明け方の怪奇現象
私はご主人様のいる隣の部屋から聞こえてきた物音で目が覚めた。
窓の外を見るとすっかり真っ暗で、やや少しすると
明け方に差し掛かるかといった具合の頃合いだった。
隣からはガタ、ガタと物音が不規則に聞こえてくる。
静かなこの家の中でこんな音今まで聞いたことがなかった。
家には私とご主人様のたった二人しかいない筈なのに、
夜中にひとりでに物音がするのは明らかにおかしい。
もしかしたら、誰か侵入者が家に忍び込んできたのかもしれない。
寝ているご主人様の部屋には普段は入らない様にしているが、
手遅れになってはまずいので、失礼を承知で、
私は半開きのドアから物音の聞こえてきた寝室に体を滑り込ませた。
部屋に入り恐る恐る周りを見渡すと、窓の方は鍵がかかっており、
誰かが部屋に入り込んだ形跡はなかった。
どうやら私の気のせいだった様だ、部屋を後にしよう。
そう思って扉の方に体をむけたその瞬間、再び物音がした。
「誰だ。」
思わず私は驚いて短く声をあげ振り返った。
「何だこれは…」
誰も触っていないのに、一人でにケトルのスイッチが入ったのだ。
そして間髪入れずにステレオの電源が入り、気味の悪い音楽が部屋中に流れ始めた。
耳触りな音楽に加え、ケトルからは高音の沸騰音が部屋中に鳴り響く。
寝起きの敏感な聴覚に二つの音が同時に突き刺さって不愉快だ。
加えてテレビの電源も入ったのか、ざあざあと砂嵐が画面に投影された。
「一体なんなんだ、やめてくれ。」
必死に止めようとする私の努力も虚しく、家中のものが牙を向いてくる。
「だれか、助けてくれ。」
パニックに陥った私の叫び声に気づいたのか、ご主人様が目を覚ました。
「おいおい、落ち着いてくれ。」
ご主人様は私の頭を撫でてなだめる。
カーテンが自動で開き、お湯が湧いた合図をケトルが発する。
テレビの画面は砂嵐から早朝のニュース番組に切り替わり、
ステレオからはモーニングラジオの軽快な音楽が流れ出す。
すっかり朝の準備が整ったところで、窓の外にはうっすらと太陽がのぼり始めた。
ご主人様はベッドから降りて伸びをすると私の方を見下ろして笑った。
「驚かせてごめんな、今日から家中の家電をAIの自動制御に切り替えてみたんだ。
ただ、犬のお前にはちょっとまだ気味が悪かったかもな、悪い悪い。」
ご主人様が何を言っているのかはわからないが、
私はいつも通りの笑顔をみて安心した。
気味の悪い出来事だったが、
ご主人様がいつも通りなのを見ると特に問題はなさそうだ。
見えない同居人が新たに増えたとでも思えばいいのだろうか…




