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自動販売機

「今日はどれにしようかな。」

自動販売機の中に並ぶ夕飯を前に悩む。

最後に店でご飯を食べたのはいつだろう。

飲み物は隣の自動販売機で買ったし、

デザートも食後用の自動販売機に買いに行く予定だ。


「しかし、この辺りも皆すっかり自販機になってしまったな。」

今見ている自動販売機の横に目を映すと、様々な自動販売機がずらっと並んでいる。

人件費の高騰や土地価格の上昇で店を構えることそのものが難しくなり、

いつからか買い物はほとんどが自動販売機で済まされるようになった。

味気ないと思うかもしれないが、こう見えて気楽で良いものだ。

買い物の時に人目を気にしなくて良いので、

ちょっとした買い物のためにわざわざ身嗜みを整えなくて良いし、

慣れてしまえばもたもたした会計を待つより自分で済ませた方がよっぽど早く済む。


「よし、決めた。これにしよう。」

今日はレトルトのカレーにしよう。レトルトといっても最新鋭の自動販売機のため、

機械の中で一から調理は行われるのでさながら店の味と変わらないレベルだ。

お金を入れ、自動販売機のボタンを押す。が、何も出てこない。

「おかしいな、故障かな。」

こうなると厄介だ。問い合わせ用番号を探して管理会社に電話しないといけない。

大きな機械の裏側に回り込んで番号を探そうと機械に手をかけかがみ込むと、

手が何かのボタンに触れたのか、機械の扉が開き何か大きなものが転がり出てきた。

よく見るとくたびれた老人だった。


「ありゃ、見つかってしまいましたか。このことはどうか内密にお願いできませんか。」

「なんです、あなたは。もしかしてずっとこの中に…?」

「はい、昔はここに店を構えてお金が無いながらにも頑張ってたんですが、

悲しいかな、食事の時くらい一人になりたいって方が増えてしまいましてだんだんみんな離れて行ってしまったんです。

世間話のひとつでもしながら自分の作った料理を食べてくれるお客さんを見れなくなったのは残念ですが、これも時代ですからね…」

老人は寂しそうに、街頭を浴びて光り輝く大きな機械を見て言う。

「な、なんだ、じゃあ私が自動販売機だと思ってたのはずっとあなたが中に入ってただけなのか。」

「ええ、そうなりますね。随分といつも独り言を言われながら買われているなと思いながら中で料理を作っておりました」


私は形容しがたい不気味さに駆られた。

「ずっと機械だと思ってたが鉄の板一枚向こうには人間がいたのか。

勘弁してくれ、なんだか気持ち悪くなってきた。」

「あぁお客さん、お待ちを、まだ料理が。」

「そんなものいらんよ、気味が悪いから帰らせてもらう。」

そういって私はその場から逃げるようにして走り出したが大きなケーブルにつまづき転んでしまった。

「おい、誰だ電源コードを抜いたのは。真っ暗じゃないか。」

転んだ目の前の他の自販機から眠そうな顔の男がぬるっと現れた。

「あぁ、ああ。」

呆気にとられているうちにぞろぞろと、並ぶ自販機から汚れた姿の人々が現れ始めた。

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