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誰でもアナウンサー

アパートの一室で、俺はテレビをつける。

いくつかチャンネルを回して時間を潰していると、目的の番組が始まった。

「そ、そ、それでは本日のニュースです…」

顔中にびっしゃりと冷や汗をかいたTシャツ姿の若い男が、

しどろもどろになりながらニュースを伝える。


普通の番組ではありえな光景だが、この番組ではよくあることだ。

ニュースを伝えるアナウンサーを公募し、

当選した一般市民がテレビに出て昼過ぎのニュースを伝える、

「誰でもアナウンサー」は始まって以来、この時間帯の人気番組になった。

毎回老若男女様々なアナウンサーが登場し、

おちゃらけてふざける奴もいれば、自信満々にやり遂げる奴もいる。


「あ、えっと。次のニュースは、記帳、じゃない。気象情報で…」

いろいろなのがアナウンサーとして出てくる番組だが、今日の奴は特にひどい。

他の人の放送を見て自分にもできると思ったのだろか。

まぁいい。俺はこういう、ただの出たがりな奴らとはわけが違う。

俺は手元にあった番組の当選葉書を見た。


【ご当選おめでとうございます。

あなた様が9月16日放送担当のアナウンサーです。】


明るい色使いの葉書には、

俺がアナウンサーとして番組に登場することを告げる文言が。

最も、この番組に俺が出る真の狙いは、

つまらないニュース原稿を読み上げることではない。

いわばこれは電波ジャックの貴重な機会だ。

腐った社会を変えるべく、俺の思想や野望を全国民に伝えるため番組に応募した。

「待ってろよ。俺がこれからの社会を変えるんだ。

この放送は記念すべきその第一歩だ…」


そうして放送当日になり、スタジオに通された俺はアナウンス席に座った。

簡単な打ち合わせが終わるとあっと言う間にリハーサルが始まった。

席に着くと、俺の目の前には想像以上の数の観客とスタッフが座っていた。

どうやら皆、今日のアナウンサーはどんなやつなんだろうと、

連日スタジオに見物に押しかけているらしい。


沢山の照明が焚かれると、今までに浴びたことのないような強い光が俺を包んだ。

思わず汗をかくような熱線を当てられ続けているうちに、

視界はどんどん狭くなっていった。

わずかに見える照明の向こう側では、

腕を組んだディレクターや関係者が俺を睨みつけてくる。

照明の熱でかいた汗なのか、緊張の冷や汗なのかもわからない汗で、

いつの間にか俺の顔はぐっしょり濡れていた。


胸元に違和感を感じるほど心臓はバクバクと収縮と拡大を繰り返し、

耳鳴りもしてきた。

「はい、それでは本番始まります。カウント10秒前、10、9、8…」

まずい、いつの間にかリハーサルが終わっていたようだ。

無情にもカウントダウンは俺の気持ちと裏腹に進み続け、

刻一刻と本番が近づいてくる。

これまでの人生で味わったことのないような緊張感に俺はすっかり参ってしまった。


「3、2、1、本番スタートします。」

テレビで聴き慣れていた番組のイントロ曲が鳴る。しまった、本番だ。

この席で高らかに語るつもりだったスピーチ内容もほとんど飛んでしまった。

「あっ、えっと。」

頭が真っ白になった俺は藁にもすがる思いで、目の前の原稿を手繰り寄せた。

「そ、そ、それでは本日のニュースです…」


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