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等価交換ポスト

ある日、街中に点々と大きなポストの様なものが設置された。

表面には「等価交換ポスト」とあり、大きな扉を開けて、

何かを放り入れしばらくすると同じ価値の物を吐き出すのだ。

政府主導で実験的に設置されたこの装置は、

現代の大量消費と廃棄の連鎖を変えるため、誰かのいらなくなった物を、

他の誰かのいらない物と交換するという機能を持っている。


全てのポストは地下の大きな倉庫の様な空間とつながっているとのことで、

その中では刑務所から借り出された囚人が仕分けにこき使われているだとか、

逆に最先端のテクノロジーで徹底的に管理されているだとか、

装置に関しての多くの噂が飛び交った。

突如始まった制度に初めは違和感もあったが、定着した今となっては、

ゴミ箱に捨てるくらいならおみくじ感覚で何か引いてみようと、

みな軽い気持ちで使う様になった。


都市部に暮らす私は、知人と散歩しながら、公園の中のポストに立ち寄った。

「何か入れるのか?」

「ああ、もうこの万年筆に飽きてしまってな。

最近文章を書く機会も減ってきたところだから、試しにな。」

「でもそれ高かったんだろう、いいのか。」

「だからこそ気になるんじゃないか。

これと同じ価値の何かに出会ってみたいのさ。」

私はポストの扉を開け、綺麗な装飾がされた万年筆をそっと入れた。

扉が閉まると、地下からエレベーターが上がってきたのか、

中から機械音が聞こえ始め、少しすると自動的に扉が開いた。


「ほう、これはいい。」

目の前にあったのは古風な一眼カメラだった。

「古くさいが、ものは良さそうだな。新しい趣味にしたらどうだ。」

「そうだな、確かに写真には前から興味があったんだ。

これを機会に挑戦してみるのもいいかもしれないな。」

今回の交換はうまくいった様だった。

もちろん、必要のない自転車とか料理器具が

出てくる時なんかはかなりがっかりするが、

こうして新しい発見や驚きに出会うたびに、この装置の虜になってしまう。


手に入れたてのカメラを嬉しそうにいじる私をよそに、

知人は装置の扉の中を興味津々に覗いている。

「にしてもこの装置がつながっている地下倉庫ってのはどんな感じなんだろう。

交換待ちの物すごい高価な物とか、面白いものが眠ってるんじゃないかな。」

「かもな。でも地下倉庫の様子や内状を知るのは政府の人間だけだからな。

中の情報や物品だって、法律で固く守られてるはずだ。」

「なんだか急に気になってきたな…あっ、そうだ。」

何かを閃いた知人はポストの扉を開け、自らの体を押し込める様に中に入り始めた。


「おい、何してるんだ。」

「物は試しだ、ちょっくら倉庫を見てみたくてね。

もしいいお土産でも見つけたら、その時は持ってきてやるよ。」

「待て、でもそんなの犯罪じゃないか。一旦冷静に…」

私が言い終わらないうちに知人は自ら扉を閉め、

装置内のエレベーターによって地下に送り出されてしまった。

「ああ本当に行ってしまった…いったいどうなるのだろう。」

しばらくするとエレベーターが地下から上がってくる音が聞こえた。

「なんだ、やはり物じゃないから交換されずに送り返されたか。」

ほっとした私は装置の扉を開けて驚いた。


そこには知人ではなく、見慣れない囚人服姿の男の姿があったのだ。

その男は狭い装置から出てくると大きく伸びをする。

「久しぶりの外の世界、俺はもう自由だ。

まさか地下倉庫で等価交換の刑務作業中に、

よりにもよって上から犯罪者が降りてくるとはな…

しかも俺の残り刑期と釣り合う程度の罪の重さときた。

等価交換の相手としてはぴったりだ…」

どうやらこの装置、人間の価値まで見定めて交換してしまうようだ。


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