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校長の決断

「あいたたた…」

広々とした校長室の中で、私は鋭い頭痛とともに目を覚ました。

働きすぎでいつの間にか寝てしまっていたのだろうか。


水を飲もうと、書類で散らかったデスクの上に置かれたコップに

手を伸ばそうとした瞬間、私は自分の身に起こっている異変に気がついた。

「何だこれは、体が縛られている…」

座っていたチェアの背もたれごと私の上半身はロープでぐるぐる巻きにされており、身動きが取れなくなっていた。


そして、再び強い頭痛が私を襲う。

「いたた…何がどうなっているんだ。」

目覚めたばかりでぼやけっぱなしの頭をフル回転させるが、一向に思い出せない。

すると、私の後ろの方から声が聞こえてきた。

「なかなかに立派な校舎じゃないですか。ねぇ?校長先生。」

ぎょっとして私は縛られた体をねじらせ、やっとの思いで後ろを振り返る。


するとそこには見慣れない男が窓側に持たれながら優雅に外の風景を眺めていた。

「誰なんだ貴様は。ここは私の部屋だぞ。」

「随分と偉そうな方ですね。

まぁ、こんなにも豪華に飾り付けられた執務室を見てから

うすうす気づいてはいましたが。」

男はニヤリと笑いながら、金色に輝く私の胸像の肩にそっと手を乗せる。


「今回ここに来たのは、ある交渉のためです。

とはいえ、頭を殴られ気絶させられた挙句にこうして縛られているあなたに、

もはや選択の余地などありませんが。」

「何の交渉なんだ、さっさと言いたまえ。」

「では早速ですが、あなた様からはあるものを盗ませていただきました。」

「なんだと、いったい私から何を盗んだんだ。」

私はとっさに部屋の中の金庫や壁の絵画、

デスクの上の重要書類などに目を走らせた。

「はぁ、どこ見てるんですか、全然違いますよ。

あなたにとって最も大事であるべきものです。」

そこで私はハッとした。

「まさか、子供たちか。」

「ご名答。この学校から丸々全員を盗み出しましたよ。」


男は持ってきたパソコンを目の前で開くと、校内の監視カメラの映像を見せてきた。

「ほんとだ…誰もいない…」

「現場を離れ、学校経営と己の資産拡大ばかりに傾倒してきたあなたがこうして、

きちんと学校の様子をきちんと見るのはいつぶりでしょうか。

なんとも皮肉なものですね。」

「なんということを、目的は金か、」

「今やこの校長室の中でしか生きていないあなたには

もったいないほど膨れ上がった、

莫大な個人資産の中のほんのお気持ち程度で結構です。

今から縄をほどきますので、こちらの画面で送金入力を。

あ、ちなみに机の上の電話はずっと前から

切ってありますので変な気は起こさない様に。」

「ぐぐぐ…従うほかないというわけか。生徒は何よりも大事な学校の宝だ。」


私は縄を解かれ、大人しく男の指示に従った。

「ありがとうございます。それでは子供たちはお返しいたします。」

男はニヤニヤ笑いながら部屋を出て行った。

しばらくすると、ノックの音とともに学校の教頭が入ってきた。

私は思わず席を立ち上がった。


「子供たちは、子供たちは帰ってきたのか。」

「ええ、さっき全校避難訓練が終わりましたので、

近くの指定避難所から全員戻ってきましたよ。」

「全校避難訓練…?」

「はい、開始前に電話しましたがお出にならなかったので。

問題ございましたでしょうか。」

「い、いや…経営で忙しくて、

このところすっかり現場のことや行事ごとは把握していなかったもので…」

私は情けなさで頭がいっぱいだった。


様々な感情が渦巻く脳裏にニヤニヤ笑う男の説教じみた言葉がよぎる。

「私が現場のことを疎かにしていたことに付け込まれたというわけか。

なんとも悔しいがこれも一つの授業料として受け入れるべきなのだろうか…」


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