表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/60

駆け込んできた客

「ふざけんじゃねえよ、いい加減にしやがれ。」

声を上げながら酔っぱらった宿泊客がフロントカウンターの向こう側で声を荒げる。

正直なぜ私が今こうして怒られているのかもよくわからない。

治安の悪い場末のホテルで働いていると、

どうしてもまともじゃ無い客の方が多くなる。


「ったく使えねえフロント係だな。こんなホテル、クソ食らえだ。」

よくもまぁバリエーション豊かな罵詈雑言を思いつく物だと感心する。

だが仕方ない、このホテルで働いている以上はこういう客も避けては通れないのだ。

まわりの友人はみな口を揃えて、他の治安の良いホテルに転職すべきだと言う。

確かにホテルの中でのトラブルや犯罪行為などに初めのうちは驚き転職も考えたが、

驚くべきことにこれも人間の性なのか、

いつの間にかこの狂った環境にも慣れてしまった。


考え事をしながらフロントを掃除していると、若い男がホテルに駆け込んできた。

「お、おい。頼むからすぐに泊めてくれ。理由は言えねえが追われてるんだ。」

「しかしこの時間はまだチェックイン時間の前でして。」

「わ、わかってる。チップは多めに払うから、こ、この通りだ。」

男は震える手で高額紙幣を何枚か私の目の前に差し出した。

そういうことなら話は別だ。私はにこやかに対応する。

「3階のお部屋でしたらすぐにご案内できます。

万が一、お客様のことを探しにきた方がいらっしゃいましたら、

内線でこっそりお知らせいたします。」

「あ、ありがてえ。よろしく頼んだぜ。」

男はルームキーを私の手から奪い取ると部屋へと駆け込んだ。


しばらくすると別の客がフロントへやってきた。

深めに帽子をかぶっており表情はよく見えないが、

物凄い殺気を静かに放っている。

「さっきここに呂律の回らない男が来なかったか。

野郎俺らのブツを盗んで行きやがった。今すぐ通した部屋を教えてくれ。」

「申し訳ございません、お客様の情報は規則によりお教えしかねます。」

「ああ、だろうと思ったよ。いいから黙ってこれを受け取ってくれ。」

その客は先ほどの倍の額の紙幣をカウンター置いた。私は内心にやりとした。

部屋の番号を教えると、すばやく内線でさっきの男には逃げるように合図をした。


「私、実は警官でして。麻薬密売組織の捜査の一環である一味を追っています。

先ほどここに、こういう男が来ませんでしたか。」

次に来たのは変装した秘密警察だった。

マニュアル通り、客の情報を教えるのを断ると

警察はやれやれと言った顔で封筒を差し出した。

「このことは他の方には内密に。

なんとしてでも今回は逃すわけにはいかないのです。」

封筒を開けると中にはぎっしりと札束が入っていた。

私が情報を教えた数分後には、

警察は満足そうな顔で麻薬組織の男を捕まえてホテルを出ていった。


「はぁ、怒涛の展開だったな。この数分でいくら儲けたんだろう。」

とんでもない額に膨れ上がったフロント係へのチップを確認しながら、

私は思わずにんまりした。

皆は転職しろと忠告するがこんなに良いホテル、辞められるはずがない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ