手応えがあるようにこだわったんだ。人間、何かに挟まったら、当然動けなくなるだろ?」
「そこにこだわるんだったら、まず力の加減を考えろ!お辞儀して顔がカウンターにめり込む人間なんていねぇだろうが!」
「落ち着け!正論を言うな。脱出の方法はある。鎌滝涼之介、4のボタンを押せ。それは近くの何かに頭突きをする技になっている。頭を振り上げた瞬間、操作を増上利文に譲渡しろ。」
「なるほど!わかりました!」
涼之介は言われた通りに4のボタンを押す。
かちっ。(4のボタンを押す音)
ドンッ!(カウンターに頭突きをする音)
カチッ。(操作譲渡ボタンを押す音)
カチッ。(操作譲渡ボタンを押す音)
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
「あれ?以外とタイミング難しいな?」
『お客さーーーん!!!』
向こうで店員が叫んでる。
「下手くそ!俺に貸せ!」
利文は涼之介からコントローラーを取り上げた。
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
かちっ。
ドンッ!
カチッ。
カチッ
「…。あれだ、お辞儀して前が見えねぇから、タイミングがわからん。」
「君たち…。バカだな。」
バッグスがあきれて呟いた。
『おーきゃーくーさーーーん!!!』
店員の悲痛な叫びが響き渡った。
「さて、服も買ったことだし本題に挑みますか?」
何事もなかったかのように涼之介が声を上げた。
「君たちのせいで、カウンターの修理代も余計にかかったんだがな。」
「ごめんなさい。」
涼之介と利文はバッグスに謝った。
「まあ、いいさ。まず、君たちに回収してもらいたい最初の壊れスキルは、空間を切り裂く能力だ。」
「おお、何かすごそうですね。」
バッグスは地図上の山に指を差し説明した。
「この壊れスキルを持った魔物がこの山と坑道に身を潜めている。壊れスキルによって切り裂かれ空間にあったものは、全て消滅する。これを山の土砂の中すればどうなる?」
バッグスの問いに利文が答える。
「多分、土砂崩れが起きる?」
「そんなレベルではない。山そのものが原型ほ保てなくなるほど、崩れ落ちる。魔物は山の麓に居る人間の全滅を狙っているんだ。」
「地形を変えるんですか!確かにそれは、世界を滅ぼせそうな力ですね…。」
バッグスは涼之介の言葉にうなずく。
「よし、じゃあ早速やろうぜ!その壊れスキルの回収を!何作戦だっけ?」
「リモート勇者作戦だ!」
利文の問いに大きな声でバッグスが返した。
「坑道に直接人形を転移させる。いくぞ?君たち。」
それを聞いた利文と涼之介が頷くと、バッグスが掛け声あげた!
「いくぞ!」
…。モニターには、何も映らない。
「?暗いですね?坑道だからですか?」
「いや、違う。人形には、操作不能なダメージを喰らったらラボまで戻るような仕掛けをしている。つまり、何だ。後ろを見ろ。」
涼之介と利文は言われた通りに振り向いた。
そこには、身体の半分が消滅した人形があった。
「坑道に入った瞬間、魔物から攻撃を受けたんだ。」
〈この世界の真実〉
とある学者達は、世界を滅ぼす力を持つスキルを”壊れスキル”と名付けた。