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それぞれの救世主

「なんてことをしてくれたんだ、

おかげで町は食糧難に追い込まれることになるんだぞ。」

小さな町にある唯一の食糧庫は、男が鍵をかけ忘れたせいで、

見るも無残に害獣に食い荒らされていた。


町での仕事を与えられ、

大きなミスを犯すたびに転々と持ち場から追い出され続けていた男は、

とうとう食糧庫の倉庫番しか仕事がなくなっていた。

しかし、こうして倉庫番としても働けなくなってしまった今、

男は窮地に追いやられていた。


町の人々は男の処分について相談し合う。

「なぜあいつに食糧庫を任せたんだ。この状態でどうやって冬を乗り切るんだ。」

「しかしもうあそこしか働かせる場所がなかったんです、

みんな巻き込まれるのを嫌がってしまって。」

「この責任は重くなるぞ。

働きで挽回できるほどの能力も無い以上、町を追放する他ない。

第一、こうなってしまった以上穀潰しの面倒を見るほどの食料もないのだから。」

こうして男は町を追い出されてしまった。


男もこれは自分のせいだと頭では分かっていたものの、やはり悲しかった。

とぼとぼと町を出て歩き続けていると、

いつの間にか町からだいぶ離れた荒地に流れ着いていた。

そこで男は小さな集落を見つけた。

集落の人々は通りすがりの旅人を歓迎し、迎え入れた。

集落では町と違い文明や生活様式は発展しておらず、

やや原始的な暮らしが行われていた。


男はしばらく過ごしたある日、用水路の欠陥に気づき近くの農民に声をかけた。

「この作りだと雨の日に洪水を起こして溢れてしまいませんか。

逆流しないようにかえしをつけてはいかがでしょう。」

農民は目を丸くして驚いた。

「確かに。今までずっとこうしてきたので、

そういうものだと思っていましたが確かにその通りです。

よくひと目見ただけで気付きましたね。」

男は街にいた頃。農地で働いていた時に、

これより進歩した用水のつくりを見ていたので無理もない。

「ちょっとそれでしたら、こちらの部分も見ていただけませんか…」

そうして男は集落じゅうで引っ張りだこになった。


「あなたは集落の救世主だ、おかげでどんどん生活が向上していきます。

どうぞここに残って発展を支えてください。」

男は嬉しかった。自分の活躍できる場所をとうとう見つけたと思ったのだ。

「ええ、私でよければ是非…。」


一方、男を追放した後、町では食糧難の冬をどう乗り切るか苦心していた。

「穀物がないとなるとこの冬は絶望的だ。

今から育てるにしても到底間に合わない。」

すると、その会話を遠くで聞いていた旅人が近寄ってきた。

「食糧難でお困りのようですね。良い解決案がありますよ。」

「なんだ、教えてくれ。」

「狩りをするんですよ。幸いここから少し離れた山には良い狩場があります。

沢山鹿や兎がいますから、冬を乗り切るには十分な食料が確保できます。

文明が発展しており、原始的な狩りをしたことがないでしょうから、

そこは私が手ほどきしましょう。」

「素晴らしい。ぜひとも暫く町に留まってくれないか。君は救世主だ。」

「ええ、私で良ければもちろんですとも。」

町から遠く離れた荒地の集落を追放され、

行く先もなく町にたどり着いていたその旅人は嬉しそうにうなずいた。

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