厳重なセキュリティ
「ものすごいセキュリティの厳重さだな。」
「社長室ともなるとやはりここまで手が込んでくるのだな。」
2人組の産業スパイは深夜のオフィスビルの一角でヒソヒソと話す。
「この社長室に入るためには指紋認証と網膜認証が必要だ。いけそうか。」
「ああ、どちらも対策済みさ。
なんなら声帯認証まで用意していたんだが、どうやら準備しすぎていたようだ。」
「いやいや、こういうのは用心に越したことはない。
なんせ相手は超有名企業の社長なんだ、この先も油断はできない。」
2人は用意した、人の頭部の形の装置の電源を入れると、扉の前に近づけた。
「うまく認証を解除したらしいな。さあ入るぞ。」
扉の鍵が解除されると2人は社長室の中に入った。
「このパソコンの中に俺らの狙っている情報がある。電源をつけよう。」
電源をつけたパソコン画面にはパスワードを求める文言が。
「なんと、ここに来て古典的なパスワード方式か。
最先端の指紋や声帯認証を使ったログインの対策しか準備をしていないぞ。
参ったな、こうなると総当たりで候補を調べるしか無い。」
「いや待て。どうやら天は俺らに味方したらしい。」
スパイの片方はパソコン脇に貼ってある小さな付箋を見つけた。
「『タンジョウビが鍵』だって?おいおい、こんなとこに正解が落ちているとは。」
「これでだいぶ候補が絞れたな。
本人、家族、愛人…様々な関係者の誕生日を入れよう。」
2人は今まで集めたファイルや部屋の中の情報をもとに候補を入れ続けた。
「かれこれ1時間やってみたが全然だめだな。ほんとに正解はあるのか?」
「こうなったら奥の手を使おう。キーボードの指紋を調べるんだ。」
「なるほど、社長が押したキーボードから組み合わせを割り出せば良いのか。」
そうして、キーボードに特殊なスプレーを吹きかけると、ゴーグルで確認した。
「おい、なんで数字のキーボードが押された形跡がないんだ。」
「ほんとだ。おかしいな、付箋はフェイクだったか。」
「自分の部屋にフェイクのパスワードを置いておくはずがないだろ。」
パソコンを前にスパイたちが話し合っていると、
廊下の向こうから歩いてくる音が聞こえてきた。
「まずい、社長が戻ってきたぞ。今日は会食の筈だろ。」
「俺に聞くなよ、いいから急いで逃げるぞ。」
2人が大急ぎで痕跡を消して部屋を逃れると、
その直後に入れ替わりで社長が部屋に入った。
「会食帰りに大事な資料を送っておくのを思い出してよかった。
ええと今週の合言葉は何だったか…毎週変わるとなるといちいち覚えてられん。」
社長は机の上の付箋を確認すると、
パスワード欄にカタカナで「タンジョウビ」と入力してログインした。




